正統派王子と自由奔放王子

 シャーロットと共に教室に着いたセレスティア。すでに何名か到着しており、顔見知りと話をしたり、自席でくつろいでいた。


 窓際の席で話をしている二人組に目がいくセレスティア。


「レイ様と、ゼファー様……」


 心臓のあたりに手を置くと、普段よりも大きく脈打っているのが分かった。


「ティア、緊張しなくても大丈夫よ」

「は、はい」


 体に力が入っているのか、動作が硬くなっていることに気づきながら、少しずつ呼吸を整える。シャーロットはそんなセレスティアを優しく見守っていた。


「あ、シャーロット様とセレスティア様じゃないですか」

「ご、ご機嫌よう、レイ様」


 落ち着かせる前に、気付かれてしまったが昨日に挨拶を済ましていた為、なんとか平然を保てていた。


「やぁ、始めまして。シャーロットから話は聞いてるよ」

「初めてお目にかかります。セレスティア・エスメラルダでございます」


 自身の靴がスカートの裾から見えるのではないかと思うほど、頭を深く下げるセレスティア。


「セレスティア、そんなにかしこまらなくていいよ」


 セレスティアが思っていた以上にゼファーは親しみやすく物腰の柔らかい人物であった。いい意味であまり権力を感じさせない雰囲気を持っていた。


「寛大なお心に感謝いたします。今後ともよろしくお願い致します」


 昨日会ったエンリルと外観的な特徴は似ていても、内側から滲み出る人格が全く異なるゼファー。


 ゼファーの方が正統派王子様な印象を受けたセレスティア。生真面目なセレスティアからすると、双子であってもエンリルよりゼファーの方がかなりの好印象であった。


 ただセレスティアが気掛かりだったのは、シャーロットのことだった。どこか上の空で、笑顔の中に葛藤が見え隠れしていたのだ。


「シャーロット様、ご気分が良くないのですか?」

「え? いや、大丈夫よ。ありがとう」

「急に紹介したい人がいるなんて言い出すから驚いたけれど、シャーロットもいい友人ができたようで安心したよ」


 優しい眼差しはシャーロットに向けられた。


(この目は愛しいものを見つめる目だわ。お二人は本当にお互いに愛し合っているのね……)


 セレスティアは何故だか自分のことでもないのに、胸が暖かくなるのを感じた。まだ出会って間もない二人だが、どうか幸せになってほしいと強く強く願った。


「ゼファー様、エンリル様とグレイシャがまだ来ておりません……」


 レイは自身の腕時計を確認しながら、ゼファーに報告していた。


「うーん、グレイシャはエンリルを探してのことだろうけど……。またどこかで昼寝しているか、道草でも食ってるんだろうね」


 苦笑いをしつつも、特にエンリルを責める気のないゼファーと、焦っているレイが対照的であった。そこにシャーロットがため息をつく。


「ふぅ、エンリル様のあの自由奔放さは、何とかならないのかしら……」

「仕方ないさ、エンリルには自由に食べる羽根ちからがあるからね」


(確かにエンリル様の魔法は、昨日見ただけでも相当な能力をお持ちなんだと実感させられたわ)


 たわいもない話をしていると、コンコンと窓から音がなった。


「やっほ〜」

「エンリル様!」

「俺もいる……」

「グレイシャ……」


 レイが窓をガラガラと開ける。すると何故かグレイシャがエンリルに抱きかかえられる状態で、窓から教室内に入った。


「エンリル……、グレイシャが可哀想だろう」

「いや、こうでもしないと遅刻するところだったし」

「エンリル様が昼寝していなければ、こんなことにはなってなかったんですが……」

「わー怖い怖い」


 キーンコーンカーンコーン


 聞き慣れたチャイムの音で、二人の茶番は幕を閉じた。


“……”


 小さな妖精は何かを感じ取っていたが、主人には言わずに身を潜めていた。

 

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