第26話


 席に着くパレスさんの後ろに、目を覚ました女性職員さんが何事も無かったかのように侍る。

 ……口にケチャップ付いてる、可愛い。


「それと融資に関してですが、私は貴方の料理に光を見た。もしよろしければ、融資ではなく投資という形で後押しさせていただきたい」


「そ、それは、どういった違いが?」


「融資には返済義務があり、決まった返済額に利息分を足した金額を返済する必要があります。

 一方投資は返済不要の資金援助を得る代わりに、ハルヒコ殿の店舗が成長した際、我々も配当の恩恵を受けさせていただきます。

 先程ミュゥ殿が心配していた借金は、前者にあたりますね」


「な、なるほど」


 その手の話はまったく分からん!悪い人ではなさそうだし、うん、大丈夫だろ!


「いかがです?」


「それでお願いします!」


「承知しました」


 パレスさんが女性職員に頷き、契約書類を取りに行かせる。


「あ、それでですね。お頼みしたいことがありまして、」


「はい、何でも仰ってください」


「ミンチ、えっと、肉をグッチャグチャに出来る魔法道具を作って欲しいんです」


「なるほど、パンの間に挟まっていた」


「はい。こんな感じの」


 帰ってきた女性職員から書類を受け取りながら、俺の書く稚拙な絵を見たパレスさんが頷く。


「承知しました。すぐに鍛冶ギルドへ依頼します」


「ありがとうございます!」


「因みに肉は何の肉を使う予定ですか?それに応じて対象層や価格設定も変わりますので、」


「ミノタウロスですね」


「「「ミノタウロス⁉︎」」


 一瞬驚いたパレスさんだが、俺の考えにすぐに気付いたのか、顎に手を当て目を見張る。


「いや、そうか、肉をミンチ?にしてしまえば、あの独特の固さを気にしなくて済む。考えてみれば簡単なこと。

 ……それに気づけるのが、天才ということですか。あっぱれですハルヒコ殿」


「い、ぃやぁ、デュフフ」


「キモw」


 ミュゥを無視して俺は天才という言葉に酔いしれる。あぁ気持ちぃ気持ちぃ。


「それと価格は、1個大銅貨1枚にしようと思ってます」


 因みにこの世界の貨幣価値は大体こんな感じだ。


 銅貨  1枚 →10円

 銅貨 10枚 →100円   →大銅貨1枚

 大銅貨10枚 →1000円  →銀貨 1枚

 銀貨 10枚 →10000円 →大銀貨1枚

 大銀貨10枚 →100000円→金貨 1枚

 大金貨 1枚 →1000000円


 ちゃんと勉強したんだ。偉いだろ?


「100ディオですか?そ、それはまた、随分と安いですね」


「材料は俺達で取りますし、大して手間もかからないんで」


「そういえば御2人は冒険者でしたね。……少し思うところはありますが、承知しました。では従業員は何人くらい必要でしょう?こちらで適当な奴隷を用意いたします」


「あ、いえ、最初は俺達2人でやろうと思ってるんです。奴隷は買うつもりですけど、それも俺がやりたくて。

 どうせ始めるんだから、1から店育ててみたいんです!」


「…………フフッ、まぁ、いいでしょう。承知しました。ではこちらの書類に」


「はい!」


 俺は細々した書類に目を通し、途中残ったチーズバーガーを3等分にして美味しそうに食べるミュゥ、の横で再び吹っ飛ぶ2人を見ながら、契約書にサインをした。

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