誰も知らない・🐵🦀合戦

龍玄

🐵🦀合戦

 むか~し、むかし。ある所に勤勉実直なカニさんがいました。カニさんは友人から貰った柿のお土産を甚く気に入り、種から育てようと勉強して、柿を育てる事にしました。 

 日当たりのいい場所を見つけ、土を肥やし、種を撒きました。それから毎日、せっせと水を撒き害虫を駆除し、それはそれは大切に育てました。「桃栗三年柿八年」。 

 一生懸命費やす時間は、光陰矢の如しで過ぎ、柿の木は愛情たっぷりすくすく育ち立派な枝ぶりを見せた。お日様は、よしよしと燦燦と元気の源を降り注いだ。柿の木は立派な実を付けました。まだまだ緑色の丸い玉は、日に日に日光を浴び、淡い橙色に育ちました。中には鮮やかな橙色になるものもあり、カニさんは食べて見たくなりました。


 「あっ、どうしよう。僕、登れないよ」


 カニさんは幾度か木に登ろうと試みましたが、幾度もひっくり返り登れませんでした。「どうしよう、どうしよう」と悩んでいるところに赤ら顔のサルが現れました。赤ら顔のサルはカニさんに「どうしたんだ」と声を掛けてきました。カニさんは、「柿の木を育てて実がなったので採ろうとしたら木に登れないことに気づいた」と答えた。赤ら顔のサルは小声でこいつは馬鹿か、とほほ笑むと「じゃ、俺がとってやるよ」と返事し、身軽に木を駆け上がった。頃合いあの柿を毟り取った。「凄いねサルさん」とカニさんは目を輝かしていました。赤ら顔のサルは「味見してやるよ」とパクリと柿に食らいつくと「ぺっ」と吐き出した。「なんだよ、これ、すっごく渋いじゃねぇか」と地面に柿を叩きつけました。「ああ」。カニさんはなんてことを思いながら育て方を失敗したのかと動揺していた。そこへ赤ら顔のサルの仲間がやってきた。


 「何してるんだ」

 「こいつが柿を取ってくれって」

 「取ってくれ、って…じゃ、手伝わないとな、みんな」

 「ああ」


 赤ら顔のサル軍団は手当たり次第に実を毟り取り、取っては吐出し、取っては吐出しを繰り返した。


 「ぼ・僕の柿が…」


 赤ら顔のサル軍団は実った柿を取りつくすと


 「まずい柿だな、次はうまくつくりな」

 「旨く、上手くか、こりゃ柿より美味いな」


 ふざけた捨て台詞を吐きて、赤ら顔のサルは立ち去っていった。カニさんは実が捥ぎ取られた木と地面に落とされた人齧りされた実を見て途方にくれていた。放心状態から少し気が戻ると悔しさと虚しさで「畜生、畜生」と大声で泣き叫んだ。

 ガサガサ。茂みから現れたのはクマさんだった。「どうしたんだい」とクマさんが尋ねるとカニさんは惨状の経緯を説明した。


 「赤ら顔のサルか。あいつらずけずけ他人の領域に入り込み、善意の面して嘘をついたり奪い取ったりとやりたいほうだいなんだ。私も蜂蜜を奪われて懲らしめてやろうと立ち向かったんだけど素早く逃げ回られて取り逃がしたんだ」


 カニさんは、クマさんも歯が立たないと分かると諦めるしかないと次こそはと前を向いた。それからは傷ついた木がどう変化するか観察した。ただ、地面に落ちた柿の実は多く重たくカニさんの手では片づけられなかった。散乱した柿の実を見つめながら、「もし、新に芽を出せば大切に育てるから許してね」とひとつひとつの実に声を掛けた。数日が過ぎた。

 ある日、カニさんが柿の木に来るとそこにはアライグマさんがいた。アライグマさんは、落ちた柿を旨い、旨いと食べていた。


 「アライグマさん、何をしてるんだい」

 「甘い匂いがして食べてみるとこれが旨いんだ。あっ、カニさんに黙って食べてゴメンね」

 「いいよ、赤ら顔のサルに捨てられたものだから」


 そこにクワガタさんが飛んできた。


 「柿の実が地面に落ちて熟したんだ。ほら、あれを見てごらん」とクワガタさんが指さすところを見るとアリさんがせっせと実を切り取り巣に列をなして運んでいた。カニさんはアリさんの真似をしてひと口食べてみた。「旨い」。そこにクマさんがやってきた。


 「どうしたんだい、賑やかだけど」

 「柿が旨いんだ」

 「どれどれ、本当だ」

 「いつか腐る。それまでに皆にも食べて欲しい」


 カニさんの申し出を受けクマさんは仲間を集めた。集まったのはシカの親子、カラスの一団、野良ネコさんたちだった。それから何日か甘く美味しい食卓を皆で楽しんで絆が深まった。


 「災い転じて福となる、だね」とカニさんがにこやかに言うとクマさんは「だからと言ってたちを赤ら顔のサルたちは許さない」と憤るとシカさん、カラス、ネコも頷いて見せた。するとネコさんが可笑しなことを言いだした。


 「懲らしめてやろぜ」

 「どうやって」

 

 ネコさんは皆を集めて作戦を伝えた。「それは面白い」と一同は賛同し、直ぐに行動に移した。クマさんとシカさん、ネコさんが大きな声で「これは美味い、これは美味い」と叫んだ。すると、木々がゆさゆさと揺れ赤ら顔のサル軍団が現れた。木の上から這いつくばって食べる動物たちを見て「這いつくばって食べるなんて、お似合いだな、あはははは」と小馬鹿にしてきた。カニさんは「こんなに美味しいものを食べない方がどうかしてるよ」と熟した実を食べて見せた。それにクマさんたちも続いた。

 赤ら顔のサル軍団は卑しさを剥き出しにし、「これは俺たちが落とした柿の実だ。俺たちのものだ」と動物たちを追い払い、落ちた柿の実を手に取り貪り付いた。


 カラスの一団は更なる仲間を呼び柿の木は黒く染まっていた。クワガタも仲間を集め、木の枝のあちらこちらに待機した。シカは雄の仲間を呼び、赤ら顔のサル軍団をぐるっと包囲した。

 配備が済んだのを確認したネコさんが「旨かったか」と赤ら顔のサル軍団に声を掛けた。柿の実から目を離すと取り囲まれていたのに気づき慌てて柿の木に我先に駆け上がっていった。そこに待ち受けていたのはクワガタ隊。赤ら顔のサルたちの尻尾や手足を自慢の大アゴでプチリ!「あいたたたたぁ」「あいたたたたぁ」とあちらこちらで聞こえた。枝から枝に飛び移るにカワスが空中戦で撃退していく。堪らず木から降りる赤ら顔のサルをシカが角で引っかけ引っ繰り返す。それをクマさんが全体重をかけふんづける。再び、木を駆け上がり逃げる赤ら顔のサルを追いかけてネコさんが木に登り、自慢の高速連打の猫パンチを食らわせた。赤ら顔のサルは「ひぇ~」と各々山奥に怪我をしながら逃げ去っていった。

 カニさんたちは憂さを晴らし、「エイエイオー」と勝どきを上げた。

 そこへ「助けてくれ~」ネコさんの声がした。声のする方を見上げるとびくびく震えるネコさんがいた。「いつもああなんだ。登ったはいいけど降りられないんだネコさんは」と言いながらクマさんは木を登っていくとネコさんはクマさんの背中に飛び乗り降りてきた。「学習しなよ、ネコさん」「面目ない」とのやり取りに動物たちの笑い声が森に木霊した。

 

 努力もせず、怠惰でズル賢さだけで生きていれば、必ず、正義の鞭を受けるというお話でした。めでたしめでたし。



 

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誰も知らない・🐵🦀合戦 龍玄 @amuro117ryugen

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