あなたが落としたのは、どのサンタですか?

大場里桜

あなたが落としたのは、どのサンタですか?

 明日はクリスマス、可愛い娘の唯奈の為に完璧なサンタクロースを演じなければならない。

 プレゼントを置く時に寝ていてくれれば良いが、万が一起きていた時に備える必要があるのだ。

 自宅で練習したら見つかってしまう可能性がある。

 だから、唯奈に練習を見られないように自宅裏の森に行った。

 事前に量販店で購入したサンタクロースの衣装は少し安っぽいが、小学生になったばかりの唯奈相手なら誤魔化せるだろう。

 私は胸を張り、腰に手を当てて言った。


「やぁ、唯奈ちゃん。初めまして、私はサンタクロースだよ。一年間良い子だったからプレゼントを持ってきたよ!」

「やっぱりサンタさんだ! 姿が見えたから追いかけて良かった!」


 えっ、唯奈!

 振り返ると、一番見つかりたくない相手……娘の唯奈がいた。

 まさか、自宅からつけられたのか!

 どうする?!

 まだ練習中なんだよ。

 プレゼントも持ってないし!

 今は逃げるしかない!

 私は全力で森の奥へ走り去った。


「待って! サンタさん!」


 背後から娘の呼び止める声が聞こえるが止まれない。

 ごめん、唯奈!

 今夜必ずプレゼントを贈るから。

 途中、追いかけてきている唯奈が転んでないか確認しようと振り返ったところで、足裏の感覚が無くなった。

 えっ、坂道!

 私は足を踏み外して坂道を転げ落ちていって……湖に落ちた。

 まずい、サンタの衣装が水を吸って体が……

 私は湖の底に沈んでいったーー


 *


 けほっ。

 私は水を吐き出した。

 生きている?!

 何故か私は湖の上の空中に浮いていた。

 周囲を見渡すと、私以外に悪魔の様な外観の男と、見知らぬ青年も浮いていた。

 背後には物語に出てくるような女神の姿をした美しい女性がいて、目の前には見つかりたくなかった娘の唯奈がいる……

 お、終わった……

 良く分からない現状より、娘に見つかった事の方がショックが大きい。


「私は湖の女神。あなたが落としたのは、どのサンタですか?」


 背後の女神風の女性が言った。

 情けないけど、唯奈に選んでもらって助けてもらうしかないな。

 頼むよ唯奈!


「ここにはいません。私のサンタさんを返して下さい!」


 えっ、パパを選んでくれないの?!


「ここに居る以外に選択肢はないのですよ。仕方がないですね。選び辛いようなので、左から順番にアピールして下さい」


 女神に促されて、左の悪魔風の男からアピールする事になった。

 女神の力によって悪魔風の男が唯奈の前に移動させられる。


「我はサタン。我を選んだら世界の半分をやろう」

「世界の半分?」

「そうだ、人間の社会を支配したいとは思わぬか?」

「社会は嫌いです。音楽が好きです」

「解せぬ!」

「サタンは選ばれなかったな。次は三太ね」


 次は青年が唯奈の前に移動させられた。


「僕は三田三太です。友達にはサンタサンタって呼ばれています。本当は『みたさんた』なんだけどね」

「見たサンタ! サンタさんを見た事があるの?」

「いやぁ、サンタさんは見た事ないですね。はははっ」

「嘘つき!!」

「三太も選ばれなかったね。次はサンタクロースのコスプレをしたパパね」


 私が唯奈の前に移動させられる。


「パパは嫌だ!」


 何も言っていないのに唯奈に否定された。

 どうして?!


「パパはサンタさんと違って、何もくれないもん!」


 違うんだ唯奈。

 ママが、ママさえ許してくれたら……

 弱いパパを許してくれ!


「困りましたね。これでは決まりませんね。私も暇ではないのですが……」


 女神が困っている。

 元はと言えば、この女神が元凶の様な気がするが……


「この湖に落ちたサンタさんを返して下さい。私、見たんだから!」


 唯奈が叫んだ。


「分かった。それならパパを返そう」


 女神の力で私の体が、唯奈の隣に運ばれた。


「えっ、何でパパなの! パパのバカ! パパのせいでサンタさんが帰ってこなくなっちゃった!」

「大丈夫だよ。サンタさんなら今夜必ず来るよ。唯奈は良い子だからね」

「本当?」

「本当さ! だから帰ろう!」


 あっ、私は無事に帰れそうだけど、後の二人はどうなるんだろう?


「おい、我をどうするつもりだ?」

「僕も気になります。死にませんよね僕?」


 残された二人も気になるようだ。


「選ばれなかった者は在庫行きです。さぁ、在庫の烙印を押しましょう」


 女神が杖を取り出して、サタンの額に押し当てた。


「ギャーッ。我の額にバーコードがぁ!」


 サタンが叫んだ。

 恐ろしい。

 私も選ばれなかったら、同じ事をされていたのか……

 サタンは悪そうだから気にならないが、三太さんは何故呼ばれたのだろう?


「あの、三太さんは何故呼ばれたのですか? 彼は関係ないと思うのですが……」


 女神が優しい笑みを浮かべた後に言った。


「よく聞いてくれたわね。彼を選んだのは名前が三太だからよ。サンタだけに、三択問題にしたかったのよね」


 えっ、それだけ?

 神は無慈悲だ……

 可哀そうだが、私にはどうする事も出来ない。

 三太……素敵なクリスマスをお過ごし下さい!

 私は唯奈と一緒に帰宅したーー


 *


 深夜1時、娘の部屋にこっそり入った。

 心配とは裏腹に唯奈はぐっすり眠っていた。

 これなら練習は必要なかったな。

 私は枕元にそっとプレゼントを置いて退室した。

 唯奈の言う通りパパはバカだよ。

 ただのバカではなくて親バカだけどねーー


 *


 ご心配をかけております在庫行きの三太さんは、リアル女神サイコーと喜んでいたのでした……

 それでいいのか三太!

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あなたが落としたのは、どのサンタですか? 大場里桜 @o_riou

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