第24話 不便じゃない?

「へぇ~」

 ココが興味無さそうに相槌をうつ。

「要するに…あの変態の姉と名乗る女に血を吸われて吸血鬼になっちゃったと…」

 クイが簡潔にまとめた。

 その間に、無駄に長~いトマの説明はあったのだが、誰も興味を示さなかったのである。

「え~、朝ごはんは誰がつくるの~?」

「おいココ、昼飯もだぞ‼」

「晩御飯が遅くなるわね…」

 そう食事当番がいなくなったのだ。

「すいません…」

 項垂れる寝袋。

「昼間はお荷物ってことだよね~」

 ココがトマのチキンハートを言葉のナイフで、えぐってくる。

「おいおい、自分で歩けよな、棺桶で寝ているオマエを引きずって歩いてもらえるなんて期待するなよ」

 自分もココに背負われている身でありながら偉そうな魔剣ダレヤネン。

「…善処します」

「まぁね…自走するのは絶対として、昼間寝てるだけとか? どういうつもりで付いてくる気なのかしら?」

「…ヴァンパイアは限りなく不死と聞いているので、可能な限り日陰で戦えるよう頑張ります」

「不死って言っても、アレだからな? ヴァンパイアって制限付きだからな、現に、昨夜のアレも死んでるしな」

「そうよ、川を渡れないとか、銀に触れないとか、あと…勝手に他人の家に入れないのよ」

「クイ…勝手に他人の家にはワタシ達もダメなんじゃ?」

 ココの意見は最もである。

「あのねココ、アタシ達は、これから他人様の領土に入ろうとしているのよ、なんなら城なんて王の家だからね」

「そうだな、強盗みたいなもんだからな、許可なんて、貰えるわけがねぇ」

 クイと魔剣ダレヤネンの言葉のナイフが飛び交うミーティング。

「トマ…」

 ココがそっと寝袋に手を添える。

「晩御飯係になっちゃったね…」

「…………えぐっ…」

 寝袋で包まれたトマが泣いていることを察したココ。

「ねぇクイ、トマ泣いてる」

「泣きたいのはこっちなのよ‼」

「ねぇ~朝と昼の御飯どうしようか?」

「ソレとコレとは違う問題なのよ‼」

「そうだな~、トマの特性から考えると…城内潜入は難しいよな~」

 魔剣ダレヤネン頭を悩ましている。

 どこが頭か解らないのだが。

 街中や城内でヴァンパイアが人を襲わないのは、行動に制限があるからなのである。

 でなきゃ一夜で街は吸血鬼でいっぱいになっている。

「まぁ真祖でもなきゃ…暮らしているぶんには怖い相手でもないしね…会わないんだから」

 クイがため息を吐く。

「面目ない…インスタントヴァンパイアで…」

「カップ麺には越えられない壁があるもんね、解るよワタシも」

 ココが頷く。

「まぁアレだな、昼はカップ麺で凌ぐとして…問題は朝飯だな」

「違うよ‼ 遅くなりがちな夕食だって問題だよ‼」

「違うわよ‼ 誰がトマを担ぐのかってことよ‼」

 各々の論点は噛み合わぬまま、時刻は昼を回っていた。

「おなかすいた…」

 ココが途端に不機嫌になる。

「カップ麺とかないわよ…街に行かないと売ってないから」

「……できれば」

「ないわよ‼」

 昨晩の残りは朝飯として完食してしまったので、「できれば…新鮮なお肉でも」と言いかけたココをクイが食い気味に諫めた。

「言い切ってないのに、クイが先回りで否定したー‼」

 空腹で喚くココ、空腹で苛立つクイ。

 言い争いの原因トマが小声で一言。

「重ね重ね……」

「あっ?なんて‼」

 肝心なところで咬むのがトマなのである。


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