美保

鏡を見ると酷い顔だった。

目元はまるで四谷怪談のお岩のように腫れており、白目が充血している。

鼻は潰れ、所々叩き折られた歯が唇や口内に刺さったらしく、ボロボロだ。

肌も傷や痣だらけだった。


しかしショックは小さかった。

健児はこんな顔になっても態度が変わらない。

「可愛い」と言ってくれる。セックスもしてくれる。

健児はきっと、自分がどんな姿になろうと、例えば体重が100キロを越え、ニキビだらけで円形脱毛症になっても「可愛い」と言ってくれる。


健児から「可愛い」と言われ続けるうちに、自分でもそう思うようになり、自分の容姿に自信を持てるようになった。

両親が与えてくれなかった自己肯定感を、健児は与えてくれた。


美保はSNSに載せる写真をどうするかで悩んだ。

元々美人ではなかったが、それでも彼女の属するSNSの狭い世界では全体のレベルが低いため、美人扱いだった。

しかしこれは流石に無理だ。フォロワーが、ファンが一気に減りアイドルから触れてはいけない人へ転落するだろう。

しばらく顔写真は載せられない。



問題は仕事だ。この顔ではメンズエステで勤務できそうにない。

健児に金を渡せない、健児を困らせてしまう。


意を決して実家に金を無心し、大怪我をしたから治療費として、と偽り五万円を振り込んでもらえた。

大怪我をした事は事実だが、金の使い道は治療ではない。

これに生活費としてもらっている金額を削って足せば、健児が喜んでくれる金額になるかもしれない。


美保はいつも使うSNSの画面を開いた。

「最近顔に怪我しちゃったんだけど、彼はそれを見ても「可愛い」って言ってくれる」

書かずにいられなかった。誰かに確認してもらわなければ、安心できない。

あなたは愛されているから大丈夫、そう確認してもらわなければ。





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