第43話 目のあたりにした凄さ(フレア視点)

白い闇が晴れると私は柵の中に立っていた。メインシナリオを進めて最初のボス『ツムール』戦だ。ファーストさんは、先にボスフィールドに入って待っている。そのファーストさんからは、こう言われていた。


「とりあえずボスフィールドに入ったら何もしないでいいから」


 と。


 私がこのフィールドに入ったことを見届けると、ファーストさんは手に持った杖で、トントンっと地面を二度叩く。


 次の瞬間、一瞬だけ魔法陣がファーストさんの目の前に現れたかと思うと、巨大な真っ赤な光線が杖の先からほとばしり、『ツムール』の姿を包み込んだ。

 その刹那、その光線が消え去ると、そこ・・には『ツムール』の姿は無かった。


 ぼんやりと視界が白く包まれていく……どうやら一瞬で倒してしまったみたい。


「す、すごい……一瞬でした……何もしないでって言うけど、あれじゃ何も出来ません」


 白い闇が再び晴れて、私たちは柵の外に立っていた。私は興奮気味にファーストさんに話しかけてしまった。


 でも、ファーストさんはそんな私に少し照れくさそうに答えてくれた。


「本当はこの《バニシング・レイ》って魔法は発動時間が長いんだけどね。威力はまぁまぁ高いし、範囲も広いけどあまり使えた物じゃない」


 そんなはずはないと思う……って発動時間が長いって? いやいやいや、一瞬だったでしょ? 魔法陣は一瞬しか現れないで魔法出てたんですけど!


「え? でも全然時間がかからなかったと思うんですけど……」


「うん、本当は。ね。でも、僕にはアオイさんが作ってくれた装備があるから。武器にも防具にもアクセサリーにも《速記》の能力が有り得ないほど付いてる。だから殆どの魔法で、発動がかなり短縮してるんだ」


「かなり……? どれくらいなんだろ……」


 かなりがどれくらいの物か正直私にはわからないけど……


「本当の発動時間は約十秒かかるんだ」


 ???? え? 本当は十秒だって? 一秒もかからなかったよ? 下手したらコンマ一秒くらいじゃない? それって百分の一くらいの速度になってるの?


 私は混乱のあまり絶句した。それはかなり・・・って言葉じゃすまないでしょう?


「あはは。混乱させちゃったね。でも、誤解しないでね。このゲームって普通・・はこうじゃないから。アオイさんの装備が特別なだけ」


「…………なるほど」


 マリンさんから少しは聞いていたけど、どうやら私の想像を遥かに凌駕する装備をアオイさんは作っちゃってるみたい。


「『ラビィ』を倒したのも《アロー》の魔法。あれなんか魔法陣の発動する間もなく魔法が出るくらいに発動時間が短くなっちゃってる」


「え? あれって魔法だったんですか? 杖を振るうと先から光の矢が出てるだけだと思ってました」


 最初のクエストは『ラビィ』を倒す物だった。でも、私が一匹倒してる間にファーストさんが全部倒してくれて、一瞬で終わっちゃったんだけど……一歩も動かずに。


「あと、《バニシング・レイ》は光属性なんだけど、この杖に属性付いてるから『ツムール』の弱点である炎属性の魔法にも変えられるんだ」


「凄い……」


「で、僕は属性の違う同じ杖・・・・・を七本持ってる。氷・炎・風・地・光・闇・無って。全部作ってもらったんだけどね。だからどんなモンスターの弱点も突くことが出来るんだ」


「え? 作ってもらったってアオイさんに?」


 と、私は聞き返してしまった。するとファーストさんはコクリと頷き返した。


「そう。頼んでもいないのに。良かったら・・・・・使ってって。全属性の杖をポンってくれたんだ。良いに決まってるのにね」


 ファーストさんは苦笑いをしている。そりゃ良い装備を貰って嫌なことなんかない。


「最初から貰った装備が凄すぎて、ドロップしたものも殆ど使ったことないし、アオイさん以外が作った装備を買ったこともない。だって弱いの知ってるし……いや、違うか。アオイさんの装備が強すぎるんだ」


 聞けば聞くほど凄い装備をくれるんだ。いや、使ってみたらもっと凄いのかもしれない。なるほど、納得かも……


「だからマリンさんはアオイさま・・・・・って言うんですね」


「うん。まあそれだけじゃないけどね。アオイさんの前では言わないようにしてるけど、感謝の念からか、アオイさんの前以外では『アオイさま』って呼んでる」


 ファーストさんはそこまで話すと一息ついた。そして、まるで思い出話をするかのように話しだした。


「どうやら最初にゲームにログインしていた時に、アオイさんとアンバーさんに助けてもらったらしくて」


「え? アンバーさんってあの・・アンバーさんですか?」


 私は知ってる名前を聞いたのでびっくりしてしまった。


「まだ始めたばっかりなのに知ってるの?」


「そりゃ知ってますよ。少しでもこのゲーム調べようとすれば、絶対に出てくる名前だと思いますよ」


 私はまず掲示板で『Lunatic brave online IV』のことを調べた。超有名なゲームだし、スレも千を余裕で超えるくらいは消費されてた。そのスレのテンプレに出てくるほどの超有名な人物のひとり。それがアンバーさんだ。


「それはそうか。僕も始める前から知ってたし……」


 ファーストさんはそう呟いた。まあ、そうやって調べるのが当然だし、そうすればアンバーさんの名前は嫌でも目に入る。

 あとは掲示板以外ではブログかな。攻略WIKI以上に細かい検証をされてるブログが、個人ブログでは一番人気だった。掲示板でも度々話題になってるブログ。スレのテンプレにも載ってるくらいだし、このブログを書いてる人もこのゲームで有名な人に違いない。名前は何処を調べてもわからなかったけど……


「でも、アンバーさんも知り合いなのか……どうやら凄いクランに入っちゃったのかも……」


「ん? なにか言った?」


「何でもないです!」


 どうやら私の呟きはファーストさんにはよく聞こえなかったみたい。


「さ、次のメインシナリオ案内して下さい!」


 私は照れ隠しにファーストさんの手を引っ張りながら『ブライトン農場』から出ていった。

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