第6話 冒険者登録したお
「これで職業がハルヒコ様に刻まれました。それと、これをどうぞ」
「あはい」
ネックレス型のプレートを渡される。
「こちらは冒険者の証であるプレートです。生体認識魔道具と連動しているため、いちいちギルドに来なくても、そこからステータスの確認やスキルの取得が可能です。本人の生態情報が登録されているので、他人が扱うことは出来ません」
「おおっ」
俺は小指ほどの大きさのプレートを、スライドしたり拡大したりする。何だかタブレットみたいだ。
「もう1度スライドしてみてください」
「あはい」
「獲得可能なスキルが出ると、そこに表示されます。所有スキルポイントを使って取得してください」
「はい」
「スキルポイントはスキル取得の他に、スキル強化に使うことも出来ます。ただポイントで強化するのは大方職業スキルを取得し終えた熟練者になってから。初期は取得にポイントを使うのが一般的です」
「なるほど」
「練習することで初級魔法などの簡易スキルを覚えることも可能ですが、職業が違うと必要ポイントや消費魔力が増えますので、お気をつけて」
「はいっ」
てことは一応俺も魔法を使うことが出来るのか。これはワクワクしてきた。
「ではこのまま、冒険者ギルドの仕組みについて説明してもよろしいでしょうか?」
「お願いします!」
「かしこまりました。……コホン、冒険者ギルドというのは、様々な場所から来る依頼を仲介する国営機関です。その依頼は採取、護衛、討伐など多岐に渡ります。
他にも鍛冶ギルドや商業ギルドなどがございますので、もしそちらの道に進みたくなりましたら訪れてみてください」
「なるほど」
「はい。そして冒険者の中にはランクが存在します。こちらが設定した基準にステータスが達した場合、自動的にプレートの色が変化します」
「おぉ!」
「一般的にプレートの色に応じ、
駆け出しのDランクが、アイアン。
中堅のCランクが、カッパー。
Bランクが、シルバー。
Aランクが、ゴールド。
そして冒険者最高峰のSランクが、ブラック。と呼ばれています」
「ぶ、ブラック……」
何てカッコいい響きなんだ。ブラック冒険者のダークプリースト……ウッヒョ!
「はい。ブラックにもなりますと、地位、名誉、金、男、女、酒、この世の全てが思うがままです。是非目指してみてくださいね!」
「あ、はい」
……なんつーか、俗世的だなこの人。好感が持てる。
「説明は以上です。最後にこちら、持ち運びモンスター図鑑をどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「駆け出し冒険者は、その多くが慢心と知識不足で命を落とします。クエストに行く前は目を通してください」
「わ、分かりました」
一息吐いた受付嬢さんが、「さて」と手を叩く。
「本日はいかがいたしますか?早速クエスト受けてみます?」
「あ、はいっ。是非受けてみたいですっ」
「かしこまりました。ではこちらへ」
クエストボードまで歩くついでに、ギルド内の説明もしてもらう。
「冒険者ギルドは1階が受付。クエスト受注、完了報告もここでしてください。2階は酒場ですね。冒険者割引が効きますので、クエスト終了後に飲んでゆく方も多いですよ」
「おおっ」
俺は2階から聞こえてくる怒声や笑い声に耳を澄ます。汗水垂らした後に仲間とジョッキを打ち鳴らすっ、めちゃめちゃ憧れる!
デカいクエストボードの前に立ち、貼り付けられた沢山の用紙を眺める。
【ブレア山に出現したドラゴンの討伐――あぁ怖や怖や、神の怒りじゃ、神の怒りが落ちたんじゃ!うるさくて夜も眠れん!ぶっ殺しておくれ!――依頼主・とある眠りたい婆『適正ランク:S』】
【ミョル湖に出現した大蛇の討伐――水面にデカい影が見えたんじゃ。何かと思ったら10mはある蛇じゃった!ぶっ殺してくれ!――とある釣り好きの翁『適正ランク:A』】
【ミノタウロスの駆除――近隣の畑を根こそぎ荒らされて困ってるんだ!頼むからあの牛もどきをぶっ殺しておくれ‼︎――依頼主・とある農婦『適正ランク:C』】
【ゴブリンの討伐――ぶっ殺してくれ!――とあるぶっ殺したいオヤジ『適正ランク:C』】
【新魔法の人体実験――ふひ、ふひひ、この魔法で、あの老害魔法使いどもを見返してやる、ふひ、僕の時代だ、僕の時代だァアアヒャヒャヒャ‼︎――依頼主・とある失敗続きの魔法学者『適正ランク:無し』】
【ペットの捜索――あのね、あのね、ペットのポチが逃げちゃったの。探して!――依頼主・とある可愛い幼女『適正ランク:D』】
【薬草採取――依頼主・冒険者ギルド『適正ランク:D』】
【ホーンラビットの討伐――依頼主・冒険者ギルド『適正ランク:D』】
【香草採取――依頼主・とあるレストラン『適正ランク:D』】
「ほぁ〜〜……色々ありますね」
「でしょう?」
何だろう、この世界の人はモンスターを見たらとりあえずぶっ殺すのだろうか?
依頼主の血の気の多さに若干怖くなるが、そんな中受付嬢さんが2枚の用紙を剥がす。
「ハルヒコ様にはこちらをお勧めします」
「薬草と、香草の採取ですね。了解ですっ」
意気揚々と受け取った俺に、受付嬢さんが若干ビックリした表情を浮かべる。
「な、何です?」
「……少し驚きました。ハルヒコ様のように活力のある方は、最初から討伐クエストをやりたがりますから」
そんな言葉を、俺はフフフと笑って否定する。
「そいつらは分かってないですね。冒険者たるもの、最初は薬草採取からって決まってるんですよ」
「そうですそうです!駆け出し冒険者なんてクソザコナメクジがイキるからすぐ死ぬんですよ!事後処理をする私達の身にもなれってんだ!」
……溜まってるんだなぁ。流れ弾痛いし。
「ハルヒコ様のナメクジステータスですと、恐らくゴブリンにもコロコロされるので、まずはちょっとずつ力をつけていきましょう!」
ぞい!、じゃないんだよね。流れ弾どころか普通に撃ってきたよこの人。え、もう嫌いになりそう。
「でも自分のナメクジ具合を分かってるハルヒコ様みたいな人、……嫌いじゃないですよ?」
「…………デュへへ」
あ可愛いやっぱ好き。
上目遣いの受付嬢さんの胸元をガン見しながら、俺はドン、と胸を叩く。
「任せて下さい。薬草の100本や200本、俺が刈り尽くしてやりますよ!」
「それは困るんで適度にお願いしますね?」
「はい!では」
「あ、待って待って」
「っグォえ⁉︎」
早速向かおうとした俺の襟首が掴まれ四肢が投げ出される。
「ハルヒコ様、武器も防具も持っていないでしょう?」
「あ、そういえば」
「こちらお貸ししますのでどうぞ」
受付嬢さんがカウンターの裏から短剣と胸当てを持ってきて、着せてくれる。
「い、いいんですか?」
ホルダーから引き抜いた刃に映る、自分の顔。
初めて持つ、本物の『武器』の感触。
ズシリ、とのし掛かる鉄の胸当ての重み。……なんか、感慨深い。
「はい。そちらはお金に余裕のない、駆け出し冒険者に貸し出している装備一式ですので、自前の装備が整うまでお使いください」
「ありがとうございます。ではっ」
「はい。行ってっしゃいませハルヒコ様」
手を振る受付嬢さんに見送られ、俺は念願の初クエストへ向かうべく、ギルドの門を引き開けたのだった。
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