第38話



 ――日も落ち、街頭に明かりが灯り出す頃。


 俺は少しばかりの寝苦しさを感じ、寝ぼけ眼のままむくりと首を起こした。


「……」


 可愛らしく寝息を立てるミュゥが、俺の腹の上で上下している。……重いんだが?


「……ふぅ……もう夜か、」


 窓の外が暗くなっているのを見てから、もう1度横になって天井を眺める。……知らない天井だけど、落ち着く天井だ。


「……んみゅ、」


「わり、起こしちゃったか」


 目を擦るミュゥが顔を上げ、


「……ふみゅ」


 しかしペトン、とまた落ちる。


「……なぁミュゥよ、やはり2人で回すのには限界がある」


「とうぜんだよぉ……」


 俺は彼女のツノをつつきながら、今日のことを振り返る。

 まさかここまで爆速で売れるとは思わなかったが、やはり思っていた通り、従業員2人昼営業全席回転は不可能だ。


「俺今から従業員確保しに行くけど、ミュゥも行く?」


「……奴隷商店?」


「ああ」


 異世界に来たら1度は行ってみたいとこ、でもちょっと怖いから行くのを躊躇う場所No.1、奴隷商。


 この世界は結構法制度がしっかりしてるし、奴隷だからとあまり酷い扱いは受けていないみたいだけど、まぁ言っても奴隷、可哀想な噂も何度か耳にした。


「……嫌?」


「んーん、奴隷を雇うのは良いと思うよぉ」


「そか。待ってる?」


「ん〜」


「おけー」


 俺はミュゥを腹から下ろし、カウンターの下のデカ金庫を開ける。その中で鈍く光る約2000枚の大銅貨。いや〜いい景色だ。


「『オープン』」


 詠唱と同時に虚空が開く。これが夢にまで見たスキル『アイテムボックス』。


 虚空空間は牛2頭が入るくらいだな。さっき首突っ込んで見てみた。ポイントを割り振ればもっと広くなるんだろうけど、正直今はこれくらいで十分だと思ってる。


「『クローズ』……んじゃ行ってくるな〜」


「ん〜」


 大銅貨を全部投げ入れた後、俺は外に出て扉の鍵を閉めた。

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