第4話

 食卓の上には、ローストビーフやペスカトーレのパスタを始め、サラダやスープなど色とりどりの料理が並んだ。陽平が予め下準備をし、和樹が盛りつけをしたものだ。そして食卓の中心には、件のケーキがドンと置かれている。 

 「俺の労働の成果だ。心して食えよ。買ったらクソ高いんだから……」

 「じゃぁ、トナカイさんに感謝しないとね」

 「だからその話題はもう出すなって」

 「えー、ノリノリで愛嬌振りまいてたじゃーん」

 「あれは仕事だからであって……」

 「あ、そうそう。カイロありがとね」

 「あぁ、あれな。お前鈍すぎんだよ」

 「ゴメンゴメン。いやでも、嬉しかったよ」

 素直に出られると、陽平も気恥ずかしさでどう返してよいか分からなくなる。

 「さ、ご飯にするぞ」

 「うん。食べよっか」

 「それじゃぁ、いただきます」

 「いただきます」

 陽平は真っ先にペスカトーレに手をつけた。作り慣れているだけあって、それなりに美味い。向かい側では、和樹は幸せそうにローストビーフを頬張っている。

 「んー、やっぱ陽平さんのローストビーフは美味いわ」

 「お前、毎年それで飽きないのか?」

 「陽平さんこそ、俺に毎年パスタリクエストするよね?」

 「じゃぁ、来年は何か別の物を頼もうかな」

 「うーん、俺もって言いたいところなんだけど、もうクリスマスは陽平さんのローストビーフ食べる、ってのが身体に染みついてるんだよなぁ」

 「ハハッ、それは少し分かるかもしれん」

 食事をあらかた終え、ケーキも残りわずかになった頃合いで、和樹はガサゴソと何かを出してきた。

 「ねぇ、陽平さん。これ、開けてみて」

 和樹に渡されたのは、小さな紙袋だった。中には化粧品のような小箱が入っている。

 「これは?」

 「ハンドクリーム、陽平さん、手ほったらかしにしてるからガサガサじゃん。ずっと気になってて」

 「あー」

 陽平が自分の手の甲を見る。確かに乾燥して所々小さなひび割れができている。

 「でも、俺……」

 せっかくプレゼントをもらったというのに、陽平はどこか浮かない顔だ。和樹がすぐに陽平が言おうとしたことを察する。

 「『料理で人の口に入る物触るから、手には何も塗ったりしない』って言いたいんでしょ?」

 「うん……」

 それは昔から陽平が決めていることだった。料理人の父もそうだったのだ。

 「これは、原材料がオリーブオイルとか、全部食べられる物で作ったクリームなの。これなら、陽平さんも使えるんじゃないかなぁ、って」

 陽平は言葉に詰まる。

 サプライズで何かを用意していたことだけでも驚いたのに、出来過ぎている。

 まんまと一本取られた気がする。

 「和樹……、ありがとね」

 「陽平さん、メリークリスマス!」

 割れるような、和樹の眩しい笑顔だった。

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『僕らの口福ごはん ―陽平と和樹のクリスマス―』 駿介 @syun-kazama

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