第25話 拾ってきてけど…飼えないってさ

 謝罪を咬むというクイの苛立ちを逆なですることに見事に成功したトマ。

 現在、ピョンコ…ピョンコと跳ねながら皆の後に付いて行くトマ。

 寝袋に包まれたまま自走中である。

 そしてココもクイもトマの歩幅に合わせる気など毛頭ない。

 ガサッ…

「あっ‼ 肉だー‼」

 前方の草が揺れる。

 ココが動物を食肉と認識する。

「鳥かな? 豚かな? 牛かな?なんだと思うクイ」

 鳥・豚・牛の関係各位には敬意をもっているココ。

「いいから捕まえてきてよ…」

「ラジャッ‼」

 魔剣ダレヤネンを放り投げて草むらに頭から飛び込むココ。

「俺の扱いよ…一応、希少価値あるんじゃねぇの俺?」

 旅立つ前に比べ逞しく野生化したココ、これもひとつの成長である。

 成長期だし。

「あんぎゃぁぁー」

 草むらに飛び込んだココの悲鳴が草原に響く。

「うっさいわね‼」

「人が死んでるー‼」

「…だからなんだ? 昨夜まで死人と戦っていたんだ驚くほどのこともない」

 魔剣ダレヤネン、最もな話である。

「動いてるー‼」

「じゃあ生きてんじゃないバカ‼」

「死んでなきゃダメー‼ ほらぁっ」

 ズルッと草むらからココが引きずり出した男性…の上半身。

「いんぎゃぁぁぁー‼」

 胸から下が無い成人男性の遺体と仲良く手をつなぐかのように引っ張り出してきたココ、ホラーな構図に思わず悲鳴をあげるクイ。

「なに? なんかピンチ?クイ殿? どこ?」

 遅れてきたトマ、完全日差しを遮断スタイルなので視覚情報ゼロ。

 事態の把握が出来てない。

「おいおい…ココ、なかなかパンチの効いた御遺体を拾ってくんじゃねぇよ…」

「ううん…ご遺体なら拾ってこない…来なかったの」

 ココが困った顔で口を開いた。

 同時にご遺体も口を開いた。

「この度は…ご迷惑をお掛けいたします…グフッ…」

「血ぃ吐いたぁー‼」

 ココと仲良く手をつなぐ上半身が口から血を吐いたことに驚くクイ。

「おいおい…クイ、驚くのはそこじゃねぇよ…喋ったことにまず驚け…しかも低姿勢だ、あのパンチの効いた姿で」

「……ゾンビ?」

「在り得るな…なり掛けか? ギリギリか? この野郎」

「えっ? ゾンビなの? この人?」

 今更ながら驚くココ。

 まさか自分がゾンビと仲良く手をつなぐ日が来ようとは…お釈迦さまでも知らぬが仏の状況である。

「いえ…ワタシは…そのような腐れアンデットではありません…そもそもアンデットでもありません…」

 さすがに胸から下がないせいか、言葉は、たどたどしいが、しっかりと会話が成り立っている。

 様子はオカシイが、中身はまともな気もする人物である。

「クイー、ソンビじゃないってさぁ~」

「皆、そういうのよココ、そう言っておきながらガブッと来るのよ~離れなさい‼ いい子だから‼」

「じゃあ、そういうわけだから…なんかゴメンね」

 ココがブンッと手を放す。

「いやいやいや、袖すり合うも他生の縁…助けてください」

「ソデスリ? なに? 呪文?」

「おいおい…あのパンチの効いた姿で助けろとか…普通、手遅れだろ」

「そうね、質量的には1/3しか残ってないもんね…そういうわけで、ウチ、アンデッットは間に合ってますので…」

「ハッハハハ…私のことですね…すいません」

「あのね…クイが飼っちゃダメって言うから…いい人に拾われてね」


 とりあえず人目に付きそうな場所にポチョンッと置いてみたココ。

「えぇ…えぇぇ…人としての資質を問うー‼」

 草原で吠える上半身であった。


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