第35話 クソ長かったプロローグ

「ココ、生首を向けなさい」

「うん」

 ヒョイッとオバはんをクイの方へ向けるココ。

「およし…ンギャァァァァー」

 鞘がピトッと触れた瞬間ジュッ‼ なんてもんじゃない蒸発音とオバはんの断末魔が古城へ響く。

「クイ…ドジュゥゥウーって言ったよ」

「効果絶大…完璧だわ」

 オバはん…この一撃で完全に消滅したようである。

「長い闘いだったわ…さらば愉快なヴァンパイア姉弟…最後に、お土産ありがとう」

 オバはんも知ってはいたけど予想外だったことであろう。

 不死の中の不死たるヴァンパイアが一撃で消滅するなど…日光でも、死ぬほど痛いけど灰になる程度と教えられたはずだ。

「じゃあ次、鞘に納めてみましょう」

「クイ…どうみても入らなそうだけど?」

 魔剣ダレヤネン、形状は禍々しくも大きさはブロードソードである。

 鞘は反りがあり、形状も大きさも入りそうにない。

「大丈夫よ、ソコを無視するのが魔法のアイテムなんじゃない、心配せずにグイッと押し込んでみなさい」

 ズポッ…。

「入った…」

「それ見なさい、そういうものなのよ」

「ダレヤネン 狭くない? 大丈夫そ?」

 一応、収まり具合を尋ねてみるココ。

「……ダレヤネン?」

「えっ?」

 聞いたことない女の声が返ってきた。

 思わず驚いて納刀された剣を落とすココ。

「痛ぇよココ落とすな‼」

「ダレヤネン‼」

 今度はダレヤネンの声。

「まったくじゃ…刀を落とすなど…侍の恥と知れ娘‼」

 女の声。

「侍?」

 クイが刀を拾い上げる。

「アンタ…倭国の?」

「倭国? 侍? 聞いたことあるぜ、島国の剣客集団…恐ろしく強ぇって…」

「うるさい刀じゃのぅ‼」

「テメェこそ怒鳴るな‼」

 納刀された魔剣がステレオで喋ってくる。

「あわぁぁぁ」

 ココ、パニックである。

「品のない刀を納めおってからに…避けるかと思うたわ…まったく」

 刀を拾ってワタワタしているココを繁々と見ていたクイ。

「ココ、抜いてみて」

「えっ? 抜くの? せっかく入れたのに?」

 ズポンッ…

「プハッ…なんか解放感が半端ないね」

 魔剣ダレヤネン、鞘に入ると息苦しいらしい。

「おい…そこのひょろ長い娘」

「ん? アタシ?」

「オマエが、その剣の所有者か?」

「そだよ、魔剣ダレヤネン…ソウルイーターです、よろしく」

「ソウルイーター? 東洋の魔剣か…どうりで…デカいだけで…」

「何だテメェ‼ 締め付けるだけで痛ぇんだよ‼」

「あん? 何本もの妖刀を抑え込んできた名器なんですけど‼ サウンザンドワームなんですけど‼ 魔力搾り取んぞコラッ‼」

「やれるもんならやってみろビッチが‼」

「はぁ!? 誰がビッチじゃ‼ ウチは由緒正しき封呪の家系なんですけど~‼ ウチのひいばあちゃんとかマジでエグちなんですけど‼」


 右手に喋る剣・左手に喋る鞘、挟まれたココ、なんか泣きそう。

「……ココ…上手く使うのよ」

 クイ、一言だけ言い残し城内へ戻って行った。


 疲れたので今夜は吸血鬼の古城で寝ることにした御一行。

 エントランスで焚火して眠った。

 とりあえずココは剣を鞘に納めてシクシクと眠った。

 剣と鞘の言い合いは、ほどなくして静かになったという。


 翌朝…。

「ンギャァァァアー」

 トマの断末魔で目を覚ましたクイとココ。

 うっかり棺桶に入らないまま寝落ちしたらしく、クイが気づいた頃には灰に変わっていた。

「ココ…とりあえず灰を集めるだけ集めて頂戴」

「うん…トマ…大丈夫かな?」

「期待しましょう…吸血鬼のデタラメさに」

「うるせぇよ…どしたココ」

「トマが灰になっちゃった」

「灰? ヴァンパイアが野宿とかマジでウケる」


 とりあえず朝食は誰が準備するのか考えたが、吸血鬼の城に食い物などあるわけもなく、一同、古城を後にした。

「どうするの~クイ?」

「灰になった仲間を蘇生させるには、王都に行くしかないわ…カント寺院へね」


 クソ長い前振りを経て、ようやく本来の目的へ動き出した物語…。


 追加報告…。

 その後、主が途絶えた古城は上半身だけの猫が度々目撃されたが…程なくして、その噂も途絶えたという。

 下半身が見つかったのかもしれないニャー。


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