無料ガチャ001回目:姉妹の報告会【閑話】

「たっだいまー!」

「あ、姉さん。おかえりなさい」

「マキー、おつかれー!」


 缶ビール入りのレジ袋片手に、姉のアキが意気揚々と部屋へと上がる。

 ここは協会職員専用宿舎。男子禁制の受付嬢専用の建物で、アキとマキの2人姉妹が寝泊まりする部屋だ。


 プシュッ。


「ごくごく、ぷはーっ。仕事終わりのビールは格別ねー!」

「姉さんったら。今日は暇なんじゃなかったの」

「そうなんよー。ショウタ君も来ないし、警備兵のダイモンさんはサボリでいない。ま、これはいつもの事だけど。漫画読んだりうたた寝したりですること無くてさー。……ホントに暇だったから、スライムしばいて遊んでたわっ」

「ちょっと姉さん、せめて受付嬢の仕事くらいしてよっ」

「良いのよ、『アンラッキーホール』は本当に誰も来ないもん。先月の利用冒険者表見たでしょ。ショウタ君しかいないのよ?」

「それは確かにそうなんだけど……」

「それに、あたしの本部からの評価は結構高めだし、このくらい適当でも許されるわ。あのダンジョンくらいのものよー。夜間に職員がいなくなるダンジョン支部なんて。あはは」

「もう。それもこれも、全部ショウタさんのおかげじゃない!」


 受付嬢の評価と給金は、ダンジョンと冒険者人数から予測される魔石の収穫予測量と、担当冒険者が納める魔石の量と質によって算出されている。魔石はこの10年の間に活用方法が見出されており、クリーンなエネルギーとして注目されており、協会にとっては魔石の買い取りこそが最重要項目として掲げられていた。


 『アンラッキーホール』で産出される魔石は、スライムからのドロップである『極小魔石』のみ。

 その為、不人気であるダンジョンの惨状を鑑み、月に納入可能と予測された魔石の量は少なく見積もられていた。しかし、実際に納品された魔石量は違った。ショウタの『運』と異常なまでの討伐数により、本来目標としていた1ヵ月の魔石目標は、たった1日で納められていたのだ。


 あの異常な魔石は、実際の所ショウタの飽くなき探求心による副産物であるのだが、外から見れば、ほぼ専属でお世話をしているアキの指導によるものだと判断されていた。

 その為、一般的な冒険者の目線で言えばショウタは最弱という扱いを受けていたものの、協会の一部からの評価は割と高いのである。


「そうそうショウタ君! スライムしばいて改めて実感したけど、本当に『極小魔石』のドロップ率悪いのよね。それを何百個と持ってくるショウタ君は本当すごいわ。彼のおかげであたしの生活は安泰よー。『紹介状』を発行したことで、他のダンジョンで活躍しても査定金の一部はこっちに流れてくるし。うはうはでホント最高! ……で、実際に彼に会ってみてどうだった?」

「……いい人だと思うよ。ちょっと常識が足りないところがあるけど、良識はあるし。姉さんがダンジョンについてまるで説明していない事がよくわかったから」


 スキルオーブを無造作に取り出したり、『紹介状』や専属のメリット・デメリットをふんわりとしか理解していなかったり。今までどんな説明をして来たのかと、マキは姉を冷ややかな目で見つめた。


「うっ。……そ、それは置いといて。今日の活躍っぷりが聞きたいわ」

「……はぁ、凄いなんてものじゃないわ。今日は第一階層でゴブリンを中心に150匹ほど倒したらしいけど、その数さえ異常なのに入手した『極小魔石』はなんと132個。副産物である『鉄のナイフ』に至っては30本近く落ちたらしいわ。けど、『極小魔石』はビー玉サイズだから問題ないとしても、ナイフは嵩張るから半分ほど捨てちゃったみたい」

「うわー勿体ない! 協会としては『極小魔石』の方が嬉しいけど、単価としては『鉄のナイフ』のほうが高いのよねー。ショウタ君、その事知らなかったんじゃない?」

「そうみたい。査定金の説明を受けた時、ちょっとショックを受けていたから……。姉さんがろくに教えていない事が今回の事でハッキリしたから、これからは私がみっちり教えていくわ」


 『極小魔石』は買い取り価格1個200円だが、『鉄のナイフ』は1個1500円もする。

 ダンジョンの力や技術を用いて作られた武器やアイテムは、例え鉄でも一般的な物とは性能が異なる。その為、価格が高騰するのも自然の事だった。


「へー、ほー? 随分親身になっちゃって、まるでマキの方が専属みたいじゃん。ショウタ君のに立候補しちゃう?」

「っ! こ、これはその、『紹介状』に『専属代理人』が指名されていたからで……もう! ニヤニヤしないで! それに、二重契約は制約があるから難しいでしょ」


 受付嬢がツバを付ける為の『紹介状』と専属システムだが、当然手当たり次第に出来ないよう重い制約もある。二重契約もその1つだ。

 

「んんっ、話を戻すよ。ショウタさんほど稼げるのなら、『運び屋ポーター』を雇った方が良さそうだけど、条件に合う人がすぐには見つからなくて……。それに、ショウタさんもあまり乗り気じゃなかったの」

「わかるわ~。ショウタ君、妙にこだわるところあるから、普通の『運び屋』じゃ邪魔になりそう」

「あと……はい」


 マキは鞄から取り出したファイルを姉に手渡した。


「なにこれ、報告書?」

「今日のショウタさんの活躍と、姉さんに開示しても良いって言ってくれたことを載せてるから。こんな一大事件、口で言っても信じられないと思って」

「え、なになに楽しみー。……わぁお」


 いい感じに酒が回り、酔ってきたアキだったが、一瞬で醒めてしまった。

 それだけ衝撃の内容が書かれていたのだ。


「いつか、でかいことの1つや2つやってのけると思ってたけど、まさか初日に第一階層の問題児『ホブゴブリン』を討伐してのけるなんてね。それに確認できているアイテム、全ドロップと。この辺りはもう流石としか言いようがないわ」

「しかもショウタさん、それらを全部協会を通してオークションで売るって言ってるのよ。信じられる?」

「えぇ!? 大剣は彼に合わないから分かるとしても、『怪力』スキルなんて、近接アタッカー垂涎のスキルじゃない。それをオークションに流すなんて、絶対大騒ぎになるでしょ。なんで自分で使わないのよ……。あ、もしかして、もう持ってるとか?」

「違うの。ショウタさん、『紹介状』の事も含めて姉さんにお世話になってるから恩返ししたいって言ってたの。だから私は査定金の仕組みの話をして、換金してくれるだけで十分って伝えたわ。そうしたら『怪力』を売るって話になって……」

「ええっ!?」


 査定の際に差っ引かれる2割のダンジョン税のうち、その75%は協会に流れるが、残りの25%は担当した受付嬢の給金に加算される仕組みだ。

 そして『紹介状』を持つ冒険者の場合、ダンジョン税の50%が協会に行き、25%が『紹介状』発行者に。残り25%が担当受付嬢に流れる。その割合は、協会を通したオークションでも同じだった。


 その為受付嬢は、将来有望な冒険者にツバを付ける為に『紹介状』を発行し『専属』になる事で、稼ぎとする。しかし受付嬢は、たった1人にしか『紹介状』を発行出来ない制約がある為、誰もが慎重になり中々発行するには至らない。

 また、既に『紹介状』持ちの冒険者と専属契約を結ぶには、あまりに面倒な制約が多く、2人以上の専属を持った冒険者は本当に少なかった。


「ショウタ君優し過ぎよ。その気持ちは嬉しいけど、これは貰い過ぎだわ。『怪力』なんて大当たりスキル、オークションに出せば数千万はくだらないわ。その売り上げの5%ずつがあたし達姉妹に入るなんて……。頭が上がらないじゃない」

「私も日々の納品で十分だからって言ったけど、折れてくれなくて……。だから私は、貰い過ぎたものに報いるためにも、今後も色々サポートしてあげたいと思ってるの」

「そうね、あたしも協力するわ。まずは荷物周りの対策が最優先事項よね。それから……協会本部でいくつかステータス関連の実験プロジェクトが進んでいたわ。その中に、少ないけど『運』に関するものがあったはず。その内容をショウタ君に教えてあげましょ」

「『運』が高いほど、奇跡の一撃クリティカルヒットが発生しやすいっていう実験ね。それもあるから、『ホブゴブリン』討伐も納得出来たわ」

「そう。その他にもいくつかあったはずだから、数日以内にまとめて教えてあげましょ」


 姉妹は頷きあうと、早速端末を操作し情報を集め始めた。


「あ、でもそれとは別に、今度ショウタ君をご飯に誘おうよ。名目はレアモンスター討伐おめでとうの会で」

「流石姉さん、名案だわ」

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