第32話
冒険者ギルド横の解体小屋まで送ってもらいミノさんを預けると、解体のおっさんが首を傾げる。
「あん?肉が欲しいのか?こいつの?」
「はい。内臓以外は全部」
「んまぁ分かった。30分後に来な」
「はい」「あ〜い」
俺は笑う農婦さんにペコペコと頭を下げる。
「ありがとうございました。あと畑めちゃくちゃにしてすみません……」
「はははっ、もういいって。それじゃね」
「はい!」
去って行く馬の背中に手を振り、俺達も冒険者ギルドに戻った。
「あ、お帰りなさいハルヒコ様、ミュゥ様、お怪我はありませんか?」
「両腕もげました」
「え⁉︎」
「これ、達成報告書です。どぞ」
「あはい。……はい、クエスト完了を確認しました。お疲れ様でした。こちらが報酬でございます」
トレーに乗せられた大銅貨5枚……割に合わね〜。腕もげて畑潰して大銅貨5枚、肉も売れないから加算もなし。こりゃ誰もやりたがらんわ。
「あざした〜」「した〜」
世知辛いな〜と硬貨をポケットに入れる俺が去ろうとすると、書類に印を押しながら受付嬢さんが顔を上げる。
「あ、ちょっと待ってください」
「はい?」
「お2人に会いたいと、商業ギルドからお客様が来ております」
「ん?」
受付嬢さんの視線の先に目を向けると、昨日俺を担当してくれた女性職員さんがソファに座ってコーヒーを飲んでいた。あ、会釈。
受付嬢さんが俺に顔を寄せ、心配そうな表情を浮かべる。
「ハルヒコさん何やったんですか?まさか日々の生活が苦しくて借金を?言ってくれたらちょっとくらい貸しますよ!(ボソ)」
「違いますよっ。店立てるんです店」
「へ⁉︎」
おそらくそれ関係の話だろう。驚く受付嬢さんを置いて、俺達は職員さんと挨拶を交わす。
「申し訳ございません、お疲れのところ」
「いえいえ、大して疲れてないんで大丈夫です」
「おにーさん、ミノタウロスパンチ2発で倒したんだよぉ?」
その言葉に職員さんが目を見開く。
「っなんと……商いだけでなく冒険者にも天賦の才がお有りとは、羨ましい限りでございます」
天賦の才なんて、デヘ、デヘヘ、初めて言われた、嬉しい。……が、
「ふミュ」
俺はミュゥの頭をポンポンと撫で、苦笑する。
「それはこいつのおかげですよ。ミュゥがいるから、俺は今も冒険者を続けられてるんす」
「……おにーさん」
「ふふっ、とても良いパーティですね」
ミュゥが目をうるうるさせ俺の手を握る。
「ごめんねおにーさん、もうぶん投げたりしないからにゅ⁉︎」
「その件については後でゆっくり話そうな?」
ああ愛しきメスガキよ、それとこれとは別なのだよ。俺はビキビキと青筋を浮かべ、両ツノを掴んでニッコリと微笑んだ。
「それでは職員さん、」
「あ、はい。では本題に移らせいただきます。見せたい物もございますので、歩きながらでも構いませんか?」
「それって、」
「はい。店舗や依頼されていた魔法道具が準備できましたので、確認をしていただきたく」
「もうですか⁉︎」
まだ1日も経ってないぞ⁉︎異世界凄い!魔法やばい!
「はい。昨日ハルヒコ殿と別れた後、当ギルドマスター自ら工房に赴きまして。職人の皆様もすぐに快諾してくださいました」
っ職権濫用だ⁉︎
ニコニコしている職員さんに案内され、俺はミュゥのツノを掴み引きずりながら冒険者ギルドを後にした。
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