第17話 伯爵は紳士である。

「トマ、今度は焦がさないでね」

 クイが調理中のトマに釘をさす。

「承知してまんがな」

「俺も腹が減ったな~」

 魔剣ダレヤネン、腹などないのだが、どうやら魔力が枯渇気味であるらしい。

「その辺の草でも食ってればいい‼」

 ココが冷たく言い放ち、すかさずトマのツッコミが入る.

「草食か‼」

「余計なこと言ってないで…頼むから焦・が・さ・な・い・で・ね‼」

 クイが語尾を強めてトマに注意を促す。

 お手元疎かになっていたのである。

 騎士団長トマ、2つのことを同時に捌けるほど器用ではない。

 実戦においても『盾』『剣』がバラバラなのだ。

 その点、両手剣を使うココ、単純な性格と戦い方が一致しているためシンプルながら強い。

 仕損じても魔剣ソウルイーター、掠るだけでも確実に生気を吸い取るうえに宿った魂が無双の猛者ダレヤネンである、ココへのフォローも完璧、良いコンビネーションで無双している。

 だが…今度相手は、ソウルイーター無効のアンデッドが相手なのだ。

 そもそも魂がねぇ。


 ………

「シャワーを浴びたい…」

 身体は拭いたものの、深刻な焦げ具合のココ、やはり年頃なので焦臭い乙女は受け入れがたい様子である。

「明日には街に着くから、今夜は我慢なさいなココ」

「そうだココ、いい食いっぷりだったじゃねぇか、言うほど気にならんだろう」

「なんか自分の焦臭さが食欲を増進させるの‼」

「自分をオカズに飯を食うんかい‼」

「ツッコミ…長いし…ムカつく」

 再びココがへそを曲げる。

「気にしないのよ~ちょっとストレートヘアにウェーブが、かかったくらいで」

「ウェーブじゃないの‼ 走り屋好みのヘアピンなの‼ 急カーブなの‼」

「いいじゃねぇか、この辺りじゃモンスターくらいしかいないんだしよ、他人に見られるわけじゃねぇんだからよ~」

「明日も引きずる…ズルズル引きずる‼」


 焚火を囲んで夕食後の団らんを遮る来訪者の声。

Bonsoirボ~ンソワ~焦げたお嬢さん」

 気配を感じさせることもなくココの後に立っていた男。

「誰?」

 振りむいたココが一瞬止まって大声で叫ぶ。

「アンギャァァァー‼ 変態がいる~‼」

「えっ? 変態? それはいけません、私が成敗してきましょう」

 その変態がココを庇うようにマントを広げた。

 ミルクチョコのようなボディはヌラヌラと光り、蛍光ピンクのビキニがココの前にブラブラと遠慮なく晒されている。

 スキンヘッドのマッチョがビキニ一丁に黒いマントを羽織っているのだ。

「やっぱり変態がいるー‼」

 ヌラヌラした黒マントの時点で変態を悟ったココ、変態と再認識して、もう一度叫んだ。

「そうね…間違いなく変態ね」

 クイが杖を構えた。

「は~くしゃ~く~さ~ま~‼」

 すぐさま詠唱に入らないのは変態の背後から、とんでもねぇ速さで向かってくる巨大な二足歩行の狼に気づいたからである。

(詠唱が間に合わない…)

「あぁ、お嬢さん、ご安心なさい、アレは私の召使いです、少々毛深いだけで変態ではありません」

ヌラッチョヌラヌラマッチョの略』が白い牙をニカッと見せて笑う。

「ヴァンパイア‼」

 クイの表情が強張る。

「いかにも、アテクシ…ヴァンパイアでございま~す‼ 名を…ブグッ‼」

 ヌラッチョの顔が歪む。

「また…つまらぬモノを斬らすな…ココ」

 フーフー言いながらココ、魔剣ダレヤネンでピンクのビキニをスパンッと斬っていた。

「アテクシの紳士がー‼」

 焚火で燃えるヌラッチョの紳士。

 怒りで燃えるココの闘士。


 戦いの火蓋が切って落とされた…ヌラッチョの紳士と共に。



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