第6話「金色の小鳥」


朝目が覚めた瞬間、私はバランスを崩して椅子から落ちる。


「いてて…私、あのまま寝てしまっていたのね」


腰を摩りながら立ち上がると、そっとバスケットを覗き込む。この子の様子が気になり、結局ベッドでは寝付けなかったのだ。


小さなまん丸の瞳がこちらをじっと見つめている。私は怖がらせないよう注意を払いながら、にこりと微笑んだ。


「おはよう。怖がらなくても大丈夫。すぐにここから逃すから」


ゆっくりとバスケットを抱えると、隙間風の吹き込む傾いた窓を開ける。


「ほら、お行き。もう自由よ」

「…」


おかしい。私の治癒でこの子の傷は癒えたのだから、飛び立てないはずがない。ましてやこの黄金色の美しい小鳥は…


「お前は魔物でしょう?いつまでもここにいてはいけないわ」


バスケットを軽く揺すると、小鳥はさも億劫だと言わんばかりにゆっくりと羽をはためかせる。そのまま窓から飛び立っていくのかと思いきや、なんと私の頭上に落ち着いてしまったのだ。


「とっても不思議な子なのね、お前は」


私は諦めて、腕を伸ばし小鳥をちょいとつついた。


私は聖女であり、魔物と相反する存在。小鳥といえどこんな風に関わりを持つなんて、きっと許されることじゃない。


私の中の理性はきちんと、答えをはじき出しているはずなのに。


「お前の好きな時に家にお帰り。ここにいることは誰にも言わないし、私以外に住んでいる人もいないから」


どうしてだろう。毎日毎日あれだけ人に触れ、その温もりを肌で感じているのに。


頭の上にいるこの小さな魔物から感じる鼓動と体温の方が、ずっと暖かいと感じるなんて。


「おいで。一緒にパンを食べましょう。少し固いかもしれないけれど」


ふかふかの白いパンを出してあげられない自分を、情けないと思う。


ふっと影が落ちたかと思えば、金色の小鳥が私の頬に擦り寄ってきた。


「もしかして、慰めてくれてるの?」


当然、小鳥は答えない。もしかして魔物はこんな姿をしていても、人間の言葉が理解できるのかしら。


詳しくは分からないけれど、この子の仕草はとても可愛らしい。


「名前…つけてもいいかな。いいよね、少しの間だけだし」


ちょいちょいと嘴を触ると嫌そうに首を振るのがおかしくて、思わず笑みが溢れる。


「綺麗な黄金の羽…私、あなたのことオーロって呼ぶわね。いい?オーロ」


小鳥はつんつんと優しく私の手の甲をつつく。まるで言葉を理解しているような仕草に驚きつつ、私の胸の中には温かな感情がじんわりと染み込んでいった。

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