第18話 『ツムール』と戦ってみた

 目の前が暗転し、その闇が晴れると俺は囲まれた柵の中に立っていた。ボスフィールドへの転移が終わったようだ。俺は弓を構えて『ツムール』に少しずつ近づく。

『ツムール』も俺に気付いて少しずつ、ゆっくりと近づいてきているようだった。


「やっぱり動きは遅いな」


 俺の見立て通り動きは鈍い。ただの巨大なカタツムリだからな。剣や拳ならこちらから近づく前提だろうが、俺は弓だ。長距離射程の利点を生かして、『ツムール』の射程外から攻撃を仕掛けることにしよう。


 と、俺は早々に矢を射った。その矢は硬いと言われた殻に突き刺さった。


「おっと! 粘液か? 近づきすぎは良くないか……」


『ツムール』は反撃! とばかりに口から粘液を飛ばしてきた。ドロっとしたそれ・・はまとわりつくと動きを鈍らせそうだ。ダメージは大きく無さそうだが、とにかく気持ち悪い。生憎と俺の弓より射程は無さそうだし、気をつけて戦っていれば当たることは無いだろう。


『Lunatic brave online』ではボスには複数箇所に当たり判定があった。その当たり判定を集中的に狙うとその部位を破壊できる。通称、部位破壊と呼ばれた行為だ。戦闘中にその部位破壊を行った場所によっては戦闘後のドロップが増えたりする。俺は『Lunatic brave online IV』でもその仕様があるかもと思い、また、『ツムール』の殻はその部位破壊が出来る箇所だと睨んだ。

 どう考えても殻ではなく本体の方がダメージが通るだろう。あのNPCもそういう意味で言っている。逆にこういう考え方も出来る。殻はダメージを叩き出せる技や装備が揃ってから狙う箇所だと。ダメージを与えられない奴が狙う箇所ではないと。


 でも俺にとってはどっちも一緒・・・・・・だということ。本体も殻も・・・・・だ。なんせ、DEX極はダメージを殆ど与えられないのだから。本体でも殻でもほぼ与えられないのは多分変わらない。『Lunatic brave online』でも最低ダメージはゼロでは無かった。どんなに自分の攻撃力が低くても、相手の防御力が高くても、諦めなければ・・・・・・やり続ければ・・・・・・いつか突破出来る。そういうゲームだった。その流れが俺は好きだったし、沢山のゲーマーを魅了したんだ。


 俺はそんなことを考えながら、矢を射続けた。途中で『ツムール』は何度も粘液を飛ばしてくるが、警戒している俺に届くことは無い。

 数百本は射っただろう。数えきれない程の矢が『ツムール』の殻に突き刺さり、殻へのダメージを蓄積さえせていく……


 と、突然、パキーン! と大きな音が響き渡った。俺の予想は当たったようだ。殻の破壊をすることができたようだ。と、なると今度は殻を狙い続ける必要はない。ダメージの通り易い柔らかい本体を狙うのみ。


『ツムール』は殻を砕かれたからか、ダメージが蓄積されたからか、或いはその両方か、当初よりも動きが鈍くなってきていた。飛ばす粘液も飛ばなくなってきている。


「そろそろか……?」


 俺はこの戦闘の終わりが近づいていると感じた。が、かと言って俺に出来ることはたった一つしかない。ただ射るだけ。何もスキルを持っていない今は射ることだけが、俺の出来るたった一つのこと。


 と、俺は射る速度を加速させる。粘液も届かない、避けるほど素早くない『ツムール』は格好の的だ。たまに遊びがてら二本や三本の矢を同時に射ってみたりもした。数本同時でも命中するのだから、流石DEX極、命中率の補正が高いだけのことはある。


 そうして、本体にも数百本の矢を射続けると『ツムール』は急に溶けて地面に広がっていった。どうやら倒すことができたみたい。その広がった『ツムール』の姿が段々と薄くなっていくと同時に、俺の視界は暗転していった。

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