ガチャ006回目:何事も計画的に

 目の前にモクモクと湧き出る、『ホブゴブリン』の煙。

 巨体であるが故、完全に消え去るのにも時間がかかるようだった。


 ごくり。


 冷や汗をかきつつ様子を見る事1分。

 煙は静かに霧散していき、あとには『中魔石』が1個と、奴が装備していた『鋼鉄の大剣』。そしてスキルオーブの『怪力』だけが場に残った。


 どうやら、次は出てこないようだ。


「……はぁー、焦ったー!」


 ここで次のレアモンスターが出たら、太刀打ちできない可能性があった。

 場合によっては今のが最後で、あれ以上レアモンスターが出現しないだけかもしれないが、『運』の問題で出なかっただけかもしれない。


 いや、『出なかった。……とか?


「検証に夢中になって、周りが見えなくなるのは悪い癖だな。再戦する時は、もっと強くなってからにして、それまではキラーラビットを間に挟もう。あと、考えなしに『運』に振り続けるクセもなんとかしよう。不意にレアモンスターが出たときに備えて、予備の『SP』はあった方が良さそうだし。……さて、ドロップアイテムも気になるけど、ガチャを済ませてしまうか」


 『マップ』で周辺に誰もいない事を確認して、『レベルガチャ』を起動し「10回ガチャ」を押す。


『ジャララララ』


 今回は赤色2つに青色7つ。そして、紫色が1つ出てきた。


「え、紫? もしかして赤の上か!?」


 現在俺の『運』は、レベルが17に上がったことで112もある。100の大台を突破したからか、極小確率だったSSRを引き当てられたのかもしれない。早速開封だ!


『R 腕力上昇+3』

『R 器用上昇+3』x2

『R 器用上昇+5』

『R 頑丈上昇+3』

『R 俊敏上昇+5』

『R 知力上昇+3』

『SR 魔力上昇+7・知力上昇+7』

『SR スキル:鑑定妨害Lv1』

『SSR スキル:炎魔法Lv1』


「ま、魔法!?」


*****

名前:天地 翔太

年齢:21

レベル:7

腕力:50(+40)

器用:35(+25)

頑丈:40(+30)

俊敏:54(+44)

魔力:34(+26)

知力:30(+22)

運:112


スキル:レベルガチャ、鑑定Lv2、鑑定妨害Lv2、自動マッピング、身体強化Lv2、炎魔法Lv1

*****



◇◇◇◇◇◇◇◇



 結局、魔法スキルの取得に興奮しっぱなしだった俺は、『怪力』のスキルを使うタイミングを完全に失っていた。見るからに『腕力』に大幅なボーナスが得られるスキルだというのはわかるけど、これは、人間が使って良い物なのか、冷静に判断が出来なかったからだ。

 スキルには当たりスキルと、ハズレスキルがある。このスキルを使った瞬間、ムキムキマッチョになる可能性も否定できない以上、ちゃんと調べてからにしないと。そう思いリュックに戦利品を仕舞い込み、大剣だけは手に持ってダンジョンを脱出した。


 正直、強敵との戦いで今すぐにでもベッドに直行したい気分だったけど、協会へと足を進める事にした。

 『ホブゴブリン』の咆哮はフロア内に響き渡っていたはずだし、一応報告しておかないと。


「ショウタさん、ご無事でしたか!?」

「あ、マキさん。ただいま戻りました。騒がしいですけど、何かありましたか?」


 マキさんは俺の顔を見るなり駆け寄ってきて、怪我がない事を確認して安堵した表情をしてくれた。どうやら心配をかけてしまったようだ。


 けど、こんな美人のお姉さんに心配してもらえるって、不謹慎だけど嬉しいもんだよな。

 アキさんの場合、俺が検証に夢中になり過ぎて半日近くダンジョンに籠っていた時も、心配された事は無かったし。


 協会内では今日来た時以上に沢山の冒険者が集まっていて、無事の確認や情報交換をしている。そして壁際では、警備兵が装備の点検をしていた。

 ……これは、もしかしなくても『ホブゴブリン』の出現は、一大事件のようだ。

 思えばあの『怪力』を使った圧倒的な暴力と、異常なまでに硬い皮膚は、一階層でレベルを上げているような新人の冒険者には荷が重すぎる相手だもんな。痕跡を見つけたら死ぬ気で戻るよう厳命されてるのかもしれない。


 疲れたから換金は明日にして直帰しようかと悩んでいたけど、踏み止まって正解だったようだ。


「ごほん、一階層目にレアモンスターの『ホブゴブリン』が出現したそうなんです。滅多に出現しないのでお渡しした資料にも隅の方にしか記載されていなかったのですが、まさか突然現れるなんて」


 騒ぎを起こした身としては、この状況に申し訳なくなってくる。


「ショウタさんに目立った怪我がなくて本当に良かった。もしショウタさんの身に何かあったら、私……。……あら? ショウタさん。その大剣は、一体……」

「ははは……討伐、しちゃいました」

「え?」

「これ、『ホブゴブリン』が装備してた大剣なんです。それと『中魔石』とスキルオーブもあります。討伐証明として持って帰りました」


 鞄から『中魔石』とスキルオーブを取り出して見せると、マキさんは慌てて押し返してきた。


「ちょちょ、ちょっとショウタさん! ここで見せないで下さい、危ないですからっ」

「え、危ないって……」


 マキさんの言葉を疑問に思い、周りを見渡したところで理解した。

 周囲の人達の、様々な視線に。


「ショウタさん、奥の会議室に来てください。今すぐにっ」

「は、はいっ」



◇◇◇◇◇◇◇◇



「いいですかショウタさん。スキルオーブがどれだけ高価なものかはご存じでしょう。それを無暗に見せびらかしてはいけません」

「はい……」


 会議室に連れられてきた俺は、マキさんからのお説教を受けていた。


「早く討伐情報を伝えて安心させたい。そんなショウタさんの気持ちは正しいですし、私としても嬉しいです。ですが、ショウタさんにはただでさえ謂れのない情報が出回っているんです。アキ姉さんからも、本当は人一倍努力家で腕が立つことも聞いています。でも、周りの人はそれを知りません」


 え?

 俺、アキさんからそんなに評価されてたの?


「本当に『ホブゴブリン』を倒したのがショウタさんだったとしても、悪い人にはカモに思われてしまうかもしれないんですよ。だからこれからは気を付けてくださいね。いいですか?」

「……はい」

「よろしい」


 思うところは色々あったが、マキさんが俺を思って心配してくれてるのはわかったし、それが凄く嬉しかった。なのでここは、大人しく頷いておく。


「では、ここからは冒険者と受付嬢としてのお仕事です。ショウタさんは『ホブゴブリン』を討伐した。間違いありませんね?」

「間違いないです」

「……確かに、その剣も、魔石の大きさも。あとは『怪力』のスキルオーブも。どれも『ホブゴブリン』のドロップ情報と一致します。ショウタさんがウソを言ってるとは思えないのですが、ただ……」


 ああ、そうなるよな。

 俺の本来の実力を思えば、討伐するのは不可能と思われてもおかしくはない。


 仮に彼女が俺の登録初期時の情報を知らなかったとしても、マキさんはアキさんの妹だ。俺の紹介状を発行する過程で、ある程度の強さや情報は伝わっているはず。そんな俺が、ゴブリンはまだしも『ホブゴブリン』に勝てるなんて、俄かには信じられないんだろう。

 協会に居た冒険者達も、たまたま落ちていたアイテムを拾ってきたラッキーな男と思っているかもしれない。


 幸運だった。それは俺も思ってる。

 なぜなら、今回あの怪物を倒せたのは、『に他ならない。本来より高くなったステータスに加え、『身体強化』のスキルが合わさり高い攻撃能力と回避能力を得た。そして決め手は、攻撃がからだ。

 それが無ければ、俺は奴には勝てなかっただろう。


「マキさんの言いたいことはわかります。でも、これが今の俺の実力なんです。信じてください」

「……わかりました。では最後にショウタさん、1つだけ教えてください。姉さんからショウタさんのお話は伺っています。ひたすらに『運』を上げ続けている、と。今のショウタさんの『運』は、どのくらいあるんですか? 勿論、この情報はデータベースには載せません。私の胸の内に留めておきます」


 本来、非公開としている情報への開示要求はタブーだ。それが例え協会側の人だったとしても。

 冒険者にとって、ステータスの内容は今後の活動の生命線になりうるから。


「……わかりました。マキさんと、お世話になったアキさんになら、伝えても大丈夫です」


 けど、こんなに俺に親身になってくれる、この人達なら大丈夫だと思った。

 なんたって俺は、『運』だけは良いんだからな!


「今の『運』は、112あります」

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