第43話

 クレイ達の戦いを観戦していたイルワロ目がけてギアゴーレムの頭部と胸部が飛んでくる。

「うわああああああああああああっ!」

 イルワロはそれをなんとか後ずさって避けると、目の前に巨大な塊が落っこちた。

 イルワロは壊れたゴーレムを見て呆然とする。

「…………あいつら、倒しやがった……。まさかこんなに強かったとは……」

 イルワロは焦りながら立ちあがろうとするが、腰が抜けて動けない。

「まずい……。村人共が戻って来ちまう……」

 逃げようとするイルワロだが後ろに気配を感じて振り返る。

 するとそこにはカイネが立っていた。

「お前……。逃げたガキ……。どこに行ってやがった?」

「どこだと思う?」

 カイネは不敵に笑った。

 苛立つイルワロだが、カイネの後ろを見て青ざめる。

 そこには地下に繋いでおいたはずの亜人の女達が解放されていた。

 イルワロがクレイ達の戦いにうつつを抜かしている内にカイネは小屋へと戻り、仲間を助けていた。

 仲間達の先頭には先ほどまで白目を剥いていたナタリーの姿がある。

 ナタリーはフライパンを持ち、怒り心頭でイルワロを睨んだ。

「よくも……辱めてくれたな!」

「いや、あれは、その……」

 言い訳する間もなく、ナタリーの一撃がイルワロの頭部に直撃。

 ゴオンと音がするとイルワロはその場で気絶した。

 捕らえられていた亜人達は歓声を上げる。

 ナタリーはカイネを褒めた。

「よくやった。おかげで助かった」

「ううん。あの人達のおかげだよ」

 カイネは村の方向を指さすと、そこにはクレイとアリアを背負うマリイが小屋の方に向かってきてた。

 クレイは解放された亜人達に歓迎されて照れる。

 みんなほとんど裸のような姿で大事なところだけを隠した服を着ていた。

 ナタリーに至っては胸の先を膨らませ、太ももから白濁液が流れている。

「ありがとう。まさかあのゴーレムを倒すとはな」

 ナタリーはクレイに握手をした。

 クレイは恥ずかしがりながら答える。

「いえ。その、たまたまです」

 謙遜するクレイ。

 隣のマリイは嬉しそうにしてからナタリーに尋ねた。

「これからどうするの?」

「仲間のところに逃げるつもりだ。もうすぐこいつが呼んだ応援が来るだろうからな」

 ナタリーは気絶しているイルワロを蹴った。

「君達も気を付けろ。亜人狩りはしつこく、悪質だ。もし君が邪魔をしたことを知ればなにかしてくるかもしれない」

 クレイは怯えながらも頷く。

「う、うん。僕らもギルド本部に報告しておくよ」

「そうか。あまり役には立たないだろうがな。被害を受けるのは亜人だけなんだ。人間がそうそう動き出すとは思えない。結局自分の身は自分で守るしかないんだ。そのためにわたしは亜人騎士団に入った。だが亜人の集落を助けようとしたところを逆に捕まってしまった」

「そうだったんだ……」

「ああ。だけどわたし達もやられっぱなしじゃないさ。いずれ、人間達から自由をつかみ取ってみせる」

 ナタリーは決意を秘めて拳を握る。

 人間であるクレイは複雑だった。

 ナタリーは気絶したイルワロを地下室に閉じ込めると仲間と共に村を出発した。

 カイネはクレイに手を振った。

「またね! お兄ちゃん!」

「うん!」

 クレイも手を振り返す。

 しばらくすると亜人達は見えなくなった。

 その夜、クレイ達は帰って来た村人達から歓迎を受け、宴は朝まで続いた。

 宴が終わり、朝になるとクレイ達はようやく解放されてギルドに戻る。

 帰りはお互いに体をくっつかせながら馬車に揺られて眠った。

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