第十三話 潮時

 「その顔は、どうやらカラクリに気付かれたご様子ですな」


 シャルニッツ村の村長、ギーゼンバハは悪びれもなく言った。


 「しょっぴかれるかもしれないのによく来たな」


 アルスは冷たい声音で言った。


 「私の身はどうぞご自由になさってくれて結構です。その結果何が起きるかは知りませんが」

 

 ギーゼンバハは何か含みを持たせるような言い方をした。


 「傭兵崩れの山賊共をけしかけてあるってか?」

「それもお見通しでしたか……」


 少し残念そうに、しかし慌てることも無くギーゼンバハは俺を見つめた。

 

 「なぁに、もう対策済みさ。お前、ギーゼンバハって名前は偽名だろ?ミッテルラントの傭兵隊長さんよ」


 エスターライヒ王国の西の隣国、ミッテルラント共和国は傭兵稼業を生業とする国家。

 ギーゼンバハと山賊がミッテルラント傭兵という確証は無かったが過去のアンデクス領主の残した記述に、西方からやってきた傭兵の一団についてのものがあった。

 それを見つけたアルスは国境や領地の境にある検問所の通行人の記録を徹底的に調べ上げ、その一団が領内から出ていないという情報を掴んでいた。


 「まさか共和国に対応を委ねたのか!?」


 ギーゼンバハは、目を剥いた。


 「あぁそうだとも。撒いた種は自分で回収しろってな」


 もちろんそんな事実は存在しない。

 アルスお得意の口八丁というやつだった。


 「対応するのは傭兵か?正規兵か?」

 「もちろん、傭兵だろうなぁ」

 「アンタは人でなしか!?」


 アルスはギーゼンバハの言葉にニッと笑った。

 傭兵は雇い主の命令通りに動くのだ。

 つまり雇い主が、「を全て狩れ」と命じたならばイーザル峠の山賊たちの運命は決まったも同然だった。

 そして彼らは、ギーゼンバハの元部下たちだった。


 「お前らに祖国で何があったか知らんが、俺は領地の利益と領民の安全を優先させてもらうだけの話だ。そして領民を正当な理由なく襲う連中もまた人でなしだろう?」

 「クッ……」


 ギーゼンバハは拳を握ると怒りに、あるいは自身のいたらなさに震えた。


 「でもなぁ、俺も悪魔じゃない。対話での解決を望むってんならそれでもいいさ」

 

 ギーゼンバハはアルスを見つめた。


 「本当か……?」

 「無論だとも。お前の部下たちの就職先も用意してやるぞ?」


 実は最近、なぜ山賊の討伐を行わないのかと不審に思う商人も出始め、山賊をダシにして金を取ろうとしているのでは?という噂も流れ始めていたのだった。

 故にアルスは


 (そろそろ護衛での資金調達は潮時かぁ)


 などと考えていた。

 そして護衛を付けるということ自体は、峠が安全に通行できるという宣伝のようなものだった。

 それも今ではすっかり商人達に浸透していて、多くの商隊がイーザル峠を通る道を選んでいる。

 一定以上の結果を出しておりアルスは護衛での資金調達から、増えた人通りを活かしての資金調達に切り替えようと考えてもいた。


 「まぁ、俺の提案を受ける前にまずはお前の部下たちをどうにかしてくれよ」


 アルスは笑いながら、ギーゼンバハに言ったのだった。

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