第16話 犬の嗅覚を舐めるなよ

「焦げ臭い…俺の主はk今朝のパンより焦げ臭い」

 魔剣ダレヤネン、ココに背負われて移動中である。

 朝食をトマがしくじった朝、パンと新鮮なハーピーの卵が黒こげであった朝、若干、焦げたココは不機嫌であった。

「人生で…焦げるって…そんな経験ある?」

「ないわ」

 ココ、か細い声で聞いた質問にキッパリと答えるクイ。

「人って…焦げるんだね…」

「そうみたいね」

 焦がした本人がアッサリと答える。

 心なしか歩き方に覇気が感じられないココ、その背中に背負われている魔剣ダレヤネン。

 ほんのり焦げた主に、なんて声を掛けていいやら…。

「いや~クイ殿、今朝はすいませんでしたな、ハーピーの鳴き声で目を覚まして、卵を取ったまではグッジョブだったのですが…意外に火のとおりが悪く、火力上げたら焦げました、ハッハハハ…未だに焦臭い」

「焦臭いのはココよバカ」

 焦げた香りのJCがカクンッと項垂れる。

「焦がした奴に言われたくない…」

「あん? 起きないからでしょ‼ スライムを抱きまくらに寝るヤツ初めて見たわよ‼」

「うん…ソレはもっともだ」

 魔剣ダレヤネンもソコは納得である。

「毛布を引き寄せるようにスライムごと寝返りうったとき引いたからな俺」

「暖ったかかったんだもん」

 ハッ‼とトマが覚えたてスキル『ツッコミ』を思い出す。

「ソレ溶け始めてますやん‼」

「うん…心なしか痩せた気がする…」

「痩せるわけないでしょ…バカ…」

 クイは呆れている。

「それ以上胸が無くなったら、えぐれるもんなココ」

 魔剣ダレヤネン、冗談のつもりが逆効果であった。

 バシンッ‼

 無言で背中のバスターソード魔剣ダレヤネンを乱暴に地面に叩きつけるココ。

 そのままスタスタと歩き出す。

「待て‼ 俺が悪かった‼ こんな所に捨てるな‼ 武器のポイ捨ては禁止されているんだぞ‼」

 叫ぶバスターソードをトマが拾い上げようとしたのだが。

「ん…んんンっ…ん?」

 持ち上げられないトマ。

 先頭を歩くクイがチラッとトマの方を振り返った。

「無理よ、もうココ以外は触ることもできないはずだから」

「なっ…なんでやねん…」

 特にツッコミではなく素朴な疑問である。

「魔剣なんて誰もが使える代物であるわけないじゃない、ココとダレヤネンは、元々一人の人間みたいなもんだからノーリスクで振り回せるのよ」

「クイ殿は、色々と事情を知っているようですね…ん」

「無理なカーンサ・イ訛り、止めたら?」

「……自己啓発は一朝一夕では、いかんですねん」

「イラつくわ~」


「ココ―‼ 拾っての‼ 錆びるぞ‼ なんか錆びるぞコレ‼」

 一応、ポイ捨てには抵抗があったココ、紐を括り付けてズルズルと魔剣ダレヤネンを引きずっているのである。

「焦げ臭い女に背負われたくないんでしょ…」

 完全に不貞腐れているココ。


 ガル…?

 その焦げ臭さに惹かれたのか月がポッカリと浮かぶ頃、トマがキャンプの用意を始めた頃、2Kmほど先で鼻をヒクつかせる巨大な狼が1匹。


「いい匂いがする…」

 人語を操り二足歩行する巨大な狼『人狼』である。

 処女の肉を好む危険な怪物…。

 満月の夜は特に…。

「ククク…肉は血を吸い取ってからですよ…」

 人狼の背後で光る赤い瞳。

 満月の夜には最も出会いたくない歪んだ魔術の成れの果て…ヴァンパイアの牙が怪しく光る。


「では…いきますよ」

「はいご主人様」


 焦げた処女に危険が迫る。

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