第7話
「おい、待て!」
告げることを告げれば、後はお任せしますとばかりにあっさりとその場を退室した少年を追いかける。呼び止めれば、再びにこりと笑んだ顔がこちらを見据えてきた。
「ん、どうしたんだ。一応君の疑いはこれで晴れたわけだし、大手をふって戻れるんじゃないか?」
「元々探られるような痛い腹はない。それより、だ。」
こちらがどれだけ訝しみ、量る視線を向けようともその笑みは変わらない。だからこそ薄々抱いていた疑念に確信を抱く。
「いつからお前はこの事実に気がついていたんだ。」
中庭で出会った時から、
疑惑をかけられた時にも、当たり前のように解決を約束した。
協力を言い出した自分に向けた指示も、あまりに的確すぎた。
「うーん……最初から、かな。俺ってばカンが鋭いから。」
一回転をして笑う少年の言葉を、誰がまるきり信じてやるものか。
勘以上の確証をこの少年は持っていた。それが何なのか、心底気になる。暴き立ててやりたいとすら。
だから、続く問いかけも自然なものだった。
「おい、リュミエルといったな。お前はずっとここに仕えるつもりなのか?」
「ん?ううん、俺の家は代々魔法騎士として生業を立てているからね。学院を卒業したら任を解かれるだろうし、そうなったら騎士団に入ることになると思うよ。」
その言葉に若干の安堵を覚える。案外そのことを織り込んだうえで、あの主人もこいつを傍らに置いているのかもしれない。
あの水と油の相性では、主従関係を続ければ続けるほどに互いにフラストレーションがたまりそうだ。互いといっても、それは
「そうか、なら別に俺が貴様と親交を深めようと、卒業するころにはあの面倒な男は口出ししてこなくなるということだな。」
「……え?」
はじめてそこで、そいつの
なんだ、そんな顔も出来るのか。
溜飲をさげながら答えを待つ。あいにく返答は是以外に認めるつもりはないが。
「いや。止めた方がいいと思うぜ。うちの主様はこういっちゃなんだがねちっこいからな。
君が俺の友だちなんてものになったら、きっとまとめて妬まれる。」
妬まれるというその物言いは気になるが、けれども構うものか。小さく鼻を鳴らした。
「はん、知ったことか。妬まれようとどうだろうと、俺の知ったことじゃない。」
そんなもの丸ごと無視をしてやるさと言外に言うが、けれども少年の瞳は精彩を欠いたまま。
「…………後悔するよ。きっと」
それでいて何もかもを見透かしたような目で、そんな風に淋しそうに口元だけに浮かべるのだから。
ますますこの想いは強くなるのだ。
この大馬鹿者を放っておけるわけがない、と。
「はっ、あの母親のいう通りにワガママ伯爵殿と友情を温めるほうがよほど後悔するだろうさ。」
冗談めかして本音を告げてから、だらんと下がっていたその手を無理やり掴んで握りしめる。外の雪ですっかりと冷えてしまった手。
握手を交わすように形を整えて、未だ困惑しきっているその顔へと不敵な表情をむけてやった。
「自己紹介が遅れたな。メッド=アーノルドだ。以後、よろしく頼む。」
「……リュミエル=クアンタール。うん、よろしく。……後悔したら、ちゃんと言ってくれよ?」
「誰が後悔するか。」
そう吐き捨ててやれば、観念したように再びその瞳が緩まった。
翼蜥蜴と竜珠の謎 仏座ななくさ @Nanakusa_Hotoke
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