第30話 波乱の女子会

「えーとまずは結婚おめでとう! 」


そう言って、星夜が乾杯の音頭をとる。


「あ、ありがとう。」


真理がぎごちないながらもそれを受けて、お礼を言う。


「……と言うか、何でこんなことになったのかなぁ?」


「ごめんね、セイって強引だから。そっちも、申し訳ないわね。初夜を邪魔しちゃって。」


グラスを片手に持ったYukiが茶目っ気たっぷりにそういう。


「あ、うん、気にしないで。どうせ清君は、そのまま潰れちゃって、今夜はそういうことにならないだろうから。それに私もあやちゃんの元カノに興味があるし。」


真理も、普段の調子を取り戻して、Yukiにそう言い返す。


「クゥ、元カノってきましたよぉ。雪乃、どうするどうする?」


面白そうに混ぜ返す星夜。


「うーん、私としては今も彼女のつもりなんだけどねぇ。」


Yukiのその言葉に、みやびの身体がびくりと震える。


「まぁまぁ、その辺りの事も含めて、話そうって事になったんじゃない。ボク達も、ハルの事聞きたいし、そっちの彼女さん達も、高校時代のハルの事聞きたいでしょ?」


星夜の言葉に、真理もみやびも頷く。


そう、これは、昔と今のライトを巡る女同士の引けない戦いの場……女子会という名の戦場なのだ。


どうしてこうなったかというと、披露宴が終わった後、Yukiがライトに声をかけてきたところから始まる。



「ライト、お疲れ様。いい感じに弾けてたよ。」


「雪乃……俺はやらないって言っただろ?卒業してから殆ど触ってないんだぜ。」


「大丈夫大丈夫、あれぐらいのミスはご愛敬だよ。」


そこに星夜もやってくる。


三人で話していると、恨めしそうな視線を感じ、ライトは振り返る。


そこには、がるるぅ、と唸るような目で見ているみやびと、「紹介せい」と憤っているミドリ、そして、何か言いたそうにしているまどかたちの姿があった。


「あー、ちょっと紹介していいか?」


ライトはそう断りを入れてみやびたちを呼ぶ。


「えっと、この娘が、俺や今日の主役たちと幼馴染のみやび、そしてこっちにいるのがその妹達とクラスメイトで、この間話したYukiのファン。」


「ライトはん、それは違うで。ただのファンやのうて、大ファンや!間違ごうてもろうたら困るで。」


「そうなの、嬉しいわ。Yukiです。いつも応援ありがとうね。」


雪乃は、さっきまでのライトの友人の雪乃ではなく、歌手のYukiとしての営業スマイルで、ミドリ達と握手していく。


「本物のYukiだ。」


「俺、この手洗わねぇぞ。」


エイジと裕也が、感激のあまり、卒倒しそうになっている。


そして、みやびの前に行くと、ライトは改めてみやびに雪乃たちを紹介する。


「こっちが雪乃、こっちが星夜。二人とも、高校の時の仲間だよ……もう一人敦ってやつがいるんだが……。」


ライトがキョロキョロと周りを見回す。


「あっつんならもう帰ったわよ。色々溜まってる雑用してもらわないといけないからね。」


星夜が何でもない事のように言う。


「あいつ、卒業してもお前にこき使われているのか。」


「しょうがないじゃない。そう言う約束なんだから。って言うか、元をただせば、ハルの所為でしょうが。」


星夜がふくれっ面でそう言う。


こういう可愛らしい仕草が妙に板についている為、外見で騙される奴が多いのだ。

そしてそのままトラブルへと発展する。

星夜が悪いわけではないのだが、起きたトラブルを楽しむ悪癖があるため、そのまま放置すれば収まるべきところへと収まるものを、変に煽って大炎上したことは一度や二度ではない。

そして、その都度後始末に駆り出されるのは、ライトであり、敦だった。


「まぁ、敦のことはいいよ。それより、急なお願い聞いてもらって悪かったな。」


ライトがそうYukiにいうと、Yukiはにっこりと微笑んで首を振る。


「ううん、ライトの過去の女性関係にも興味あったから気にしないで。」


Yukiがそう言った途端、みやびが一歩前に出て、ライトとYukiの間に立つ。


「どうもー、紹介された浅岡みやびですー。れーじんとは一つ屋根の下で暮らしてますー。」


そういって、ライトの腕につかまるみやび。


「おい、誤解されるようなことを言うなよ。」


「えー、嘘は言ってないじゃない。」


みやびがふくれっ面でそういう。


確かに同じマンション?だから一つ屋根の下といえばその通りなのだが……。


「へぇ、あなたがあのセーラー服の娘ね。うんうん、ライトは昔からちっちゃい子が好きだったからねぇ。でもそう言う度に大人っぽい女性が好みだって反論してたよねぇ?」


Yukiが、ニンマリとライトに笑みを向ける。


そして、みやびとYukiが双方笑顔のまま睨み合うという、ある意味とても怖い図式が出来上がる。


ライトはどうしようもなく、星夜に視線を向ける。

つまり、何とかしてくれ、と。

星夜も心得たもので、貸し一つね、と告げて二人の間に割って入る。


「まぁまぁ、色々誤解もあるかもしれないし、逆に面白い話も聞けそうだし、ここはひとつ女子会をするってことで。」


「女子会?」


「そう、今夜、ここの屋上ラウンジ貸し切りにしておくから、夜7時に来てね。あ、あと、ハルはこのあと少し付き合ってね。」


星夜はそう言い残すと、Yukiの手を取り、ライトを引きずるようにして、式場の中へ戻っていった。


そして、その夜、着替えを済ませ、戦闘態勢を整えた真理とみやびは、敵陣でもある、スターナイトエグゼティブの屋上ラウンジへと、足を踏み入れたのだった。



「まぁまぁ、落ち着いて。ボクたちはハルという一人の男性によって絆を結ばれた……いわば同士みたいなものでしょ。仲良くしたいっていうのは本音だよ?それに、さっきも言ったけど、ハルの高校時代のこと気になるんでしょ?ボクたちもそう、ハルの原点が聞きたいのよ。」


星夜がそういうと、みやびも真理も頷く。

そしてみやびが口を開く。


「そうね。でも先にこれだけは言わせて。星夜さん、雪乃さん、れーじんを助けてくれてありがとう。れーじんが言ってた、あなたたちがいたから、人生に絶望せずにここにいられるって。今、れーじんが笑って私たちのもとにいるのも、全部あなたたちのおかげだから。」


「そうね、私たちはあの時、何もできなかった……ううん、何もさせてもらえなかったから。だから本当に心から感謝してるの。もう一度やり直すチャンスがもらえたことをね。」


みやびの後に続いて、真理もそう言って頭を下げる。


「え、えっとね、二人とも頭を上げてよ。私たちは何もしてないんだよ。それに友達のために何かすることは当たり前のことじゃない。特に好きな人のためなら……ね?それはわかるでしょ?」


「うぅ……。やっぱり雪乃さん、れーじんのこと好きなんだ。」


「うん、まぁね。後、雪乃さんだなんて堅苦しい呼び方じゃなくて、ユキって呼んでくれると嬉しいな、みやびちゃん。」


「う……うん。それで、ユキとれーじんはどういう……。」


「そうねぇ……一言でいえば戦友……かな?」


「まぁ、雪乃は、学生時代、唯一ハルに振られた女だからねぇ。あ、ボクのことはセイって呼んでね。みやびちゃん。」


「うぅ、セイまでちゃん付け……私のほうがお姉さんなのにぃ。」


「振られてないっ!勝手なこと言わないのっ。」


ユキが起こりながら、グラスの中身を一気に飲み干し、別の飲み物を注文する。


「まぁ、夜は長いし、せっかくだからそのあたりのことから話そうか?」


「そうね、それがいいかもね。」


ユキがそういったところで、注文したカクテルが目の前に置かれる。


「あ、それってブルーハワイ……。」


「うん、私のお気に入り。そしてライトのお気に入りのカクテル……知ってた?」


ユキの言葉に真理は頷くが、みやびは初めて知ったと言う表情を見せる。


「そうだねー、それはボクにとっても忘れられないハルとの思い出なんだよね。……って何みんなボクを見てるの?」


「うん、みんなセイの話に興味があるのよ。私も今のことは初耳だしね。」


「うー、言い出しっぺだし仕方ないかぁ。だけど、みんなも話してよね。」


星夜はそういうと、口を滑らかにするように、カクテルに口をつけてから話し出す。



「ボクとハルの出会いは高1の夏休み直前かなぁ。その頃のボクはいわゆる自分捜し?ってのをしてたんだよ。」


「自分捜し?」


「ウン。こういう言い方すると、結構嫌われちゃうんだけどね、ボクは勉強でも運動でも大抵のことが労せず出来るみたいで、だからね、自分に何ができて何ができないんだろうってずっと考えててさ、あっちこっちの部活やサークルに体験入部してたんだよ。」


「で、そこで部員とトラブル起こして、付いた名が部活クラッシャー、なのよね。」


ユキが茶化すように言う。


「うるさいなぁ、ボクだって好きでトラブル起こしてたわけじゃないんだよ。相手が勝手にボクの才能に嫉妬して、言い掛かりつけてくるからだよ。」


行く先々の部活で、セイはその才能を遺憾なく発揮し、そしてその結果、部員の嫉妬感情を煽ることになったらしい。


まぁ、だれでも、厳しい練習に耐え、何度も地味に繰り返して得たものを、ふらっとやってきた新人がいとも簡単に得ていく。

それでも、その新人が、そのことに本気で取り組んでいれば、また違った感情も芽生えただろうが、本人は出来るようになると興味を無くし、練習もろくにしない。

そんなの誰だって怒るだろう。特に、そのことに本気で取り組んでいる者ほど、馬鹿にされた気がするはずだ。


だけど、セイからしてみれば、単にやったことのないことについて自分がどこまで出来るか試してみたい、そのことにどれだけ興味が持てるか知りたい、というだけのお試しなのだから、興味を失った物事に本気で取り組めと言われても困る。

それがまた、それに取り組んでいる者たちの感情を逆なですることになり、結果としてトラブルに発展していくという繰り返しだったのだ。


「まぁ、それでね、ある時、そのトラブルが少し大事になっちゃって……。」


何でも、セイと揉めた生徒が、自分ではセイに敵わないことを知っているから上級生を巻き込んだらしい。

それで、勝負をすることになったのだけれど、その勝負はセイの圧倒的勝利に終わる。

ただ、上級生としても、自分に有利な勝負を持ち掛けて返り討ちにあったとなれば、面子が潰れる。

だから、単純な解決方法……つまり暴力に訴えかけたのだ。


その上級生は自分に気がある柔道部の連中を巻き込み、セイを取り囲む。

とはいっても、本当に暴力を振るう気はなく、セイが怯えて謝罪をすればそれでよかったのだ。


だけど、セイの勝気な性格が仇となり、双方引くに引けないところまで行ったところで、間に入ったのが、クラスメイトの敦とライトだった。


「あの時は余計なおせっかい野郎、だと思ったんだけどねぇ。だって、ただのクラスメイトだよ?大して仲良くもないのに、トラブルの渦中に飛び込む?普通。で、ボクのトラブルの肩代わりをして。あっつんとハルの二人が柔道部の連中30人と戦うことになってね。でも、相手は県大会常連で、主将に至っては全国に出たこともある連中だよ?勝負って言ったって目に見えてるよねぇ。」


「それでどうなったんですか?」


「うん、ハルがね、「最後まで立っていたほうの勝ち」って条件を出して、相手も受け入れたの。そのあとはもう、何とも言えないわ。あっつんもハルも何度も投げられて、叩きつけられて……それでも立ち上がってくるのよ。そんな狂気じみた二人に部員のほうが先にネを上げちゃって、最後は主将とハルの一騎打ち。勝てるわけないのに何度も何度も立ち上がってくるハルの姿に、不覚にもボクの乙女心がキュンって来ちゃたんだよ。」


「……まぁ、わからなくもないわね。」


セイの言い方はともかくとして、自分のために、巨大な敵に立ち向かう男の子。そんな姿を見せられたら、大抵の女の子は簡単に堕ちちゃうだろうなぁ。

みやびはそんなことを思い、セイの言葉に頷いてしまう。


「まぁ、それでも決定的だったのが、主将の問いかけに対するハルの言葉ね。」


「どんなのだったの?」


「主将がね、「お前は何でそこまでする?」って聞いたのよ。それに対するハルの答えが「友達を助けるのに理由が必要か?」だったの。もうね、わかるでしょ?」


「うん、わかる。れーじんらしい答えだね。」


……そんなこと言われたら、だれだって恋に落ちてもしょうがないよ。


「で、結局、その答えがきっかけで、主将がギブアップ。なんだかんだで、ボクも、原因となった先輩に頭を下げて、とりあえずは一件落着ってなったんだけど……。」


「その後が見ものなのよねぇ。私も聞いた時思わず笑っちゃったわ。」


「あ、うん、なんかわかっちゃった。あやちゃんのことだから……。」


「……何を想像したかわからないけどね、すべてが終わって、一応お礼言っておこうと思って、あっつんとハルのところに行ったのよ。そうしたら、ハルの奴、「何やったかわからないけど、もう少し賢く立ち回れ」って上から目線でいうのよ。このとき、はじめて、ハルが事情も知らずに渦中に飛び込んできたことを知ったわけ。というか、事情も知らないのにクラスメイトってだけで柔道部の猛者とやりあう?それが賢い立ち回り方なの?って思わず怒鳴っちゃった。しかもだよ?そのあと、ハルの奴「ところで、名前なんだっけ?」って聞くのよ?ありえないでしょ?」


「あははっ、あやちゃんらしいわね。」


「うん、思いっきりれーじんだ。そういうところ変わってなかったんだ。」


真理とみやびの瞳に涙が浮かぶ。

ライトから、酷い話を聞いていただけに、それでもライトらしさを損なってなかったことを知って安心したのだ。


「まぁ、そんなきっかけでね、あっつんとハルとつるむ様になったわけ。そこに雪乃が加わったのは秋になってからだっけ?」


「そうね、私がみんなと行動を共にするようになったのはそれくらいかな?でも、セイの騒ぎは知ってたから、結構前から注目してたのよ。」


「きっかけは生徒会選挙だったよね。」


「そうそう、セイが生徒会長になるから協力してくれっていきなり言ってきたんだよね。ろくに知らない他所のクラスに飛び込んできて、そんなこと言うなんて怪しさMAXだったわよ。」


「だって、あっつんが、生徒会長になるなら、優秀なブレーンが必要だっていうから。」


「だからと言って、いきなり教室にやってきて「雪乃、あなたが欲しい!」なんて叫ぶ?もう、恥ずかしくて、しばらく教室内での居心地が悪かったんだからね。」


「だって、あの時ハルが協力的じゃなかったんだよ。で、ボクが雪乃を口説き落とせたら協力してくれるっていうからね。手段なんて選んでいられなかったんだよ。」


「それで、生徒会長にはなれたの?」


ぶうっと頬を膨らませているるセイに。みやびが訊ねる。


「うーん、いいところまで行ったんだけどね、結局ダメだった。」


「仕方がないわよ。あなたに任せたら学校行事が滅茶苦茶になるって学園側の判断だったんだから。」


「どういうことなの?」


学校の判断と聞いて真理が複雑な顔で聞く。


「あ、ううん、すごくまっとうな話でね、どうせまともにやっても当選しないだろうからって、ライトと敦が少しだけはじけちゃってね、色んなことを計画したのよ。で、元がそういうの好きなセイがノリにノッちゃって……まぁ、選挙終わるまでは学園始まって以来のお祭り騒ぎになってね。その結果、こんな規格外の人間が生徒会長になったら面白いだろうって、生徒の過半数の票を集めちゃったのよ。だけど、さすがに、その時の騒ぎはやりすぎってことで、選挙でこれだけの騒ぎになるなら、体育祭や文化祭はどうなるのかって、緊急の職員会議が開かれて、結局、セイの当選は無効ということになったのよ。」


「それは……。」


「なんて言っていいか……。」


「まぁ、そのおかげで、文化祭や体育祭などの大きな行事は、多少羽目を外してもなにも文句が出てこなくなったけどね。全部ボクのおかげだよ。」


「あんたは反省って言葉を覚えなさい。……まぁ、そんな感じで大騒ぎの元はセイなんだけど、その裏にはライトたちがいて、彼らがいなければもっと騒ぎの規模が小さかったのは事実ね。」


「そっかぁ、れーじんは学校生活楽しんでいたんだぁ。」


「楽しんでたのかな?結局ボクが振り回してただけかもしれないよ?」


「まぁ、少なくとも卒業の時のライトの顔はかなりマシになってたから、結果オーライよ。」


セイとユキの口調に少しだけ苦いものが混じる。

多分、自分が思っているより、色々なことがあったのだろう……いいことも悪いことも……とみやびは思う。


「先日ね、れーじんが言ったの。「今自分がこうして笑っていられるのは、雪乃や星夜、敦がいたからだあいつらはかけがえのない仲間なんだ」って。」


「そうなんだ……。」


「だったら嬉しいな。」


星夜と雪乃の瞳の端にきらりと光るものが見える。


「あ、そうだ、雪乃が振られたって話だったよね。」


「ちょっと、それはもういいじゃないの。」


「だぇーめ。みやびちゃんたちも聞きたいよね?」


そういうセイの言葉にうんうんと頷く二人。


「もともとハルって結構モテてたんだよ。まぁボクのせいで目立ってたってこともあったんだけどね。」


セイの話では、常に成績上位なうえ、セイやユキと言った目立つグループに所属していることもあり、高校2年になるころには、上級生、下級生を含めて、結構な人気があったらしい。


とはいっても、そばにいる星夜と雪乃といった学園トップ3に入る美女を押しのけて告白するような勇者は、それほどいるはずもなく、ライト自身は持てるという字価格はなかったらしい。


「それでもね、告白してくる子はいたんだよ。で、ハルはそれを断ることはしなかった。」


「だけど、結構重いもの抱えてるじゃない?結局ライトの内面まで踏み込める子なんていなくて、すぐ分かれちゃうの。最長記録は1か月だっけ?」


「そうそう、ちなみに最短記録はボクの3日。」


おちゃらけたように言うセイをみやびが睨みつけて言う。


「そう、あなたが『元カノ』なんだ。」


「そうだよー。あの頃のハルは付き合って、って言えば、その時付き合っている子がいない限り、100%誰とでも付き合っていたからね、そういう子含めれば、「元カノ」なんて両手の指じゃ足りないかもね。」


「うぅ……れーじんの浮気ものぉ。」


ガックリと肩を落とすみやび。


そんなみやびの肩を抱いてあやす真理。


「まぁね、ボクの場合は、雪乃の背中を押す為だったんだけどね、その時のハルの残念そうな表情にはちょっと……ううん、かなり傷ついたんだぞ。半分は雪乃の為だけど、半分は本気だったぞ。」


「ユキの背中を押す為って?」


真理が聞くと、セイは知らん顔をしているユキを引っ張りながら言う。


「誰がどう見たって雪乃がハルに惚れてるのは見え見えなのにね、何も言わないからじれったくて、ボクが抜け駆けすれば焦るかなって、ね。」


「そんなこと言われたって、ライトは最後の一線で私たちにさえ心を許してなかったじゃない。そんなところで、好きだなんだって言っても受け入れてもらえるわけないじゃない。」


「実際振られたしね。」


「だから振られてないっての。保留されてるだけよ。」


「えっと、詳しく聞いても?」


真理が遠慮がちに尋ねる。


「詳しくも何も、私が告白したら「今はまだ雪乃の気持ちに応えることは出来ない」って言われたの。わかる?「まだ」ってって言われただけだから振られてないの」


「あー、うん、ソウデスネ。」


雪乃の言い訳に、真理を始めとした三人は、視線を背ける。


「あによぉ。なんか文句あるぅ?」


「あ、んっと、まぁまぁ飲もうよ。」


似たようなことを言われたばかりのみやびは、雪乃の気持ちがよくわかるだけに、妙な親近感がわくのだった。


「大体アイツはねぇ……。」


「うんうん、れーじんってそういう所あるよねぇ。」


二人の飲むピッチが速くなり、それを少し離れたところで見つめる真理と星夜。


「ボク達にとっては昔の男ことだけどねぇ。ご愁傷様。」


「ボク達って、私今日結婚したばかりなんだけど?」


「でも、好きだったんでしょ?ハルの事。」


「……幼い頃の初恋よ。それに、あの子たちには敵わないって、早々にリタイアしたからね。」


「お互い昔の初恋に、そして親友の恋の成就を記念して、乾杯ね。」


星夜はそう言って真理とグラスを合わせる。


「そう言えば、あなたとあやちゃんとブルーハワイの関係って?」


「あー、まぁそれは追々ね。意外と長い付き合いになりそうだしさ。」


星夜は真理にそう言うと、乾杯するかのようにグラスを掲げる。


「否定出来ないわね。……新たな出会いに。」


真理は自分のグラスをそっと合わせる。


結婚は人生の節目の一つだという。


自分を取り巻く環境は、今日、たしかに変わったのだということを自覚しながら……。



その後も女性4人は一人の男の話題を肴に、明け方近くまで飲み続けるのだった。

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