第23話 エピローグ編③ 準備

--------------カウントダウン 残り9日--------------


【AM 1:00】



貴重な1日がバタバタして終わってしまった。

深夜1時すぎだけど家族でお茶を飲んでいる。


ふぅぅ〜。

お母さんが入れてくれたお茶、お茶請けは伊勢屋の豆大福。

近所の老舗の和菓子屋さんなんだけど、激ウマで私の大好物だ。

昨日は夜にバタバタしたから買ってあったの出し忘れたんだって。

餅の部分がほんの少しだけ硬くなってるけど流石は伊勢屋だ、あんこが美味しいのだ。



それにしても、地球滅亡まで残りあと9日。

テレビではいつもの深夜番組はやってなくて情報番組にスライドしている。

でも出演者も運悪く捕まった人が有無を言わさず連れて来られた感じでちょっとトンチンカンな発言が多い。


総理は忙しいのかその後テレビには出てこないが、代わりに防衛省とか何とか省から長官とかが出て、何かわからん発言をしている。

ただネットでは例の彗星の写真や動画がすごい勢いで出回っているみたい。

日本からは見えないけど、どっかの国はもう肉眼でも見えるとか。


深夜にもかかわらずお父さんとお母さんはスマホでどこかに連絡をしていた。


ティロロン


LAINEの着信だ、リノちゃんかな?カノちゃんかな?


カノ さっきの話 お母さんと弟にした

カノ 親父は仕事で明日まで帰ってこないし

カノ 兄貴は自衛隊だからなー


ハナ どうだった?


カノ お母さんと蒼は賛成だって

カノ 家族一緒ならどこでもいいよって言ってくれた

カノ あとは親父待ちー


リノ うちはどうだろ


ハナ リノちゃんちはお母さん反対しそう?


リノ 反対と言うかお母さん看護師だから

リノ 病院離れられないって言うかも


カノ そっかーそうだよね

カノ 患者さんいるもんね


ハナ いくらあと10日で滅亡って言われてもね

ハナ 退院出来ない患者さんもいるよねー


リノ ハナやカノと一緒に白い穴に行きたいー

リノ でもうち待ってたら間に合わなくなるかもだし

リノ でもでも一緒に行きたいよー


ハナ とりあえず明日お母さん帰ってきたら話してみて


カノ うちも明日親父が帰ったらすぐ話す

カノ そしたらLAINE入れるね



そう、私は白い穴へ飛び込む計画をリノちゃんとカノちゃんに打ち明けた。

どうせあとちょっとで地球が無くなるなら最後に一緒に冒険しない?って。


うちはお父さんもお母さんも割と自由が効く仕事だったのですぐに決まった。

でもリノちゃんとこはお母さんと二人暮らしで、お母さんは看護師だ。

地球が滅亡すると言われてもすぐに辞められる仕事じゃない。


カノちゃんちはお父さんが観光バスの運転手で、昨日は遠方に出ていたそうだ。

出先でソーリーの話、聞いたかな?

どちらにしてもこっちに戻るのは明日の、じゃなくてもう今日か、今日の昼前ぐらいらしい。

それとカノちゃんのお兄さん、蓮さんは自衛隊だ。

きっと自衛隊もギリギリまで日本を守るんだろうな。

日本人みんな頑張って働きすぎじゃない?



カノちゃんもリノちゃんも、一緒に行くのは無理かなぁ。

何とか一緒に行けないかな、今日、説得に行こう!

何もしないで後悔したくない。



スマホを置いてまた大福を食べた。今度は豆が入ってないやつ。

昨日までだったら深夜に甘いモノなんて「デブるから我慢」だったけど、あと10日で地球が終わるのに「デブるから何?」って感じだよ。


地球が終わる前に異世界に行けたとして、そこに伊勢屋は無い。

今食べなかったらもう一生食えんのだ。

あ、明日…じゃなくて今日、カノちゃんちに行く途中に伊勢屋寄ってこ。

やってるかなぁ、伊勢屋さん。

大福以外にどら焼きも激美味(げきうま)だしカステラと餡子が渦巻いてるやつも好き!



お父さんとお母さんは親戚に連絡をしまくってるみたい。



「健人は一緒に来るそうだ」


お父さんはひと息ついてお茶を啜った。


「健人叔父さん?俊くん達も?」


「ああ 京子さんもだ」


健人叔父さんはお父さんの弟で近所に住んでいる。

健人叔父さん一家は、奥さんの真由香叔母さんと従兄弟の俊くんと美優ちゃん、それと京子おばあちゃん。

俊くんが5歳で美優ちゃんが2歳、京子おばあちゃんは真由香叔母さんのお母さんだ。

京子おばあちゃんの旦那さんは事故で亡くなったんだって、京子おばあちゃんはその事故の時のせいで足が少し悪くてたまに車椅子だ。



「京子さんが足手まといになりたくない、置いていってくれと言ったが何とか説得出来た」


「まぁ、良かったわ。ひとりだけ置いてなんて行けないものね」


「健人のとこも大型ワゴン車だが、車椅子とチャイルドシートが場所をとるから荷物はそんなに詰めないだろうな」


「小さい子は荷物も多いだろうし大変よ。うちに積めるものは積んであげましょう」


「他は?岡山の爺ちゃんとか」


お姉ちゃんがタブレットから顔をあげた。

岡山はお母さんの実家でお母さん方のお爺ちゃんや親戚がいる。


「ダメね。お爺ちゃん達は慣れたおうちで最後を迎えたいって」


「うん、島根のお婆ちゃんや親戚も同じだ」


島根はお父さんの方の親戚。


「そう…」


お父さんの方のばあちゃんや親戚も、お母さんの方のじいちゃんやばあちゃんも一緒には行かないのか。

仕方ないのかな。



私は部屋に戻って荷造りを再開した。

持って行ける量が限られると悩むな…。

リュック一個分ってそんなに入らないじゃん。

さっき入れた服をやっぱり取り出した。

パンツと靴下は畳んだり丸めるよりも開いて重ねた方が嵩張らない。

ブラは…カップ付きのタンクトップでいいや、そんなにデカくないし。


「おかーさーん、タオルとかどうするー?こっちで入れるー?」


一階のリビング向かって叫んだらお母さんも叫び返してくれた。


「タオル類はこっちでまとめて入れたー。華ちゃんは自分の服だけでいいわー。ハンドタオル一枚くらいは持っておきなさいよー」



お気に入りの服をベッドの上に並べたが、これらは置いて行くしかないな。

動きやすいパンツとかにしろってお姉ちゃんに言われたし。

こっちのスカートとかこのコートすごく気に入ってたのに残念すぎる。

デニムのジーンズは夏でも冬でも履けるからこの2本を持ってくか。

あ、ウニクロの汗がすぐ乾くタンクトップとTシャツ、これ凄く薄いから5枚でブラウス1枚分だよね?うんうん。

あと冬用の発熱長袖シャツ、これも薄いから5枚入れよう。

であと裏起毛のトレーナー……、こいつ嵩張るな。

まぁ、他のが薄いからリュックに入るし、持って行こう。


服はこんなもんで次は机に移動、教科書はいらない。

どうしよう、ノートとかペン必要かな。

普段はスマホにメモってるからスマホがあればいいか…。

あ!電源!

てか異世界に電気あるの?

モバイルバッテリーは必須だよね、満タンにしとこう。


「おかーさーん、化粧水とかーハンドクリームとかー」


「それもこっちで入れたわー。歯ブラシとか洗面関係も入れたー」



一階と二階で大声の会話を続けた。


「ダウンやコートはーー?」


「ウニクロのやつ、皆んなの分入れたー」


「ブラシとか鏡はーーー?」


「それはそっちで入れなさーい。なるべく小さいやつねー」


「はーーーい」


あ、お気に入りのヘアピンとゴムも持っていこう、リュックの内ポケットに入るしー。

あとチョコと飴も内ポケットに。

友達に貰ったお気に入りのぬいぐるみ……は、入らない。

あ、クリスマスにお兄ちゃんにもらったスノーボールは持ってく。

リュックの真ん中に入れて上に服を乗せれば壊れないよね。


おっと!

普段通学に使っているバッグからチャームを取り外した。

これはカノちゃんとリノちゃんとお揃いのチャームだ。

3人でデスティニーランドに行った時お揃いで買ったお気に入りのチャームだ。

これはリュックの中のポケットのファスナーに取り付けた。

リュックの外に付けて落としたりしたら嫌だから。


リュックはまだ満杯にならずもう少し入りそうだけどとりあえずそれを持って一階に降りた。



「華ちゃん、朝ご飯食べちゃいなさい」


うおおお、いつの間にかもう朝だ。

お母さんに言われてダイニングテーブルを見るとご馳走が並んでいた。


「…お母さん、誰かの誕生日?」


「違うわよぉ。持って行けない腐りそうな食材を食べ切ろうと思って、お父さんが腕によりをかけて作ったの」


「お父さんがかい!」


「お父さんと優希はデキル男だからねぇ」



見るとお姉ちゃんは唐揚げを食べていた。

夜中の豆大福といい朝から揚げ物パーティといい、普段じゃ考えられないな。

けど、「普段」じゃないから良いのか。

世は世紀末真っ最中だもんね。


「お父さんは?」


ご飯をよそってくれたお母さんに聞いた。


「お父さんは今車にガソリン入れに行ってるわ。近くのスタンドがやってるかわからないから、やってるとこ探して回ってくるって」


リビングのテレビでは相変わらず昨日のソーリーの会見やそれに対してのコメントが流れていた。


「今朝6時からずっとニュースで流してるからだいぶ国民に伝わったんじゃないかな。ネットは深夜にはもう大騒ぎだったけどね。地上波は遅いのよ、動きが」


お姉ちゃんは次にトンカツにソースをたっぷりかけて口に運んだ。


「ハナも食べときな。次にいつトンカツ食えるかわからないからね。トンカツソースも穴の先の世界で手に入るかわからないし」


それはマズイ!

丸ちゃんのトンカツソース無しでトンカツを食べるなんて、トンカツ食べる意味ないじゃん。


「お母さん、私のリュックまだ入るから丸ちゃん入れていく!」


「あらそう? じゃあ封を開けてない丸ちゃん出しておくわね」


お母さんは直ぐにキッチンへ行った。

戻ってきたお母さんの手には丸ちゃんのトンカツソースとマヨネーズとケチャップがあった。


「賞味期限が結構先だったからハナのとこに入るなら入れておいて」


「う、うん」



ふぅぅぅ、腹いっぱいだ。

これから先もしかするとこんな豪勢な食事が出来なくなると思うとかなり頑張って食べた。



「お母さん、真由香さんとこに荷造りの手伝いに行ってくるわね」



お父さんはガソリン入れに、お母さんは真由香叔母さんとこの荷造りに、お姉ちゃんはどうするのかと見たら、お姉ちゃんは箸を片手にタブレットを叩いていた。


「お姉ちゃん、私、カノちゃんとリノちゃんとこに行ってくるね」


「行っといでー」


タブレットから顔上げずにお姉ちゃんが持っいた箸を振った。

カノちゃんのお父さんは昼まで戻らないって言ってたから、先にリノちゃんちへ行こう。

リノちゃんのお母さんの夜勤が終わって戻ってきてるかも。


時間がない。

滅亡まであと9日だよね?

1日でも無駄に出来ない。





--------------地球滅亡まで残り9日--------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る