第29話


 クエストを受注した俺達は、馬車に揺られながらちょっと離れた農家へと移動していた。


 俺は広がる畑や自然をボ〜と眺めながら、心地良い風の香りを楽しむ。


「……こいつ寝てりゃ可愛いのになぁ」


 ミュゥは俺の膝の上で丸まって寝息を立てている。……このツノ、寝る時邪魔そうだな。

 そんなことを考えていると、馬車が止まり御者のおっちゃんが振り向いた。


「にーちゃんら着いたぜ?ここでいいかい?」


「あはい!大丈夫ですっ、ほら起きろ」


「んみゅ……」


 俺はミュゥと一緒に馬車から飛び降り、頭を下げる。


「乗せていただいてありがとうございました!」


「いいってことよ、通り道だしな。んじゃ気をつけてな〜」


「はい!」


 馬のいななきを見送り、ミュゥの手を引きながら風に靡くライ麦畑の間を歩いていると、


「ん?」


「ん〜?」


 茂る麦の少し奥に、何か大きな生物がいるのが見えた。

 俺は穂を退け、チラリと覗く。


 茶色い体毛、少し筋肉質な丸い身体、何も考えていないであろうバカそうな顔、大きな2本ツノ。

 ……あれだなー。


 もうただの牛、牛よりデカいが、牛よりもマヌケ面。


 自分の知っているミノタウロスとはかけ離れたミノタウロスが、4足でノソノソと歩きながら麦を食んでいた。


「見ろミュゥ、あれがミノタウロスらしい」


「知ってるよぉ」


 目を擦るミュゥが、大きく伸びをしてあくびする。


 とそこで、道の向こうから誰かが駆けてくるのが目に入った。


「お〜い、君達冒険者の人ー?」


 茶色いお下げを揺らしながら、快活な女性がスタスタと走って来る。服装を見るに、この農場の婦人だろうか。


「あ、はい。依頼受けて来ました!」


「これまた随分若いのが来たね!依頼受けてくれてありがとね!早速だけど頼むよ」


「はい!」「り〜」


「いつもなら主人が片付けてくれんだけどねぇ、ギックリ腰やっちゃってさ」


「それはお大事にです。畑の中でやっちゃって大丈夫ですか?」


「ああ仕方ないさ。いつもあのクソ牛が来た時は畑メチャクチャになるからね。慣れっこさ」


「あはは、」


 だいぶ嫌われてる〜なミノさん。

 だが安心しろミノさん、君はこれから先の未来、皆に好かれる存在となるであろう。


「行くぞミュゥ!」


「おー!」


 新たなるモンスターを前に、俺は獰猛に笑った。


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