第16話


 ――そして駐屯舎。


「おい坊主、こんな小さい子イジメて何してんだ」


「……はい。ごめんなさい」


「ったく、まさかお前にそういう趣味があったとは」


「……ロリコンじゃありません。ごめんなさい」


「ほんと、ミュゥにナニしようとしたのおにーさん?w」


「……クソっ(ボソ)」


「えーなにー?聞こえなーい。門番さん!おにーさんが何か言いたいことあるみたいです!」


「いいえありません反省してますごめんなさい」


 ……このメスガキ今度絶対分からせる。手足縛って目の前にハンバーガー吊るしてやる。



 あらぬ誤解で捕まったものの、ようやく解放された俺は大きく溜息を吐き、後ろにジト目を送る。


「何でまだついてくんのお前?」


「え〜?だっておにーさん面白いしw」


「……さいですか」


「さいで〜す」


 ふんふんと横に並ぶ上機嫌なロリに辟易とする。


「ミュゥお前家どこだよ?送ってやるから」


「え?ミュゥ家ないよ」


「え、そなの?」


 これは初耳だ。


「じゃあ親は?」


「ん〜、……いない」


「そ、そうか。すまん」


 ミュゥの表情が曇り、顔を逸らしてしまう。これは悪いことを聞いたか。


 とりあえず2人で近くのベンチに座った。


「え、じゃあお前どこに住んでんだ?」


「ここ最近は木の上で寝てた」


「マジかよ」


 遊びに来てたっていうか、あそこに住んでたのか。道理で毎日会うわけだ。


「てっきり遊ぶ友達いなくて俺にかまってもらいに来てたのかと、」


「はぁ?それはおにーさんでしょ?クソザコナメクジだから碌なモンスター狩れない上に、人と話すことも出来ないからパーティ組めなくて、毎日ミュゥに慰めてもらいに来てたんでしょぉ?あーよちちよち可哀想でちゅね〜w」


「……(ピキピキ)」


 言いすぎじゃね?パーティ組もうとして陽キャオーラに負けてやめたのは事実だけど、それにしても言いすぎじゃね?泣くよ?


 絶望に蹲っていた俺は、頭を撫でてくるミュゥの掌を振り払い顔を上げる。


「てかそれなら、何で街に入らなかったんだよ?」


「ん〜、人間は危険って言われてたから、見てた」


「あ〜」


 様々な種族がいる世界だ。種族間の軋轢とかなんか色々あるのだろう。

 こいつ地雷多いな。気をつけないと。


「それに戸籍ないと捕まるって、おにーさん見て分かったし」


「お前見てたのかよ⁉︎助けろよ⁉︎」


 あの日どれだけ怖かったか。せっかくの異世界転生が台無しになるとこだったんだぞ。


「ん?そしたら何で街入れたんだ?あのおっさん達厳しいだろ」


「身寄りのない貧民街出身で、おにーさんのお世話になるって言ったら通してくれた」


「適当だな⁉︎てか何それ聞いてないんだけど⁉︎」


「不束者ですがよろしく〜♡」


「だっる⁉︎」


「はぁ?喜ぶとこでしょそこは!」


「はぁ?後10年経ってから言ってください〜俺はボンキュッボンのお姉さんしか興味ありません〜」


「うわぁ、キモォ」


「キモくありません〜男なんてみんなこんなもんです〜」


 頬を膨らませるメスガキに、俺もおちょくり顔で対抗する。


 ったく、嘘だろ?これからこいつの面倒見るの?俺が?自分の生活だけでも大変なのに?冗談じゃないぞまったく。


「とりあえず冒険者ギルド行くぞ。迷子相談だ」


「えっ」


 立ち上がった俺の袖をミュゥが掴む。……おい何だその目は。そんな目をしても俺は靡かんぞ。すまんな、他を当たってくれ。


「す、捨てないでっ」


「ん?」


「おにーさん捨てないでっ!」


「んんん?」


 ミュゥの叫びに通行人が何だ何だと振り返る。


「ミュゥ何でもするからっ、お掃除もっ、洗濯だってっ、おにーさんがやれって言うなら、よ、夜の相手もっ頑張るからっ!」


「おーし分かった一旦黙れ」


 周囲のザワザワが大きくなり、通行人の目がゴミを見る目になってきたところで、俺はワナワナと笑顔でミュゥの両ツノを掴む。


 その時、涙を浮かべるミュゥがニヤリと笑った。


 ……あ、こいつ。



「だからミュゥを捨てないでっ!もう1人はやなのっ、もう寂しいのはやなのっ‼︎わァアアアんっ!」



「っはーいよしよし捨てない捨てないミュゥは良い子だぁうちの子だぁずっと一緒だぞぉッ」


「あっ、ちょっと君!待ちなさい!」


 視界の端に剣を引き抜いた警備兵を捉えた瞬間、俺はこのクソガキを抱え全力疾走を開始した。


「フゥっフゥっ、っふっざけんな⁉︎2回も兵隊のお世話になってたまるか⁉︎」


「おにーさんこれからよろしくね〜♡」


「っお前後で絶対ぶっ飛ばす!」



 肩の上で楽しそうに笑う彼女に悪態を吐き、俺は大通りの人混みへと飛び込んだ。

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