第41話
翌日、俺は扉を叩く音で目が覚めた。
「……んだ?……うるさ、ふぁあ〜」
ミュゥを退かし、眠気眼をこすって扉を開けると、そこにはワラワラと集まる冒険者達が押し合いへし合い待っていた。
「おおハルヒコ!今日も来たぞ!」「開店か⁉︎」「待ってたぞ!」
俺は大銅貨を手にワクワクする彼らを目に、ポリポリと腹を掻く。
「……あー、すみませんね。実は肉まだ調達出来てなくて、作れてないんすよ」
「……何、だと……」
先の勢いはどこへやら。冒険者達がバタバタと倒れ、膝を着き、その表情を絶望に染めてゆく。忙しない人達だ。
「てことで、開店は明日以降になるんで」
「……分かった」
トボトボと去って行く彼らを見送ろうとしたそこで、俺は大切なことを思い出した。
「……ああそうだ、ギルドにミノタウロスの納品依頼出しといたんで、よろしくお願いしますね」
「あ?ミノタウロス?……あの肉ミノタウロスのなのか⁉︎」
「はい」
「マジかよ⁉︎」「信じらんねぇ……」「あれ食ったことあるけど、ボロ雑巾の方がまだ美味かったぞ」「ああ、血生臭ぇ紙の束食ってるみてぇだった」「やっぱあいつスゲェんだな」
「あー、出来れば最初は無報酬で受けて欲しいっす。昨日稼いだ金全部使っちゃって、金欠なんで」
そーいや依頼金のことすっかり忘れてた。もうっ、俺のバカバカバカ!
「ったく、しゃーねーな」「ハハッ、金は使ってナンボだもんな!」「任せな‼︎」「兄ちゃんには良いもん食わせて貰ったからな」「クエスト終わりについでで狩るか」「だな」「こうしちゃいられねぇ!牛ぶっ殺しにいくぞ‼︎」
颯爽と駆けて行く冒険者達に頭を下げ、その背中を見送る。
冒険者は命を預け合う仕事、仲間意識が特段高い。皆見た目はゴリゴリに厳つくても、根は仲間を大切にする良い人達なのだ。利害だけでは計れない人情。
……こういうの、い〜な〜と心の中で思いながら、俺はあくびをして扉を閉めた。
そうして2度寝をしようとしたのも束の間。
「んみゅ……おはよ〜おにーさん」
「……ああ、おはよーさん」
モゾモゾと上に乗ってくるミュゥに、仕方なく身体を起こした。
「……」
パンにチーズとケチャップを乗せオーブンに入れ、目玉焼きを乗せてから、席に座るミュゥへと持ってゆく。
朝食で草を食っていたあの頃に比べると、随分とマトモな飯を調達出来るようになったもんだ。
「うま〜」
チーズをデロ〜と伸ばす彼女を見ながら、パンを齧る。
「んむんむ、おにーはん、ほーは何ふぅの?」
「あー、クエスト行こーぜ」
「えーー、お金稼げるようになったのに何でぇ?」
「バッカお前、楽しく冒険するために金稼いでるんだろ?」
「そだっけ?んむんむ」
そこを忘れてもらっては困る。全てはこれから始まる壮大な冒険譚への準備にすぎないのだ。俺の物語は、まだ始まってすらいない。
「昼過ぎくらいに納品くると思うし、そんくらいに帰ってきてから明日の準備だな」
「たぼー。誰かさんが従業員に嫌われたせーでたぼ〜」
「っ、す、過ぎちゃったもんはしょうがないだろ!」
「うわ〜逆ギレ?そういうとこだよおにーさんw」
「ごめんて!」
やめてくれ思い出さないようにしてんだから。次はもう解除なんて絶対しない。惚れてもらってから解除してやる。
「行くぞ!クエストだ!」
「は〜いw」
俺は後悔を振り払い、冒険者ギルドへとローブを羽織った。
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