第3話 伝説の始まり

 1時間のインターバルを経てココ・ドコデスノン無事、馬車酔いから回復。

「本当に、娘がご無礼を…なんか、ホント‼ すいませんでしたー‼」

 ココの父親がヒマン王に土下座する。

「娘の汚した絨毯は、一生かけてでも洗って綺麗にしますので、ホントすいませんでしたー‼ 弁償は出来ません‼ 出来るのであればウチで飼っている羊の毛を全部丸刈ってでも絨毯を仕上げる覚悟でございます‼」

 母も続いて土下座する。

 土下座する両親に挟まれ中央で突っ立つ細長い娘。

「さっきは、どうも、すいませんでしたー」

 とりあえず謝ることにしたココ、頭を下げる気はないようで直立のままである。

「嘘でも頭は下げるんだココ‼」

「そうよココ、王の前で嘔吐って…アンタって娘は…母さんまで貰うとこでしたよ、吐きそう…いえ泣きそう、形だけでいいから頭は下げて頂戴‼」

 土下座している両親の強い説得はあったのだが、どうもその気になれない反抗期の14歳。


「いや…よいのだ、あの…まぁ絨毯の洗濯とか弁償とか気にせずよい…羊は大切に育てるがよいぞ」

 ナの国ヒマン王、体型に負けず劣らず太っ腹なのである。

「あの~、絨毯の事より…アタシは何で呼ばれたんでしょうか?」

「エッ?さっきの話聞いてなかった?」

 大臣、驚きである。

「さっき…ちょっと、それどころじゃなかったもので…お昼ご飯と一緒に飲み込んだつもりで全部でちゃった。胃も頭もスッキリ、からっぽ」

「うむ…噂の斜め上ゆく豪気な娘よの…このヒマン、心強く思うぞ」

「なんかもう、ご足労したので褒美を貰って帰りたい…ゲロ吐いた場所に立っていたくない。座るのはもっと嫌」

「あっ、ソレで座らなかったのか…なるほど納得」

 王も納得の理由であった。


「話は私からしようかね…ケヒヒヒヒ」

 ババア…占い師がココの前にヨボヨボと歩み寄る。

「なに? なんかされるの?」

 ケヒヒヒ言うババアに警戒心を抱くココ。

「される? ケヒヒヒ…何かされるのじゃ…娘よ、ケヒヒヒヒ」

 ブオンッ‼

「アッぶねっ‼」

 ココの拳が空を切った。

 一瞬早くババアが避けた。ババアらしからぬスウェーで。

「何をするんじゃ‼」

「何かされるくらいなら…される前にナックルパンチをお見舞いしてやる‼」


 もうココの両親、土下座を超えて絨毯に、めり込まんばかりの勢いでうつ伏せている。

 さっき娘が吐いた場所で。

「ホントっ‼ すっんませんっでしたー‼」


「ココよ落ち着け‼」

 後で控えていた騎士団長トマがココを取り押さえようと走り寄る。

 トマに肩を押さえられながらプルプルと小刻みに震えているココが呟く。

「もう嫌だ…呼ばれたと思ったら、王の前でゲロ吐かされて、お土産もなく不気味なババアに脅されて…何がなんだか解んないこと言われて…お土産もくれない、そんな大人達は修正してやるー‼」


 玉座の前で暴れるココを取り合さえるのに騎士団長以下4名の衛兵が投入された。

 鎮圧までに20分を要したと後に王は語る。

「殺されるかと思ったね…マジで…」

 ヒマン王の言葉が書き出しで始まる大ベストセラー『ココ・ザ・バーバリアン』が世に出版されるのは、2年後の話である。



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