「それは本当か?!」


水玉模様のソファから思わず立ち上がり、武は受話器に向かって叫んだ。

びっくりしたダルメシアンが膝から飛び降り、持っていたワイングラスからロマネ・コンティが波をうつ。


電話してきた相手は水玉男の捜査担当者の一人、高橋だ。


「はい、聞き込み調査の結果、事件前後に特定の人物らしき男の姿が目撃されています。目撃者からその男の特徴や、車のナンバーを聞いたところ容疑者が浮上しました。」


「…誰だ?」


「中町至…警察庁長官です。」


武は息をのんだ。中町至、金と出世のためなら何でもやる男だった。

武だけでなく、有力政治家や縁者の犯罪をも、握り潰し現在の地位を磐石にした。


まずい事になった。中町至は数々の有力者、そして自分の弱みを握っている。奴が容疑者となれば、きっと自分達の犯罪をも洗いざらいぶちまけるだろう。

おそらく、それを見越した上での暴挙に違いない。


しかし奴を見逃すわけにはいかない。自分の愛する水玉模様を貶めたのだ。相応の罰を受けさせ、消えてもらう必要がある。

中町が消えたところで代わりはいくらでもいるのだ。

金と出世のためなら魂を売る連中などいくらでも見付かる。


「高橋、それは他の人間にも報告したのか?」


「いいえ、誰よりも先に田中さんへお知らせしました。まだ誰にも言ってません。」


「なら良い。君に手伝ってほしい事がある。これから言う場所に来てほしい。」




リビングを出た武は、ライトに照らされた薄暗い廊下を歩きドアの前に立った。


ドアを開けるとそこには階段がある。

闇に飲まれるように下へと続く階段を降り、再び現れるドアを開いた。


水飛沫の音がする部屋の電灯のスイッチを押すと、そこには水族館にあるような巨大な水槽がある。中では無数のそれが蠢いていた。


「久しぶりにご馳走が食べられるぞ」


自虐的な笑みを浮かべながら、武は水槽に呼び掛けた。

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