｢姫さま！大変です！問題発生です！｣プリンセスに転生させてもらったら、何と魔王の娘！？次々起こる問題を現代の知識と得意なカンフーとお料理でズバッと解決！

第20話 大魔法炸裂！！豚人共！ざまぁみろ！

「では、始めます…」

　エルスは目を閉じ、杖を構え魔力を集中し始める。

　荘厳な言語での呪文詠唱が始まる。

　森人（エルフ）語かな？

ーDieser große Wald(大いなる森よ)ー

ーblendend grün(まばゆき緑)ー

ーGeister der Bäume(木々の精霊)ー

ーDryade(ドライアドよ)ー

ーWind weht durch(吹き抜ける風)ー

ーWindgeist(風の精霊)ー

ーSylphe(シルフよ)ー

ーsauberes und reichliches Wasser(清く豊かな水)ー

ーWassergeist(水の精霊)ー

ーUndine(ウンディーネよ)ー

ーgib mir Stärke(我に力を)ー

　戦いは、エルスを中心に乱戦の体を醸し出してきた。

　でも、神器（アーティファクト）って凄いのね。

　ギンカさんもフェルも1人で大半の敵を相手にしていて引けを取ってないもん。

　ギンカさんは大物、豚人英雄（オークチャンピオン）を相手にしながら他の豚人（オーク）も。

　彼女の神器（アーティファクト）・雷切から放たれる雷の余波が豚人英雄（オークチャンピオン）の取り巻きを焦がしていく。

　一方のフェルの神器（アーティファクト）・白狼双月は変幻自在。

　弓形態で矢を放ったと思ったら、その矢を追いかけて接近して曲刀双剣で接近戦。木に飛び乗り、離脱する際に一刀を投擲しつつ、近接戦闘。

　2人は倍以上の数の敵を相手にしているのよね。

　でも、いくら神器（アーティファクト）が強力でもうち漏らしは出てきちゃう。

　ブヒー！！

　わたしに向かって突進してくる豚人（オーク）。

　フウガさまが手刀を一閃。

　ぶぺぱ、ぴぴ？

　真っ二つになって、私達を綺麗に避けて半分づつ木に激突する。

　か、カッコいい♥️

　さすがフウガさま！！

「フウガさま、剣は抜かないの？」

「ああ、この程度の雑魚に風凰剣を抜く必要はない」

「あ！エルスが！魔法に集中してるのに！」

　エルスに豚人（オーク）が向かっていくのが見えて焦るわたし。

「案ずる必要はないようだぞ？」

　フウガさまが指を指すと、エルスは一切の集中を乱すことなく、魔法の詠唱を続けている。

　豚人（オーク）の攻撃はエルスの乗る白狼が華麗に回避し、その鋭い爪を振り下ろし、豚人（オーク）を切り裂く。勿論、一撃で倒せる様な攻撃ではないのだけど、間髪入れず光の矢が豚人（オーク）を射抜く。フェルね。

「森人（エルフ）の女性は全幅の信頼をあの白狼に置いているな。白狼もまた然り、か」

　フウガさまの言う通り、エルスの乗っている白狼はまるでエルスが自らの足で駆けているかの様に立ち回っている。

　迫る豚人（オーク）を避け、エルスの詠唱への集中を一切妨げさせない。

「それにしても、数が多い！森にこんなに豚人（オーク）が潜んでいただなんて」

　森の住人、獣人（ビースト）のフェルが驚きの声をあげる。

「豚人将軍（オークジェネラル）の手腕がよかったか？本気でこの森を落とそうとしているようだな」

　腕を組んだフウガさまが状況を考察。

　どうやら、豚人（オーク）はフェル達に気付かれないように、森中に潜んでいたようね。

「次から、次に！！」

　フェルは光の矢で応戦。

『Zweig Speer(枝の槍)！！』

　エルスの声が響く。

　木々の枝が宙を舞い、槍状に形を変化させ、豚人（オーク）達に突き刺さっていく。

　これが、大魔法？何か地味ね。

「ほぅ。キミの配下はかなり高度な術士だな。詠唱しながら、他の魔法を使える者など、なかなかいないからな」

　フウガさまがわたしの考えを見透かしたかの様に言う。

　その証拠に

ーEs ist der Atem der großen Erde(其は偉大なる大地の息吹き)ー

ーDas ist die Fülle des Lebens(其は豊かな生命の恵み)ー

　エルスは集中を乱すことなく魔法の詠唱を続けていた。

『Wasserschwert(水の剣)！！』

　エルスの声が響く。

　でも、何も起こらないわね…

「どうやら、キミは強化魔法に特化し過ぎているな。魔族（ディアボロ）らしくないな。よくみてみろ」

　フウガさまの言う通り、わたし。ロクな攻撃魔法使えません！

　練習して、ルナに見せたら。

「それは初級中の初級の魔法です。我ら魔族（ディアボロ）なら息をするのと同じくらいの感覚で使えるものですが？」

　グサリとくる一言…

　その辺、ルナは遠慮ないのよね…

　ま、それは兎も角。

　エルスの魔法は彼女のミミズクの周囲に水で出来た剣を出現させていた。

　ミミズクは木々の合間を縫って飛び、豚人（オーク）に水の剣を放っていく。

「あれは、高度な技術だぞ。キミの従者は素晴らしいな。どこであれほどの逸材を？」

　エルスのこと、フウガさまベタ褒め。何か嬉しい！

「使い魔を通して魔法を放つ。並みの術者には出来ない芸当だぞ」

「彼女は小鬼（ゴブリン）に囚われていて、保護したの。彼女にとってはつらい記憶だから、触れないであげて」

　フウガさまにエルスとの出会いについて話す。それにしても、エルスって、スゴかったんだ…

『Wind Nagel(風の爪)！！』

　エルスが魔法を放つ。

　今度は乗騎の白狼が風を纏う。

　白狼が爪を振るうと、それと同時に風の爪が豚人（オーク）を切り裂く。

　エルスは自分のファミリアに強化魔法を使っているのね。すごいなぁ…

「チェストォォォォォォッ！！！」

　裂帛の気合いのもと、ギンカさんが豚人英雄（オークチャンピオン）を切り伏せる。

「おはんなど、ハナから私と雷切の敵ではなか！」

　豚人英雄（オークチャンピオン）が倒された時、豚人（オーク）達に動揺が見え始める。

　中には逃げ出そうとする豚人（オーク）もいる。

　そこの時。

　ぐぉぉぉぉぉっ！！　　

　何かの咆哮が響く。

　その咆哮を聞いた途端、豚人（オーク）達の目の色が変わった。

　鼻息も荒くなり、全身の筋肉も盛り上がった様にみてとれる。

　な、何が起こったの？

「戦咆哮（ウォークライ）、だな」

「うぉーくらい？」

「ああ、豚人（オーク）どもの親玉が戦場に到着だ。部下達の理性を奪い、ただの戦闘マシーンに仕立てるモノだ。痛みも何も感じない、指揮官が止めるまで戦い続けるぞ、あいつらは」

　フウガさまの説明を聞き、へきへきするわたし。

　用は、お相撲さん達がリミッターも何も関係なく、全力で暴れまわるってことよね？

　ヤヴァいじゃん！

　フウガさまの出番じゃん！！

　わたしはフウガさまに抱き付く腕の力を強める。

「だが、キミの従者も準備が整った様だぞ？」

ーDas ist sattes grün(其は繁茂する緑)ー

ーDas ist der Zorn des Waldes(其は森の怒り)ー

　エルスは杖を天に掲げる。

ーEs ist der Wille des großen Urwaldes(其は偉大にして原初なる森の意思)ー

ーSein Name ist(その名は)ー

ーZauberkraft von frischem Grün(新緑の魔力)！！ー

　エルスは杖を掲げる。

　すると、エルスの前方に緑色、新緑の葉っぱの様な鮮やかな色をした巨大なヒトの形をしたものが顕現する。

「あれが、新緑の魔力…」

「知ってるの？フェル？」

「ええ。森に生きるものなら誰もが知ってます。あれは、森そのもの…森という完成された生命のサイクルを顕現せしめたものです」

　その、新緑の魔力が腕を振るう。

　すると、新緑の魔力に向かっていっていた豚人（オーク）達の足元から蔦の様なモノが現れ、豚人（オーク）達に絡み付いていき、飲み込む。

「ど、どうなったの？」

「新緑の魔力の力です。敵対するモノを苗木に変えてしまいます。ほら、豚人（オーク）達が苗木に変わっていきますよ」

　フェルが指を指すと豚人（オーク）達が1匹、また1匹と苗木？に変えられていく。

「キミの従者、エルスと言ったか？の知覚は森全域におよぶ。おそらく、森の中の豚人（オーク）がすべからく苗木に変えられているだろう」

　そして、その力は豚人将軍（オークジェネラル）にも及び始める。

　豚人将軍（オークジェネラル）の両手両足に蔦が絡み付いていく。

　屈強な豚人将軍（オークジェネラル）は絡み付いた蔦を無理矢理引きちぎろうとしているけど、どんどん蔦が絡み付いていき、あっという間に身動きが出来ない状態にされてしまったわ。

　頭まで包み込まれるのに、ほんの数秒。

　大魔法とやらで召喚された、概念存在ってスゴいのね…

　豚人将軍（オークジェネラル）の全身が蔦に覆われたのを確認したエルスは、止めの一言を発する。

ーBlumen blühen in voller Pracht！！(花よ！咲き誇れ！！)ー

　エルスが高々と杖を掲げ、力ある言葉を発すると、新緑の魔力は両手をパンッ！と、叩くような動きをする。

　それが両手を合わさると魔力の奔流が森中を突き抜けた。

　すると、蔦に覆われた豚人達から見目も鮮やかな花が、いくつも咲いた。

　〆は綺麗ね。

　あんだけのことされた豚達がこんな綺麗な花になるのはちょっぴりシャクだけど、ね。

　花が咲き終わる頃には新緑の魔力とかいうのも姿を消していたわ。

「ルクスリア姫様、私（わたくし）やりましたわ」

　エルスはやりきったかのような笑顔をわたしに向ける。

　何処か誇らしげで、何が吹っ切れた、そんな印象を受けたわ。

　こうして、森での豚人（オーク）達との戦いが終わったのでした。