029 現れるロリ―ちゃん

 朝からちょっとしたハプニングがあったが、軽く朝食を食べて一息ついた。


 相変わらずタブレット端末から調べた外の情報は悲惨だが、この秘密基地は至って平和だ。


 しかし、気を抜くことはできない。


 シスターモンスターがやってくれば、基本的に耐えるしか方法がないからだ。


 普通のゾンビものの映画であれば、銃などで応戦する光景をよく目にする。


 だがシスターモンスターには、たとえ銃があったとしても勝つことはできない。


 実際にシスターモンスターに暴力を振るう映像があったのだが、謎の光に阻まれて傷を負わせることができないようだった。


 更にその結果シスターモンスターは激怒して、その人物が何を言おうと聞く耳を持たず、最後は噛まれてしまう。


 ちなみに、海外で銃をシスターモンスターに撃つ動画もあったが、同様の結果だった。


 つまり、シスターモンスターに対する暴力は意味がなく、倒すには何らかの方法でシスターモンスターを満足させるしかない。


 またシスターモンスターによってその満足する状況も異なるので、倒すのはとても難易度が高かった。


「凛也君、来たわ」

「まじかッ!?」


 すると、鬱実がそう言ってモニターを指さす。


 俺は驚きつつも、とうとう来てしまったかと冷や汗を流した。


 そして、モニターの一つを見てみると、そこには見たことのある人物が一人いる。


 私立中学校のような制服を着た金髪ツインテールでツリ目の少女。そう、ロリ―ちゃんと名乗ったあのシスターモンスターだった。


『絶対ここだわ! この近くにいるはずよ! ロリ―ちゃんには分かるんだから!』


 鬱実が何かリモコンを操作すると、スピーカーからロリ―ちゃんの声が聞こえてくる。


 やはり、ロリ―ちゃんは目をつけた人物、つまり俺の居場所が何となくわかるようだった。


 しかしそれは何となくであり、ここまでやってくるのにも、それなりの時間がかかったと思われる。


 でなければ、もっと早く来ていてもおかしくはない。


『どこ! どこにいるの! 隠れているんでしょ! 出てきなさい!』


 ロリ―ちゃんは声を荒げながら、文字通り草の根を分けて探し始める。


 そして数十分後、秘密基地の入り口をロリ―ちゃんがとうとう見つけてしまう。


『なにこれ!? ……もしかして、この下にいるのね! あいつの気配を感じるわ! 待ってなさい!』


 そう言って入り口のハッチを叩き始める。


 素手で叩いているはずだが、痛くないのだろうか? 画面越しではわかり辛いが、もしかしたら見た目以上に威力があるのかもしれない。


 だがそれでも、素手で破壊できるほどこのハッチは軟ではなかった。


『何なのよこれ! 全然壊れないじゃない! そうだわ! 地面に穴を掘ればいいのよ! ロリ―ちゃんはやっぱり天才ね!』


 すると、続いてハッチ付近の茂みをむしり取ると、近くの地面を掘り始める。


 まるで犬のように掘るロリ―ちゃんだが、素手とは思えない速度で地面を掘っていく。


 これは、まずいのではないだろうか。


 正規の入り口を無視して、天井を破られたらそれで終わってしまう。


 俺は鬱実に視線を向けると、鬱実はこちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。むしろこっちの方が強固なの。入り口を無視して入ってくるのは想定済みよ」

「……なるほど。それなら、何とかなりそうだな」


 鬱実の想定済みという発言には若干違和感があるが、俺は気にしないことにした。


 ここでそれを追及したところで、プラスになることは無い。


『やったわ! これって天井よね! 直ぐにぶち破ってやるわ!』


 ロリ―ちゃんは既にモニター外へと掘り進めているので、僅かな声だけが聞こえてくる。


「ふふ、それは天井では無くて、第1プレートよ」


 自信満々にそういう鬱実の言葉から、何か壁のようなものがあるのだと理解した。


 また第1ということは、複数あるのだろう。


 それから数十分変化が無かったが、穴から出てきたロリ―ちゃんがモニターに映る。


『くそくそくそ! ロリ―ちゃんは絶対に諦めないわ! 少し待ってなさい!』


 そんな風に捨て台詞を吐くと、ロリ―ちゃんは山を下って行った。


 どうやら、素手ではどうにもならないと考えたのかもしれない。


 あの様子だと、しばらくしたら再びやってくるだろう。


「や、やりましたね。でも、また来そうです……」

「あの子って、確か中学校で襲ってきた子だよね……何でここに……」


 夢香ちゃんと瑠理香ちゃんは、ロリ―ちゃんが去ったことに安堵しつつも、やはり襲ってくることに恐怖を感じているようだった。


「二人とも安心して、あのシスターモンスターが例えつるはしを持ってきたとしても、三日でどうにかなることはないわ」

「ほ、本当ですか!?」

「す、凄いです」


 この時ばかりは、鬱実が頼もしく見える。


 そうしてロリ―ちゃんが戻ってきたのは、午後のことだった。


『これであんたもお終いよ! ロリ―ちゃんを舐めないでよね!』


 たくさんの工具を持ってきたロリ―ちゃんは、そう声を上げると、再び穴の中で作業をし始める。


 シスターモンスターの体力は無尽蔵なのか?


 モニターには見えないが、何かで鉄を叩くような音が永遠と続いている。


 ロリ―ちゃんも諦める気はないらしい。


 逆に大丈夫だと分かっていても、こちらの精神が削られていく。


「凛也お兄ちゃん……」

「大丈夫だよ」


 不安そうに俺の名前を呼ぶ瑠理香ちゃんの手を、俺は握ってあげる。


「り、凛也先輩、わ、私も」

「あ、ああ」


 続いて夢香ちゃんの手も握った。


「うぅう。あたしも凛也君と手を繋ぎたいぃ」

「ちょっ、鬱実! どこ掴んでいるんだよ!」


 すると鬱実が俺の腰に両手を回して抱きついてくる。


 必然的に、鬱実の顔は俺の股間付近になってしまう。


「はぁはぁはぁ、凛也君のにおいがするぅ」

「う、鬱実さん! なんてうらやまっ、はしたないですよ!」

「ちょ、ちょっと流石にそれは駄目だよ!」

「鬱実離せ!」

「も、もうちょっとだけ……むぅっ!?」


 縋りつく鬱実は凄い力だったが、三人がかりでどうにか引きはがすことに成功した。


 こんな時に何をふざけているんだ……。


 もしかして暗い雰囲気を無くすために、わざとこんなことをしたのか?


「うぅう。あたしのオアシスが~」


 いや、それは考えすぎだったな。鬱実だし、本能のままに行動したのだろう。


「もうっ、さっきはカッコいいと思ったのに……」

「やっぱりいつもの鬱実お姉さんでしたね」


 ほら見ろ、二人も呆れているぞ。


 そんな出来事を挟みつつ、数時間が経過した。


『やったわ! 穴が開い……うそでしょ……』


 喜びから絶望へと変わたロリ―ちゃんの声が聞こえてくる。


 どうやら、第1プレートとやらに穴を開けたようだが、おそらく第2プレートが現れたのだろう。


『うぅ。こんなのあんまりよ! 無理! ロリ―ちゃんだけじゃできない! 嫌い! 嫌い! 大っ嫌い!』


 ロリ―ちゃんは悲痛の叫びを上げると、工具を捨てて走り去っていった。


 これは、勝ったということだろうか。


「やりましたね!」

「あのロリ―ちゃんが逃げていくのは見ていて気分が良いです!」

「ふふ、あたしの秘密基地は最強よ」


 三人も喜んでいる姿を見て、俺もようやく勝ったことを受け入れる。


「やったな! これなら、この三日間も乗り切れそうだ」

「そうですね! 何人来ても、大丈夫そうですね!」

「うんうん!」

「ふふふ、凛也君、もっと褒めていいのよ?」

「そうだな、今回は素直に助かったよ。これも、鬱実がこの秘密基地を持っていたおかげだ。ありがとな」

「ふぁあっ、凛也君があたしを褒めてくれたぁ! これはもう、エッチシーン突入不可避ね!」

「いや、突入しねえから!」

「そんなぁ!」


 そうして俺たちは初日の勝利を祝い、夕食は少し豪華になった。


 けど、まだ安心はできない。


 弟くん収穫祭はまだ二日残っている。


 ロリ―ちゃんもあれで諦めるとは限らない。


 そして、他のシスターモンスターがやってくる可能性もある。


 この三日間を乗り切るまで、気を抜きすぎてはいけない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る