第十四話 動き出した脅威

 「アイツらやるなぁ……」


 アンブラス城の一角で行われている練兵過程の様子をアルスは満足そうに見つめた。


 「流石に私も予想外よ、元傭兵とはいえ山賊をまるっと雇用しちゃったんだから」

 「前任者が兵士共々、中央に引き上げちゃったからなぁ……。経験豊富、忠誠心も強い、実力もある、三拍子揃ってる彼らは優良物件ってわけだ」


 ギーゼンバハの企みを看破し、元傭兵山賊達の暴走を食い止め、使える者はなんでも使うとばかりに雇用してしまった。

 家臣団には反対する者もいたが、そこはエミリアが上手く丸め込んでいた。


 「おかげで私はと〜っても骨を折らされたんですけど?」


 エミリアは頬を膨らませてちょっぴり恩着せがましく言った。


 (うげ、面倒くさくなるパターンか……?)


 エミリアとの付き合いの長いアルスは、直感的にそう悟ると


 「いやもう本当に助かってるわー!!ありがとうありがとう!!」


 エミリアの頭にポンっと手を乗せて雑に撫でた。

 その手をエミリアがむんずと掴むとこめかみをひくつかせながら笑みを浮かべた。


 「さて、ここで問題よ。私は今、何を求めているでしょうか?返答によってはこの腕が二度と使い物にならないかもしれないから心して答えてよね?」


 アルスはブルりと震えた。

 そしてため息をついた。


 「……埋め合わせが欲しいってことだろ?」

 「ふふ、今回はこの腕、折らないでいてあげるわ」


 先程とは打って変わってエミリアは嬉しそうな表情を浮かべた。

 

 「で、何をすればいいんだ?」


 アルスの質問にエミリアは思案顔を浮かべると、カレンダーを睨んだ。

 そして何かを決めたのか頷くとアルスへと向き直った。


 「聖誕祭、私と一緒に回ってよ」


 赤面しながらどこか恥ずかしそうにアルスに言ったエミリアは、口をもにょもにょさせながら上目遣いにアルスを見つめて答えを待った。

 ちなみに聖誕祭というのは、大陸の一大宗教であるミトラ教の主神、ミトラの誕生日を祝うものである。


 (その頼み方はズルくないか……?)


 整った容姿と深紅の大きな瞳を持つ幼馴染が自分を上目遣いに見つめているという事実にアルスはエミリアの顔を直視出来ずにいた。

 

 「わかった……一緒に回ろう……」


 これまでエミリアをあまり異性として意識してこなかったアルスはしかし、自分の頬がいつもよりも熱いことに気づいた。


 「その……約束だからね?」

 「あぁ……」


 どこかしまらない感じで二人は一旦、仕事を止め休憩するのだった。

 

 ◆❖◇◇❖◆


 「それは面白いですわ」


 教皇聖座都市バティカーノの中心に位置する法王庁の一角で密談を交わす人物達がいた。

 方やミトラ教の最高顧問団の一人であるアルフォンシーナ・エチェガレー、かたやエスターライヒ王国の筆頭カティサークの使者。


 「聖教騎士団を派遣し、彼の地に正しき教えを広めるよう努力しますわ」


 厚化粧の下に人には言えない何かを隠したエチェガレーは、ニコッと笑って使者の持ち込んだ書類に署名したのだった。


 「御協力、感謝します。聖誕祭が素晴らしき一日になりますよう」


 カティサークの使者はそう言うと退室していった。

 その背中を見つめながらエチェガレーは、ぽつりと言った。


 「私はさらなる高みを目指しますの。踏み台になるアンデクスの民衆は気の毒ですけれど……」


 新たなる影がアンデクスへと忍び寄っていた――――。

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