030 絶望と後悔

 弟くん収穫祭の初日は、あれ以降何事もなく終わった。


 そして深夜の時間帯も誰か来ることが無く、現在は二日目の朝9時である。


 平和だが、これで終わりだとは思えない。


 いつシスターモンスターが来てもいいように、俺たちは待機している。


 ちなみに、昨日ロリ―ちゃんが掘った穴や一部を破壊した第1プレートであるが、そのままにしていた。


 理由としては、そもそも補修などできないし、時間をかけて土をかけたところで一瞬で掘り返されてしまう。


 また、補修作業中にシスターモンスターが来たら一巻の終わりだ。


 秘密基地に籠っている意味がなくなってしまう。


 そういうことで、ロリ―ちゃんが掘った穴や第1プレートはそのままという訳である。


「凛也君、また来たわ……それも、一人ではなさそうよ」

「マジかよ……」


 鬱実の指さすモニターの一つには、何やら人影が写っている。


 よく見れば、先頭にはロリ―ちゃんがおり、その後ろに大勢のシスターモンスターが見えていた。


 ぱっと見だが、全部で20人~30人はいるように見える。


 しかもそれぞれシャベルやつるはしを持っており、やる気満々だ。


『ふふふ、ロリ―ちゃんが帰ってきたわよ! たくさん仲間も連れてきたんだから! これで、あんたもお終いね!』


 高らかにそう言って残虐そうな笑みを浮かべるロリ―ちゃん。


『すごい! 本当に何かある!』

『これって地下に家があるのかな?』

『どんなお兄ちゃんがいるんだろう?』

『たのしみー』


 対して、集まったシスターモンスター達はまるでピクニック気分のようだった。


『あんたたち! それじゃあ、やるわよ!』

『はーい!』

『しょうがないにゃぁ』

『お兄ちゃんを発掘ダー!』

『弟くん待っていてね』


 そして、シスターモンスター達が穴を掘り始め、プレートを破壊し始める。


 これは流石に不味くないか? ロリ―ちゃん一人ならどうにかなったけど、約30人も集まればどうにかなってしまう気がした。


「不味いわね。もしかしたら、破られるかもしれないわ」

「――ッそれは本当にヤバいな」


 いつもふざけている鬱実が、今回ばかりは誰が見ても分かるような焦りを見せている。


「ど、どうしましょう……」

「そ、そうだ。裏口みたいのはないんですか?」


 夢香ちゃんも焦り、瑠理香ちゃんは裏口が無いか鬱実に訊いた。


 確かに、裏口のようなものがあれば、もしものときは脱出することができる。


「ごめんなさい……裏口はないわ」

「そんな……」

「うそでしょ……」


 しかし、残念ながらこの秘密基地に裏口は無いようだった。


 つまり、逃げ道は無い。


 全てのプレートを破壊されれば、この秘密基地に侵入されるのも時間の問題だ。


「くっ、突破されないことを祈るしかないな」

「そうね……」


『あははっ! やっぱりパワー系がいると早いわね! 昨日の作業が嘘のようだわ!』

『兄貴に会うためなら頑張るぜッ!』

『ふんっ、引きこもりの愚弟をさっさと引きずりだしてやる!』


 俺たちが落ち込んでいる間にも、シスターモンスター達の作業は順調に進む。


 また穴が広がったことで、プレートを破壊しようとしているシスターモンスターをモニターから確認できるようになった。


 比較的身長の高いシスターモンスターが中心であり、つるはしを振り下ろす速度が尋常ではない。


 ロリ―ちゃんの言っていたパワー系というシスターモンスター達だろう。


「なんだよパワー系って……」

「あれでは、あっという間に……」

「どうしよう……」


 残り二日間も耐えられるのか不安になってくる。


 だがそれでも、俺たちにできるのは見守ることだけだ。


 そうして時間が過ぎていき、気が付けば二日目が終わっていた。


 プレートは既に何枚も破壊されており、残りは少なそうである。


 どう考えても、三日目中に突破されるのは目に見えていた。


 ははっ、やっぱり最後はこうなるのかよ。


 一時は、お兄ちゃん保護法で希望が見えていた。


 この秘密基地があれば、きっと生き残れる。


 そんな希望に満ちていた。


 三人への返事をどうするかなど、俺の危機意識はまるでない。


 これまでどうにかなっていただけに、俺はシスターモンスターをどこか甘く見ていたのだ。


 その結果が、これである。


『もうすぐ会えるからね! このロリ―ちゃんに目をつけられたのが運の尽きよ!』

『お兄ちゃん!、お兄ちゃん!、お兄ちゃん!』

『弟くん!、弟くん!、弟くん!』


 シスターモンスターは楽しそうに破壊を続けていた。


 諦める様子はどこにもない。


 そして、とうとう天井から破壊音が聞こえてきた。


「もう、無理そうだな……」

「そんな……」

「うぅ……」


 夢香ちゃんは絶望した顔になり、瑠理香ちゃんは涙を流す。


 二人とも、もう助からないことを理解しているのだろう。


 「……」


 あれだけ騒がしい鬱実も、終始無言だ。


 これは、本当に終わったかもしれない。


 バッドエンドだ。


 ゾンビものの映画でも、バッドエンドはよくある。


 現実世界の一般人である俺たちが、こうした終わり方をしてしまうのも必然なのだろう。


 もっとあれをしておけばよかった。これをしておけばよかったと、つい考えてしまう。


 最後なら、最後なりに言った方がいいよな。


「三人とも、聞いてくれ」


 俺がそう言うと、三人の視線が俺に向いた。


「こんなことになってしまったが、最後に言っておく。俺は、三人のことを愛している。死んでも、愛し続けることを誓う。はは、もっと早く言えばよかったな。ごめん」

「凛也先輩……」

「凛也お兄ちゃん……」


 俺の言葉を聞いて、夢香ちゃんと瑠理香ちゃんが俺に近づき、ゆっくりと抱きつく。


 当然、俺も二人を抱きしめた。


「本当に、遅すぎますよ……でも、うれしいです」

「うん。最後にこんな幸せなら、怖くないよ」


 涙を流して微笑む二人につられて、俺も笑みを浮かべて涙を流す。


 本当に、どうしてこうなったんだろうな……。


 俺たち三人がそんな心情でいると、反応の無かった鬱実がようやく動き出した。


「ふ、ふふふ。勝った。最後に勝ったわ。これで、あたしが女王よ」

「は?」


 何を言っているんだ? とうとう本当におかしくなったのか?


 俺は一瞬、鬱実が何を言っているのか理解できなかった。


 それは二人も同様のようだ。


「時間がないわ。三人とも、ついて来て」

「ちょっ! どういうことだよ!」


 鬱実はそれだけ言うと、秘密基地の奥へと歩き出す。


 くっ、今はついて行くしかないか。


 どういうことか分からないが、俺たちは鬱実の後を追いかけた。


 辿り着いたのは鬱実の部屋であり、既に壁には見慣れない扉がある。


「なんだよこれ……」

「もしかして、裏口でしょうか?」

「えっ、でも無いって言ってたような……」


 突然現れた扉に、俺たちは動揺どうようした。


「大丈夫よ。ついて来て」


 鬱実はそう言うと、扉を開いて先へと進んでいく。


「と、とにかく今は鬱実について行こう」

「そ、そうですね」

「うん」


 何が何だか分からない状況の中、俺たちは扉の奥に進む。


 壁は全面鉄のようなもので覆われており、ところどころ青い光が走っている。


 まるで、SFの世界に入り込んでしまったようだった。


「こんなところがあったのか」

「凄いです。でも、なんで今まで教えてくれなかったのでしょう?」

「何だか、るり不安になってきました」


 鬱実の行動はこれまでもおかしかったが、これは次元が違う。


 この先に何が待っているのか、俺たちが不安になるのも仕方がなかった。


 そうして長い廊下がしばらく続き、巨大な部屋に出る。


「まじ、かよ……」

「これって、夢ですか?」

「ほぇぇ……」


 俺たちは目の前の光景に驚き、夢ではないかと疑ってしまう。


 なぜならば、そこには巨大な宇宙船と思われる物体が存在していたからだった。

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