第19話 水筋変化予報

「?あ、は、はい!」


 全く予想していなかったことを言われて、俺は面食らう。


 だが、生田目さんは相変わらずなにも気にしていない様子で、ピンク色の目を鎮座させていう。


「何組でしたっけ?」

「二年B組です!」

「じゃあ、行きましょう。」 


       ◻︎▪︎◻︎


 不安を抱えながらも生田目さんを案内した俺と、歩き方まで平坦な生田目さんが二年A組の戸をくぐる。


「えっ!っていうか、本当に何があったん!?」

「マジで!えっ!えぇー!」

「みんな!静かに!先生のいうことを聞きなさ……って性欲の……」

「薔薇です。」


 このパニック状態の教室に、俺の隣で安定の平坦声がこだまし、なんともいえない間があく。

 と思ったら再び教室内は騒がしくなった。


「って、生田目愛じゃん!」

「マジ!?」

「いつ見てもびじ〜ん!」


 全員がピョンピョン跳ねて、グルグル回った。

 ……流石に比喩だけど、このぐらい大騒ぎしていたということだ。


「何故、生田目さんがこんなところへ……?」

「妖が出たからです。」

「……それはどんな?」

「六大妖の成長です。」

「……え」


 毛のない頭をかきむしりながらクラスを代表して聞いた先生がかく手を止めた。


 先生が「本当ですか!?」「場所は!?」などと生田目さんを質問攻めにしている。

 クラス中の生徒たちも俺たちが入ってきた時と同様、不安な面持ちに逆戻りだ。


 だが、相変わらず座った声でみんなに黙ることをお願いした後、生田目さんは告げる。


「この学校には先程も述べた通り、六大妖の1匹、成長が来ました。理由は学校を破壊するためだそうです。そして、みなさんは幼児化の呪語をかけられました。」


 一度は静まり返った教室が、ふたたびざわめき出す。

 だが、案の定、生田目さんはものともせず、話を続ける。


「ですが、成長は私がきた時にはもう、術も、成長自身も祓われていました。━━実くんに。」


 また、教室が静まり返った。みんな黙っているが、表情はそれぞれだ。


 目がおっこちてしまうほど、開け広げている者、目はそこまで開いていないにしてもあごが外れてしまうほど口が開いている者、眉をひそめている者もいる。


 つまるところ、みんなすごく驚いているのだろう。

 当の俺だって驚いているのだから無理はない。


 パチ


 その時、手のひらを叩いた時に鳴る音がした。

 俺のより少し小さい音のような気もするが。


 パチパチパチ


 さらにそれが鳴ったので、音のした方を見ると、隣の席の冴島さえじまさんが拍手をしていた。


 パチパチパチ


 今度の俺より大きな手のひらの音の主は木渡きわたりくんだった。


 パチパチパチパチ


 さらに、もう一つ。


 パチパチパチパチ


 さらにもう一つと音は増え、気づいたらクラスの大半の人が拍手をしてくれていた。


 よく見ると、いじめの主犯格の奴らは眉をひそめて俺らのそっぽを向いている。

 だが、別にいい。


 今の俺にはこんな感じのちょっとした世間の称賛と、たった今、横を向けば見れる生田目さんの優しい笑顔、これがあれば充分だ。

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