真綿のようなおっぱいで首を絞められたい……。

「……まったく、おねえの人使いが荒いのは学生時代から変わってないな」


「ごめんね!! 二人を車で送って貰って助かるよっ、りっちゃん好き好き♡」


「そういうの要らないから、にゃむ子お姉、単刀直入に話してくれるか?」


「もうっ、りっちゃんたら素っ気ないんだから、にゃむ子つまんない~!!」


 まるで掛け合いのような美人姉妹二人のやり取りを、

 俺、三枝康一は所在しょざいなげに見つめていた。

 聖胸せいきょう女子高等学校への潜入調査初日を終えて亀の湯に戻った時には俺も正美も疲労困憊ひろうこんぱいしてリビングのソファーに身を沈めてしまった……。


 自分は康恵やすえちゃんとして慣れない女装をずっとしていたためか、

 身体的にも精神的にもたった一日で参ってしまった。声色を使う喉を始め、

 妙なところに力が入っていたのかもしれないな……。


「で、どうじゃった? ターゲットのむすめとは接触は出来たかのう……」


いわお祖母ちゃん、一体誰がターゲットなの!? 女の子だらけで全然分かんないよ!!」


 たまらず正美が非難めいた言葉をロリ祖母ちゃんに投げかけた。

 そうだった!! 俺が女装してまでして女子校に潜入した理由わけは、

 ある人物に接触して味方にすることだった……。

 偶然お友達になった美馬桃花みまももかちゃん、

 異常なまでのノーブラ信仰、そのためのおっぱい検査を強要する学校に対して、

 俺は激しい憤りを感じた、そうだ、本来の目的をすっかり忘れていたんだ……。


「何じゃ!? ターゲットのことを分からないじゃと。こらっ、にゃむ子!! お前は今朝けさ、出かける前の二人に何も説明しとらんのか!!」


「ええっ!? おっかしいなあ……。 ちゃんと写真は付箋ふせんメモを付けて学校案内と一緒に渡したはずだよ、にゃむ子は……」


 学校案内!? そういえば正美から教科書と一緒に手渡されたが、

 急に女子校に転校とか、それと学校案内に書いている内容が難解すぎて、

 思わず破り捨てそうになったんだっけ……。


 全てにおいて仕事の出来るにゃむ子さんにそんなぼんミスがあるはずがない。

 珍しく岩祖母ちゃんに叱られて、しゅんとした面持ちになってしまう。

 とっさに自分のせいだと名乗りを上げようとする俺を横から誰かが制した。


「岩さん、姉の落ち度は双子である私にも責任があります……。今回の案件はもともと妹である私が姉に相談したことが発端ほったんですし」


 りっつ子さんが二人の間に割って入り岩ばあちゃんに向かって深々と頭を下げる。


「り、りっちゃん、私の替わりに……」


 にゃむ子さんが驚きの表情で二人を見上げていた。


「……りっつ子、もう顔を上げろ、これじゃあ糞ババアが孫をいじめてるみたいじゃ、それにおまえら姉妹にはこの岩は充分すぎるぐらい頭を下げて貰っておる。そういう態度はもう良いのじゃ……」


「……岩さん、は一生掛けても償えると思っておりません、その変わられたお姿も全て……。 私たち番台ばんだい家がおそばに付いていながら」


「それ以上、自分たちを責めるでない……。もうええんじゃ、二人共……」


 今、目の前で交わされている会話に俺は迂闊うかつに介入してはならないと感じた。

 隣でたたずむ正美の表情がその事実を雄弁に物語っていた、これは亀の湯一族の問題だと……。


 ……それなら今、自分に出来ることを精一杯にやるだけだ。


「あ~~ロリばあちゃん、一番分かってんじゃん!! 自分が意地悪ばあさんだってこと……」


「こら!! 小僧、あまり年寄りを馬鹿にするでないぞ、もっと年長者をうやまわんか、このたわけものが!!」


 傍らに置いてあった杖を片手に俺を追いかけ回す岩ばあちゃん。

 身体年齢は女子小学生なのでもちろん杖など必要ないが昔の名残で持ち歩いているそうだ……。


 まだ夕食前だと言うのに岩ばあちゃんの格好はもう寝間着に着替えている。

 小学四年生の女の子が好きそうな魔法少女のキャラクターが寝間着にはプリントされている。だまっていれば本当に可愛い女の子に見えるぞ。

 。

 本人いわく、まんが水戸黄門の柄があれば、その寝間着で寝たいそうだ……。


(ほれ、格さん、力たすきじゃ!!)とか謎のセリフを口走ってたな。

 さすがにそれは近所のし〇むらでは売ってないだろ、ロリばあちゃん。


 ド〇フ大爆笑のコントみたいに部屋中を駆け回る俺と岩ばあちゃん、

 やっと普段の亀の湯の明るい雰囲気がリビングに戻ってきた……。



「うむ、お腹が空いたな……」


「よし!! りっちゃん、にゃむ子特製のおっぱい餃子ごちそうしちゃうぞ……」


「何か嫌な予感しかしないんだが、一応聞いておくがいったいどんな料理だ?」


「うふふっ、お姉ちゃんのおっぱいみたいにデカ盛り餃子でこれくらい大っきくて、先端にかぶりつくとぉ肉汁がぴゅっ♡ っていっぱい飛んじゃうのぉ!!」


「分かったからそのおっぱいお化けみたいな胸でぷるん、ぷるんとジェスチャーするのは頼むから止めてくれんか……」


 りっつ子さんか頭を抱えて露骨に嫌そうな顔をする。

 本当に仲のよい双子の姉妹なんだな。

 俺にもこんなキュートなお姉ちゃんたちがいたら毎日が楽しいだろう。

 幸せな気分に浸りながら妄想する俺の脳天に突然、激しい痛みが襲いかかった……。


 げしっ!!


「いっぺん三途さんずの川でバタフライしてこい、小僧!!」



 次回に続く。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る