第14話 俺ならできる



 ――翌日、生まれ変わった俺は短剣を構え、因縁のホーンラビットと相対していた。


 今までとは違う俺の研ぎ澄まされた精神と覚悟の瞳に、いつものように横から見ているミュゥも唾を飲む。


 敵の動きをよく見ろ。目を逸らすな。


 揺れる草原。


 風に舞う花弁。


 池に落ちる水滴。


 ……決して勝てない相手じゃ――


「ピッ!っ⁉︎」


 ない‼︎


 俺はウサギの突進と同時にサイドステップ、短剣を振り上げ、ガラ空きの胴体に一気に振り下ろした。


 勝負は一瞬。鮮血が舞う。


「はぁ、はぁ、はぁ、っッ」


「ぉ、ぉおーー!」


 動かなくなったウサギ。ドッと押し寄せてくる緊張の反動。


 生き物を殺した感覚を超え、身体を駆け抜けるのは、


 ……俺は拳を握り締め、天を突いた。



 ――達成感。



「ッシャぁああああ‼︎‼︎」

「わーーっ、やったねおにーさんっ」


「「イェーイ、イェーイ、ヘイヘイヘイ」」


 ミュゥとハイタッチしながらその場で踊る。


 遂に1歩前進だ。ありがとう神様!ありがとうディオなんとか様!


 一息吐いた後、俺は事切れたウサギの前でしゃがみ、手を合わせる。


「何やってるの?」


「感謝してんの。……これからも俺は生き物を殺すだろうし、段々この忌避感みたいのは忘れてくと思うけど、だから最初くらいは、俺のせいで死んだこいつに感謝しないと」


「ふ〜ん、……」


 よく分からないという顔をしつつも、ミュゥも俺の横で手を合わせる。


「うし。……記念すべき最初の獲物だしなぁ。食いたいけど、どうするか」


「ミュゥが捌いてあげよっか?」


「マジ?捌けんの?」


「うん。剣借りるね〜」


「お、おう」


 このロリ、いったい何者なのだろうかか?いつもここにいるし、肉捌けるし、ツノ生えてるし、尻尾あるし。

 遊ぶ友達いないのかな。……そう思うと何か可哀想になってきた。


「おーすげー」


 帰ってきたミュゥの手には、綺麗に開かれたウサギ肉がぶら下がっている。


「ふっふっふ、ようやくミュゥの凄さが分かったかぁ」


「ああ、ずっと1人で頑張ってきたんだな。寂しかったろう、っ同士よ」


「……あれ、何でミュゥ哀れまれてるの?」


 彼女は石の上に肉を置き、下の枯れ枝に手を翳す。


「『ファイア』」


「っ⁉︎火魔法‼︎」


 瞬間灯った赤い炎。定番魔法の発現にワクワクが飛び跳ねる。


「スゲェ!もう1回見せてくれ!」


「え〜?ただの初級魔法じゃん?」


「いいからいいから!」


「仕方ないな〜、『ファイア』」


「?ゥァアッツ⁉︎」


 途端頭の天辺に熱を感じ、バンバンと叩き落とす。


「ぷははっ、ウケるw」


「こんのメスガキッ、『ダークヒール!』」


「わぁ、身体の疲れ取れた!ありがとおにーさんっw」


「くぅぅそぉぉっっ!」


 ケタケタと笑う彼女を、俺はスローモーションになりながらゆっくりと追いかけ回した。

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