聖なる夜に一人、歩く。

神崎郁

せめて君に。

 夢を見た。幸せな夢だ。

 とあるマンションの小さな部屋で、生活もままならなくい。だけど朝起きると君が隣にいる。夜帰ってくても、また君がいる。どうということのない日々、そんな夢。

 そんな日々が訪れることは、二度とない。




 世の中は不平等だ。正直、僕のような不幸せな人間は消費税が免除されてもいいと思うし、聖夜に中指を立てながら夜の灯りに塗れた街を徘徊することも許されるべきだろう。現に今僕はそうしている。


 暇さえあれば恥ずかしげも無しにくっつける、奴らは特別な才能を持っているのだろうか? お譲り頂きたいね。


 つまり何が言いたいかと言うとクリスマスには外に出ない方がいい。次の日ののお昼に食べるカップ麺を買いに、コンビニに走ったのは大失敗だったようだ。その日の飯はその日に買えばいいのだ。


 僕は偏屈な人間だが、少し前までは幸せがあったそれもとっくに崩れてしまったけど。


 僕は、僕が恋した人にはもう会えない。話すこともその手に触れることも二度と叶わない。冬の日に出会った僕らは、その次の冬の日に分かたれたから。


 だから、幸せそうに街を歩く人々が憎たらしくて堪らないのだ。道を踏み間違えなければ、僕は今も君の隣に立てたのだろうか? そうだと思いたい。



 そうこうしている内にちょっとした高地にある公園に行き着く。腐りかけの木製のベンチがひっそりと佇む、君が教えてくれた場所。


 もし、君がそれでいいのなら、来世があってそこでまた会えるなら、あの時のように散歩をしよう。この公園で愚にもつかない話をするのも悪くない。そして遠い夜空を見よう。あの時はああだったなって笑い合いながら。


 肌寒い空気は、けれど僕の体を指すことは無い。ただ、言いようもない虚しさだけが僕の胸にはあった。この公園も、今となってはその心と同じに感じる。


 夜が深くなるにつれ、輝きを増す夜空を今年は一人で見る。どうやら思ったより空は低いらしいよ。





 公園の近くの古い木造建築が並ぶ住宅街に君の家はある。今日だけは、夢じゃない。このまま永遠にサンタが来なければ、僕たちは......


23:59


 君はまた、泣いている。僕を忘れて欲しいと思うし、覚えて欲しいとも思う。今更何を思っても無駄だけど。


 ただ、これだけを君に言いに来た。


「愛してる」


24:00




◼️◼️◼️

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聖なる夜に一人、歩く。 神崎郁 @ikuikuxy

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