第28話 愛

「アンタって本当に駄目ね」


苦しい。


「この穀潰し!家から出て行き、のたれ死ね!」


怖い。


「お願いだから死んで」


「どうして俺だけこんな目にっ……!」


こんなことしかいえない。

こんなことしかいえない自分に本当に嫌気がさす。

こんなことしか思えない自分に本当に嫌気がさす。


「苦しい!痛い!逃げ出したい!!!」


こんなことしかいえない自分が本当に嫌いだ。


もう嫌だ、そんな、絶望の最中俺はある異変に気づいた。


「……くん!!」


突如、今までの罵声とは少し違った口調の叫び声が聞こえてきたのだ。


「……?」

「実くん!!戻ってきて!!」

「あっ!!」


これは紛れもなく生田目さんの声だった。姿は見えないが、声だけが聞こえる。

しかも、いつもみたいに平坦な声じゃなくて、強弱のついた大声で、俺の聞いたことのない生田目さんの話し方だったが、すぐに生田目さんの声だと分かった。

どこかで聞いたことがあるから。


だが、情けないことに、さっきのことから俺はこの優しい声にすら怯んでしまうようになっていた。


「実くん!!戻ってきて!」

「生田目さん……俺のこと嫌いなくせに。あんなに文句いったくせに。

「え?なんのこと!?」


自分でも情けないが、止められない。生田目さんも困っている。


「俺のこと嫌いなくせに」

「私は……実くんのことを……」


       ◻︎▪︎◻︎


どこだ?ここは。


俺はさっきまで真っ黒な空間で生田目さんの声と話していたはずなのに、突如草原の中にいた。


そして、目の前には━━アイがいた。


「アイ!?」と叫びそうになってしまったが、成長と戦った時のように、声は出ず、少し戸惑う。


その戸惑いが少しで済んだのは、一重にアイへの興味だと断言できる。


俺の注目の中、目の前にいるアイは、顔を赤らめ、満面の笑みを浮かべた口を開いた。


「私、実のこと本当に━━」


        ◻︎▪︎◻︎


「好きです!愛しい!愛してます!」


ああ……


君は僕を愛しているのか。


僕も、君が好きだ。愛してるよ……愛。


口が……動かない。伝えられない。


というかそれ以前に目も開かない。


いや、開け!開いて努力を実らせろ!


俺の愛を証明しろ!!


動け!俺の……身体!!


「筑波嶺の 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる 」


俺は、気づいたらいっていた。


気づいたら周りも見えるようになっていて、ちゃんと手足も動くようになっている。


「み、実くん……すごい……」


気づいたら、俺は成長戦に負けず劣らずの祓術を出していた。


だが、貢献は消えてはいなかった。

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