国を滅ぼされた王女は国を盗り返す!

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盗賊王女

明けましておめでとうございます!

毎年恒例の新春の初投稿です!

去年はソニーストアで応募したプレステ5が当たるなど良いことがありました。

今年も良い年であるように、面白い小説を投稿していきたいと思います♪


今年もよろしくお願い致します!


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ゴゴゴゴッ!!!!

高い丘の上から目の前で燃えている王城を呆然と見つめている少女がいた。


長年の同盟国に裏切られ城を落とされて、命からがら脱出したのだ。


「姫様!ここは危険です!早くお逃げ下さい!」

「シオン姫殿下!さっ、お早く!」


まだ【6歳】になったばかりの少女はキツく歯を噛み締めていた。

そして崩れ落ちる城を見つめながら少女は誓った。


必ず取り戻すと。

そして必ずこの代価を払わせると誓うのだった。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆


ミラージュ大陸の南に位置する小国【オラクル王国】は『西側』に位置する敵対国【バーン王国】と長年に渡り小競り合いが絶えなかった。


バーン王国は乾燥地帯であり、豊富な鉱石が取れるが、農業に向かない土地であり、1つ山を越えた場所で、緑豊かな農業豊かなオラクル王国を長年狙っていた。

しかし、国境にある交通の要の街道は、山々に遮られ道幅が狭く、戦力で勝っているバーン王国は長年に渡り『国境砦』を落とすことが出来なかった。


さらに言えば、逆サイドの『東側』に位置する長年の友好国であり同盟を組んでいる【ワルター王国】から【緊急時】には援軍を呼び2国間で防衛をしていた。オラクル王国が敗れれば、次はワルター王国が狙われるのは必然であり、2国間の協力は当然であった。


そして、今回の侵攻は久々に大規模なものであると密偵から情報が入った。


軍議の会議にて──


「この度の侵攻はかなり大規模であるようだな」

「はい。我が国の兵力は約1万ほど。バーン王国はいつも倍の2万ほどの兵力で攻めてきますが、今回は5万もの大軍勢とのことです」


髭を触りながら軍師が言った。


「ここ数年は大人しいと思っていましたが、この大侵攻の為に兵站などの備蓄に時間を割いていたのでしょう。正直、まずい状況ですぞ」


「ここは民兵も集って、ワルター王国にも援軍要請が必要でしょう」


色々な案がでる中、国王と宰相、相談役の軍師が不安に思っている事があった。


いくら友好国とは言え、自国を他国の兵士が通る事に不安を覚えていたのだ。従来なら戦時中でも王都には5千の兵力置いてあり、万が一裏切られたとしても、国境から援軍がくるまで持ち堪える事ができるだ。


しかし、今回の大侵攻では王都の兵力のほとんども国境に向かわせなければならない。


そんな不安を抱えながらバーン王国の侵攻を食い止める為に全兵力を国境の砦に兵を送るのだった。




そしてその不安が的中した。

国境に向かうはずのワルター王国の援軍の兵士が突然進路を変えてオラクル王国の王都を侵略したのだった。


ワルター王国はしたたかであった。援軍の準備に時間が掛かっていると遅れてきたのだ。

すでに国境では戦闘が始まっていた。

故に、すぐに助けに戻れない状況だったのだ。


そして、防衛力のない王都はあっけなく陥落した。

国王は時間を稼ぐ為にその命を犠牲にし、宰相は国王の最後の命により王妃と王女を隠し通路から脱出させた。


そして冒頭に戻るのである。



──10年後──



あれから色々な出来事があった。

まずは予想外な事もあった。


王都が陥落した事で、民兵を含めて2万の兵士が詰める国境砦は動揺し、すぐに落ちると思われていた。しかしバーン王国にもオラクルの王都が陥落した情報が伝わるとすぐに兵を引いたのだった。


これにはワルター王国も予想外であった。ワルター王国も兵力で勝るバーン王国が疲弊してくれる事を狙っており、交渉でオラクル王国を分割統治する事を提案していた。


しかし、バーン王国は無駄に兵力を減らさなくとも、騙し討ちしたワルター王国をオラクルの国民が許さないと読み、逆に内乱でワルター王国が疲弊する事を狙ったのである。


そして、国境砦の兵士達はすぐに王都を奪還しようとしたが、流石に国境砦に兵力が少なくなると、目の前のバーン王国からすぐに常駐戦力の兵が攻めてくる状態であり、砦から身動きできなくなったのだ。


その間にワルター王国は王都から順次、周辺の街や村を占領していき、事実上オラクル王国は【戦力を残したまま】滅んだのだった。


ワルター王国は王都の家族を人質にして、そのまま国境砦を守護するように命じた。


自国の兵力を使わず、そのままバーン王国の備えにしたのだ。その代わり、食料などはきちんと送ると確約した。


こうした歪な占領状態のまま10年の歳月が過ぎたのだった。


元王妃であった母は逃亡生活に疲れ果てて数年で儚くなった。私はまだ子供と言う事もあり、元気だった。いや、復讐すると心に誓ったあの日から憎しみの炎を糧にしていたのもあるだろう。


私は長い髪をバッサリと切り、ショートボブまで短くし、一緒に付いてきてくれた近衛兵騎士団長のバルド卿から剣術を学んだ。


各街が隣国に支配されても、騙し討ちで王都を落とした隣国に、わが国の民は恨みを募らせていた。故に、私達を匿ってくれる協力者が多くいた事も都合が良かった。


ただ1か所に留まるのは危険の為に各地を転々としていた。


すでに宰相などは各地で協力を仰ぎながら動き、騎士団長バルドは私を守りながら剣術を教えてくれた。


「姫様、だいぶん腕を上げましたね」

「ありがとうございます!」


私は小柄な女の子の為に、短剣での剣術と体術を学んでいた。この十年で私も成長したと思う。


「まっ、俺にはまだまだ及ばないがな!」

「こらっ!口を謹しめ!カイル!」


カイルは騎士団長バルド卿の子息で、私と同い年の逃亡生活からの腐れ縁である。

忌々しいが、口は生意気だが機転も聞くし実力もある。



私の数少ない理解者である。



ワルター王国は支配地域であるオラクル王国に重税を課した。これは反抗する力を奪う事もあった。


しかし、これは悪手だ。


日に日にワルター王国の不満が溜まっていっているのだ。


私は力を着けてきたこの数年で、ワルター王国に運ばれる荷台を襲撃し、奪って各地の困窮している人々に配る『義賊』として活動していた。


「お前達!命が惜しければ積荷を置いていきなっ!」


「き、貴様ら!こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」


鼻で笑いながら言った。


「貴様ら商人の振りをしているが、ワルター王国の騎士だと調べは付いている!その積荷の貴金属を置いていってもらおう!」


バレている!?

ワルター王国の王族や高位貴族が私腹を肥やす為にこうやってオラクル王国の財産を奪っていっているのだ。


商人に扮したワルターの騎士達は剣を抜き襲い掛かってきた。しかし、こちらは少数とはいえ弓の援護がある私達は地の利を活かして、あっさりと倒して積荷を奪取したのだった。


そして──


「奪った食料などは人々に配っているけど、武具などはレジスタンスの為に蓄えているのよね。だいぶん集まってきたわ」


隠しアジトに戦う為の武器類は集まりつつある。

しかし、人材が集まらない。

人々は日々の糧を得る為に必死であり、国境砦には多少変動はあるもののオラクル王国の戦える戦力が集められている。


反乱を警戒してワルター王国から監視員として千名ほど派遣されていると言う情報もある。


「はぁ、先は長そうね」


シオンは、ため息を付いた。

そして、転機が訪れた。


また、バーン王国が大規模に攻めてきたのだ。

この10年で状況が変わらず痺れを切らしたのである。


もし、ワルター王国が堅実的な統治をしていれば国力が倍になっており、バーン王国に負ける事は無かっただろう。

しかし、このオラクル王国を植民地と課して、搾取するだけの道を選んだ時点で、民の心は離れているのだ。


私はすぐに宰相に連絡し、久しぶりに落ち合う事にした。




「これが私の考えた作戦です。どうでしょうか?」


私の立てた作戦に宰相は唸った。


「確かに現実的な作戦だと思います。しかし、民に犠牲がでる可能性がありますな。姫様にその覚悟はおありですかな?」


私は力強い目で宰相をみて頷いた。


「まったく。貴方には身分を隠して細々と生きていく未来もあった。しかし、貴女はオラクル王国の復興を願い日々、力を蓄えていきましたな。貴女になら忠義を捧げられると確信いたしました」


「いいえ、私はそんな大層な事は考えていません。これはただの復讐です。それに宰相には心から感謝しています。これまで私に着いてきてくれてありがとう」


宰相は目頭を押えながら静かに泣いた。


バーン王国は秘密裏に打診していた。今のワルター王国の圧政よりまともな統治をするので、国境砦を素通りさせるように言ってきた。


正直、砦の責任者や幹部達も悩む事案であった。そんな時、【宰相】と【軍師】の連盟で密書が届けられた。


「……………なるほど。よくできている。難しいが、不可能ではない」


ワルター王国の監視を掻い潜って集まっていた者達は満場一致で、その作戦に乗る決断をしたのだった。


バーン王国は約4万の兵力で攻めてきた。流石のワルター王国も追加で【1万の兵士】を増援に送り、約3万で砦の防備に当たった。


「どういうつもりだ!」


ワルター王国の援軍である責任者は憤っていた。この十年で小競り合いは頻繁にあった。しかし、いつも前線にでるのはオラクル王国の軍のみ。ワルター王国の兵達は後ろで見ているだけであった。


今回の大規模な侵攻に、いつもは砦に籠もって弓矢での応戦。ハシゴで登ってくる敵兵を食い止めるのが定番であったのだが、今回は夜間にオラクルの兵力2万で討って出たのだ。


砦からワルター王国の司令官は倍の敵に突っ込んでいったオラクルの兵をワナワナと見つめるしか出来なかった。

もし、全滅したら自分達が砦の守備をしなければならないからだ。


いつもならオラクルの兵士に危険な事を押し付けるだけであったのにそれができなくなってしまう。保身を考えてワルター王国の司令官も連れてきた兵力の半数を後を追わせた。


これに慌てたのがバーン王国であった。今まで砦から討って出た事がなく、夜間と言う事もあり完全に油断していたのだ。


「突撃!!!一気に攻めろ!!!」


灯りを消して夜道を行軍して、多くの敵がテントで寝ている所を強襲した。


完全に油断していた為、見張りもおざなりであった。バーン王国の兵士は鎧も着れずに、剣だけ持って慌てて応戦したが、完全武装で士気の高いオラクルの騎士を前に為す術もなく倒されていった。

そして、ついに逃走者が現れた。


一度、恐怖で逃走が始まると歯止めが聞かなくなり、バーン王国の遠征軍は崩壊したです


「まさか、本当に勝つとはな」


後方からいつも通り見ていた『だけ』のワルター王国の司令官が呟いた。


そこへ伝令がやってきた。


「ワルター王国の兵にご報告致します。オラクル騎士団は勝ったとはいえ、かなりの負傷を出しました。敗走兵の追撃をワルター王国の騎士団にお願いしたいとの事です!」


ワルター王国の司令官は一瞬考えてから承諾した。倍の兵力差で討ってでて勝ったのだ。追撃部隊で実際にワルター王国の騎士団も戦えば誰も嘘とは言えない。


軍部での昇進は間違いないだろう。

ワルターの司令官はすぐにバーン王国を追撃した。


その場に残ったオラクル騎士団はバーン王国の兵站を持ち帰る部隊を置いて、そのまま砦へ戻った。



───砦に残ったワルター王国の兵士を皆殺しにする為に。



夜が明ける頃には兵站を奪ってきた部隊も戻ってきた。まだワルター王国の追撃部隊は戻っていない。余程バーン王国の方まで後を追ったのだろう。


味方が戻ったと思っていた砦に残ったワルター王国の部隊は、予期せぬ出来事に抵抗も出来ずに皆殺しにされた。先に出入り口を占拠されて逃げ出す事が出来なかったのだ。


そして、意気揚々とバーン王国の兵を倒してきたワルター王国の追撃部隊は、多少抵抗されて数が減ったものの、数倍の敵兵を倒した事で満足して戻ってきた。


しかし出迎えたのは弓矢の雨であった。


「な、なんだ!?」


最初の一斉射撃で、司令官は死んだ。

そして、約5千近い兵士が外で立ち往生する事になった。


「貴様ら!こんな事をしてただで済むと思っているのか!?貴様らの家族は皆殺しだぞ!」


そんな事を叫ぶが、ワルター王国の騎士は気付いていなかった。


国境砦の城門を閉じられては、帰る事ができないのだ。近付けば矢の雨が飛んでくる。


………そしてバーン王国へ向かおうとしても、散々、バーン王国の敗走兵を殺したワルター王国の兵士を許さないだろう。


数日経てば食料問題などようやく状況がわかってくるのだ。ワルター王国の騎士団にもう生き残る術がない事を。



この作戦で、バーン王国は4万のうち約半数の【2万の兵士】を失い、さらに4万人分の兵站も奪われた事で、5年から10年は戦争のできない状態となった。


それと同時に、ワルター王国の軍もほぼ1万が失われた。


元々ワルター王国とオラクル王国の国力は同等の為、ワルターの兵力も【1万5千】ほど動かせるが、援軍に1万、自国の備えに5千ほど残しているに過ぎない。


故に、オラクル王国に派遣された軍隊はほぼ一掃された事になる。

そして、バーン王国もすぐには攻めて来れないほどの損害を受けたとすれば───




【今こそ我が祖国オラクル王国を取り戻す時である!】



国境砦から伝書鳩が飛ばされ、すぐに作戦成功が伝わった。


「今こそワルター王国を追い出す時!各街に派遣されているワルター王国の執政官及び護衛の兵士達を捕縛しろ!」


オラクル王国各地で民が一斉蜂起した。


頼りの祖国ワルターからの援軍はすでに壊滅しており、ワルター王国は、そもそもバーン王国が攻めてきて防衛中だろ?と、状況が把握できていなかった。


一斉蜂起の報告がようやく祖国に伝わり、国境砦の兵士に何とかしろっ!と伝令が行った時点で全てが終わっていた。


「私は、オラクル王国の第一王女シオン・オラクルである!この10年に渡る苦しい日々は今日を持って終わる!すでにバーン王国、ワルター王国の主力の騎士達は倒した!今こそオラクル王国の復興の時だ!私に続けーーーーーーーーーーーー!!!!!」


シオンは側にカイルを伴い、レジスタンスと共にオラクル王国の王都にある王城に攻め入った。

10年前に焼け落ちたが、この10年で前より小さいが城ができており、ここでワルター王国から派遣された執政官がオラクル王国を喰い物にしていたのだ。


「ま、待て!私を殺すとワルター王国と戦争になるぞ!今ならまだ──」


でっぷりと太ったワルターの執政官は焦った様子で言葉を続けたが…………


「ここを占拠したらすぐにワルターに攻め込む。貴殿は心配せずに死ね!」


「バカな!ワルターにはすぐに動かせる戦力が1万5千もいるのだぞ!貴様の戦力はどれほどだ?せいぜい、多くても千ほどだろう!バーン王国の侵攻を防ぎ切ったら、後ろから挟み打ちで全滅だぞ!」


多少は頭が廻るみたいだが情報が伝わっていないようだ。


「ふっ、すでにバーン王国は撃退した。援軍にきたワルター王国の1万と共にね」


!?


驚愕した顔の執政官をカイルが首をハネた。


「カイル、邪魔しないでよ」

「お前にはもっと大物が待っているだろう?小物は俺に任せておけ」


シオン達はここで数日間、後始末をしつつ、国境砦からの援軍を待った。


「姫殿下、いえ、シオン女王陛下!各地の一斉蜂起は成功したとの事です!」

「よし、国境砦の主力はそのまま王都ではなく、ワルター王国に向かうように伝令をだしなさい!我々は少数で先に先行する!」


シオン達は一斉蜂起が成功したとまだ知らないワルター王国に電撃的に逆侵攻を慣行したのだった。


シオン達はワルター王国の騎士の鎧を纏い、国境へ向かった。


ワルターの兵士達は自国の旗を掲げたシオン達を疑いもせず城門を開けた。

シオン達そのまま内部から急襲し、即座にワルターの国境砦を陥落させた。


「シオン女王陛下、国境砦の主力が到着致しました」


オラクルの主力騎士団は少数でワルターの国境砦を落としたシオンにたいそう驚いた。


「これは軍師殿の策ですよ」


今まで宰相の相談相手として行動を共にしていた軍師が今回、同行していたのだ。軍師は10年前にワルター王国の危険性に気付いていながら眼の前のバーン王国の侵攻の防衛に全兵力を割いた事を悔やんでいた。


今度は間違えない。


シオンと同じく、後悔、自分への怒り、ワルター王国の恨みなどが身中を渦巻いていた。


オラクル王国の兵力5千はバーン王国の国境砦に残して1万5千でやってきた。シオンが率いているのは、それにプラスで500人ほどである。


「我々は最短コースでワルター王国の王都を目指します!」


幸い、バーン王国から約4万分の兵站を奪う事が出来たので余裕がある。だが、グズグズしていると、周辺の領主が民兵を募って背後から襲ってくる可能性がある。

ここはスピード勝負なのだ。


順調に行軍を続け、ワルター王国の王都の眼の前までやってきた。

ワルターの王都はパニックになっていた。


知らない間に、他国の侵攻軍がやってきていたのだから。王城の方でもどうなっているのだっ!と、様々な情報が錯綜し、大混乱であった。


すでに、王都の城門は閉じているが、無駄事であった。この10年で、間者をワルター王国へ忍ばせていたのだ。王都の城門は内部から開けられ、シオン達は堂々と城門を潜った。


ワルターの王侯貴族は自分を守るため、城に戦力を集中させた。城にいる戦力は千ほど。


他の戦力は北と東の国境に配備されているのだ。


王城の城門も内部からの手引で開けられ、シオン達はなだれ込んだ!


城の広さから1万5千の兵力で包囲して圧力を掛けつつ、突入したのだ。ワルター王国の兵は最初こそ抵抗したが、圧倒的な兵力差にすぐに降伏した。


「情けない。この程度の奴らにオラクル王国はやられたと言うの…………」


「シオン女王陛下、戦争は生き物です。息を潜めてチャンスを待つ者もいますし、バーン王国の様に、無駄に大戦力で攻めてくる所もある。国を治めるには大局を見なければならないのです」


軍師殿の説明に頷くしか無かった。


そのまま王城を駆け上がり、王のいる謁見の間にたどり着いた。

ギギギッと大きな音を立てて扉が開いた。


中に入ると本日登城していた貴族達が勢ぞろいしており、それなりの人数がいた。


「ご機嫌よう。私はシオン・オラクル。オラクル王国の開放者にしてオラクルの女王よ」


シオンは中に入ると、皮肉を込めて綺麗な、カーテシーをして挨拶した。


「貴様!どうしてここに!?」


シオンの事を知ってワルターの国王が玉座から立った。


「先に言っておく。バーン王国の侵攻は防いだ。それと同時にワルターの援軍1万も潰したわ。そして、10年前にオラクルへ侵略した将軍の言葉を返してあげる。ワルター王国は今日で終わりよ!」


シオンが剣を掲げると、ドドドドッと後ろから謁見の間に仲間達が入ってきた。


「ええいっ!お前達、ワシが逃げる為に時間を稼げ!」


ワルターの国王は玉座の後ろにあった隠し通路を開いて逃げ出そうとした。


「逃がすかよっ!」


カイルが短剣を投げて国王の肩に当たった。


「グワッ!!!だ、誰か助けてくれーーーーー!!!!!」


無様にジタバタするワルターの国王を冷ややかな目で見ていた。


「おいおい、その程度で死ぬかよ」


カイルは頭を掻きながら呟いた。

シオンはカツンッ!カツン!と歩きながら近付いた。


「醜く無様だな。我が偉大なる父は、私と母を逃がす為に、自らが囮となり時間を稼いで死んだ。貴様の様に自分だけ助かろうと逃げ出したりしなかった!!!」


シオンは剣を振り上げてワルターの国王に斬りつけた。


「我が民が受けた屈辱の10年間の恨みを知るがいい!!!」


シオンは両足を切り飛ばした。


「ギャァァァァァ!!!!!」


このまま放って置けば出血多量で死ぬだろう。

シオンは国王を放置して玉座に座った。


「さて、ここにいる貴族達に告ぐ。生か死か選べ」


シオンは冷たい目で謁見の間に居た貴族達に言った。


ザワッ


広間の空気が変わった。


「どういうつもりだ!」

「そうだ!我々は貴国を倒したが、貴族まで皆殺しになどしなかった!大陸法違反だ!」


ワルターの貴族達は立場をわかっていないのか言いたい放題だった。


「もう一度言う。生か死か選べ」


今度は、冷たく低い声が響いた。

ワルターの貴族達は、シオンが本気だと察して、国王の様に命乞いを始めた。


「ど、どうかお許し下さい」

「命だけは─」

「私は、反対していたのです!」


手の平を返した様に多くの貴族が跪いた。

それを冷ややかな目でしばらく見下ろしていると───


「そうか。ならば貴様らの命は助けよう」


シオンの言葉に口元が緩むワルターの貴様達はシオンの次の言葉に絶望する事になる。


「では、ここにいる者達を牢屋へ連れて行け!」


シオンの言葉に反論する者がいた。


「なっ!どういうつもりですか!?」

「今は、命だけは助けよう。ここにいる、お前達を調査して不正をしている者は極刑に処す!」


ワルターの貴族達の顔色が変わった。


「俺たちが襲撃して、慌ててここに逃げて来たのだろう?執務室などにある不正な書類などの証拠を隠せる時間が無かったはずだしな」


カイルは愉快そうにいった。


「そうね。ここまでくる道中の街中は活気が無かったわ。我々から重税を取っているのに民には還元されていない様だった。自分達のみ裕福になれば良いという、無能で害悪にしかならない貴族はオラクル王国には要らないわ」


ワルターの貴族達は青い顔色が白くなり喚き散らしながら連れて行かれた。


「伝令を出しなさい!国王の首を掲げて、1週間以内にワルターの貴族全ての当主に登城するよう厳命しなさい!ワルター王国は滅びてオラクル王国へと併合される!登城しない貴族は平民となり、処罰の対象となる。これからの国の行く末を決める大事な議会を開くと各地へ伝えるのです!」



こうしてシオン達はワルター王国を併合し、2倍の国土を得たのだった。



後にワルター王国の貴族を集めた【大議会】が開かれた。しかし、シオンはしばらく貴族達を王都へ留めて議会の開催を遅らせた。



その間にシオンは登城しなかった、貴族達の領地に兵を派遣し、そこの貴族を皆殺しにした。


これを知ったワルターの貴族達は震え上がった。


「な、なぜこんな暴挙を…………」


「貴殿らこそ何を勘違いしている?貴公らは敗戦国なのだ。勝利した我がオラクル王国の言う事が聞けないと言う事は、まだ反抗する気持ちがあると言うことだろう?反乱の目は摘まなければならない」


ウグッと反論出来ずに言い詰り、地方の貴族達は電撃的に侵攻された為、本当に負けたのか?と、半信半疑の貴族達もようやく現実を痛感してきた。


「さて、ようやくこの国の行く末の話ができるわね」


シオンが宰相と軍師、文官達から意見を募って考えた案は、【民が納める税金】はオラクル王国が『各領地』によって定める。そして、そこを納める【貴族が国に納める税金】もオラクル王国が決めると言うものだった。


頭の悪い貴族はピンッと来なかったが、頭の回転の良い者は青くなった。


例えば領地の税金が民から100G入るとしよう。


ここはオラクル王国が決めるので領主はこれ以上、徴収できない。


そこから国へ幾らを納めるのかもオラクル王国が決めるのだ。もし90G納めろと言えば、領主には10Gしか残らない事になる。


不正だらけのワルター王国の貴族のみ締め付ける施策であり、この10年で重税を掛けられたオラクル王国の嫌がらせでもあった。


シオンと宰相などは、ワルターの民が困窮しないよう手配し、私腹を肥やした貴族達だけ罰を与えるつもりだったのだ。


「最初に言っておく!酷い騙し討ちをし、オラクル王国の民へ重税を課して民を困窮させたお前達を許すつもりはない!これが嫌ならなら平民となってこの国から出てゆくがよい!」


多くの貴族達が項垂れて、シオン女王陛下に頭を下げた。


より詳しい内容を詰める為に夜通し会議が続いた。ワルター王国の貴族も少しでも有利な条件を譲歩させよう、久しぶりに真面目に討論に参加し、意見を出し合った。


シオンが宰相と話し合って作った素案は、ほとんどの領地で民の税が下がり、ワルター王国の民はシオン女王を歓迎した。


ただこれでは国に入る税が減り、インフラや国防に廻せるお金が減る事が懸念されたが、予想以上にワルターの貴族達は、自分達が贅沢をしたいが為に、国に納める税を少なくしていたようで、正常な金額にさせると、返って今までより国に入る税が増えたほどであった。



無論、貴族達の収入だけ減るのだが。



それから約1年の時間を掛けてオラクル王国とワルター王国の併合に向けての法整備や各貴族の配置外など忙しい日々が続いた。


オラクルの国境砦の兵も入れ替えをして、約10年ぶりに兵士達は家族と再会する事ができたのだった。




そして───



「シオン女王陛下!ばんざーーーーい!!!!」


あれから更に数年達、シオンは20歳になっていた。そして、側で支えてくれたカイルと結婚したのである。


「なぁ?本当に俺でいいのか?正直、最低限のマナーはできるが、政治の事はチンプンカンプンだぞ?」


「良いのよ。それはできる人に任せれば良いの。適材適所って奴ね。上に立つ者は、書類にチェックして不正がないか確認して、できる人に仕事を振るのよ」


そんなもんか?と、カイルは苦笑いをした。


「それに適材適所って言ったでしょ?カイルには私の隣にいて欲しいの♪……………ダメかしら?」


「ああっ!もう!そんな可愛い顔されたら断れないだろうがっ!」


シオンの上目遣いにドキドキするカイルは顔を背けて言った。


今はシオンとカイルの結婚式のパレードの真っ最中である。結婚式は当然、オラクル王国で行われたが、この後併合したワルター王国にも向かう予定である。

今やシオン女王陛下は圧政を敷いていたワルター王国の民に取っても、希望の光となっていた。


すでに1度、ワルターの貴族がオラクル王国へ反旗を翻そうと民を扇動した者がいた。

しかし、民達は誰も動かなかった。


否!


民達は逆にワルターの貴族達に襲い掛かったのだ。

これにはワルターの貴族達が驚いた。

すでに民達がシオン女王陛下の統治を望んでいる事が明白になり、再起を狙っていた他の貴族達の心を折るのに十分な出来事であった。


シオン女王が民達を優遇する政策の意味を本当の意味で理解したのだった。

もし過去にワルター王国もオラクル王国に対して善政を敷いて入ればこんな事にはならなかったのだ。


そして、バーン王国の方でも動きがあった。


若き王子がシオンの行動を伝え聞き、密かに集めていた有志を率いてクーデターを起こして、現国王を討ったのである。


バーン王国でも民の為にと言う謳い文句で、オラクル王国へ侵攻していたが、その実は王侯貴族の不満をオラクル王国へ逸らす為のパフォーマンスに過ぎなかったのだ。


農地の少ないバーン王国は永年、食料問題を抱えていた。良質の貴金属と交換に周辺国から食料を買っていたのだが、1番の食料生産国であるオラクル王国とは長年に渡り戦争していた為に、食料の交易が出来ずにいたのだ。


そこに大飢饉が起こった。


奇しくもシオンが結婚して1年後の出来事だった。

王侯貴族達は、大量の小麦といった食料を抱え込み、民達に配布しなかった。


民達は飢えて死ぬ者が多くでた。

シオン女王はその情報を聞くと、すぐに食料支援をバーン王国へと送った。


全てではないが、それでも多くのバーン王国の民が救われる出来事となった。


良識あるバーン王国の若き王子は、国を奪われ10年に渡り再起の機会を伺い、遂に国を取り戻したシオン女王に感銘を受けていた。

そこに、長年の敵国に民の為にと無償での食料援助をしたシオン女王を女神と崇めるほどに心酔し、愚王とその取り巻きの貴族を討ったのだった。



「我々は奪うのではなく、共に手を取り合い共存共栄の道を行くべきなのだ!慈悲深きシオン女王陛下に感謝を!そして、バーン王国も生まれ変わるのだ!」


民達は熱狂した。

シオンにそんなつもりはなく、善意での援助だったから、シオンの行動に感銘を受けてクーデターを起こすなど夢にも思っていなかった。


そんなシオン女王の生い立ちは広く知られる事になり、歌劇にもなって大陸中へと伝え広まった。


『や~め~て~~~!!!!』



その歌劇を御忍びで見にいったシオンが悶えたのは秘密です。



こうして、大陸の南に位置する国は、過去を水に流して、未来に向けて手を取り合い、長く平和に発展してゆき、シオン女王陛下の名前は、大陸に名を残す事となる。




そして一部の歴史家の中で、シオン女王が幼少の頃に、盗賊団を率いてワルター王国に対抗していた事から【盗賊王女】と呼ばれ、『国を盗り返した』と歴史書に書かれる事になるのは、もう少しの先の事である。




【FIN】




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