第18話 いつもにも増して落ち着きがない

「え?」


 俺の声帯が変な音を発する。

 意味がわからない。


「え?」


 その数秒後、生田目さんも俺と似たような声を出す。珍しく、声の強弱がほんの少しついているように聞こえなくもない。


 俺はとりあえず、少し目線下にある座ったピンク色の目を見つめ、聞く。


「『ありがとう。』ってどういうことですかね……?」

「え?だって、実くんが祓ってくれたんでしょ?」

「えっ!?」

「え?違うんですか?」

「違わない!違わない!……違いません!」


 生田目さんは相変わらず下に下がっている平行な眉だが、俺の眉はというと、額の真ん中に行くぐらい上がっていると思う。


 まさか、信じてくれるとは!


「生田目さん、信じてくれてありがとうございます!」

「なんで、私が実くんのいうことを疑うんですか?」

「だって……俺……弱いですし……」

「別に私は好きな人のいうことを疑ったりしませんよ。」

「ッ!!!」


 えっ!!!!!


 声にならない。

 嘘だろ。え。好きって……え!?

 顔が熱くなり、変に声がかわいた。

 恥をかいた時特有の症状だが、不思議と不快感はしない。


 むしろ━━


「心地いい……。」

「え?」


 生田目さんが平坦な声と目と眉をして俺に聞き返す。

 これは気持ち悪い。誤魔化さなければ。


「あっ!!いや!あのっ!好きってそういうのかなーって!いや!そんなわけないですよね!アハハハハ!!!」

「はい。そうですね。私は弁才天様専用の性欲の薔薇だから。」

「……えっ!」

「え?」


 生田目さんが、俺を恋愛的に好きだと完全に勘違いしていた俺はついつい最後、驚きを隠せなくなってしまった。

 あぶなかったー!恥ずかしー!バレてないよね?この動揺。


「でも、実くんは可愛い顔してるし、好きな子は好きそうですよね。」

「えっ!まぁ、う〜ん。」


 そう。ぶっちゃけ俺は女の人に恋愛的に好きになられることが昔から多かった。俗にいう、「モテル」というやつなのだろう。


 高校ではあのとおりだけれど、中学の時は女の子から好意を伝えられるのは一度や二度ではなかったし、今でも街を歩いていると女の子が美形の男を表す言葉、「イケメン」ともよくいわれる。


 だが、俺はあんな厳格な家で育って、流行りはおろかこのようにカタカナ言葉までもあやふやな変わり者だからか、みんなが夢中になる「恋愛」という概念にも特に興味がなかった。

 まず、自他が美形か否かも興味ないし、わからないから話にならないのだ。


「まぁ、とはいっても私は弁才天様一筋ですが。」


 なのに、なんだ。


 この落ち着かない気持ちは。


 さっきから俺はなにを動揺している。


「実くん!」

「うわっ!!」

「話しかけるの三回目ですよ。」

「すみません、すみません。」


 平坦に告げる生田目さんの方にまだ熱っているのを感じる顔を向け、作り笑いでいう。


 ━━この動揺、バレてないよね?


 落ち着かない俺をよそに、生田目さんは相も変わらず落ち着いた様子でいう。


「じゃあ、今から実くんのクラスに案内してください。」

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