第42話義妹

 多くのオタクたちを発狂させたあの悪夢のような日から数日。残すところあと数十日で、なんと高校で二度目の夏休みだ。でも夏休みだからと言って何かあるのかと問われれば、何もない。


 いつも通りグータラしてゲームしてたら、なんか知らんうちに終わってる。それが、俺の夏休みなのだ。でももしかしたら今回は……。ちらっと真正面で漫画を読んでいる篠原を一瞥する。


 こいつと居れば、俺のつまらなかった夏休みも多少は面白くなるんじゃないかと期待してしまう。でも考えてみれば、俺はこいつの連絡先も家も知らないから、きっと一度も夏休みに会うことはないのだろうなと思い、もう少しで退屈な夏休みが始まってしまうことにちょっとばかし憂鬱になっていた。


 ここ最近の学校生活は、なんだかんだ楽しいのだ。クラスの奴らとさもそれっぽい青春談義を交わすよりも、多少女子から嫌われても篠原といる方が俺は楽しいと感じていた。


 そんな篠原は、読んでいた本をパタンと閉じると携帯をいじりながら俺につかぬことを質問してくる。


「そういえば、新藤くんの妹さんは今いくつなの?」


 突然の意味不明な質問に、俺は困惑する。だって色々おかしいもん。俺はこいつに妹がいるなんて一言も言ってないのに、なぜそんなことを聞いてくる。というかそもそも、何故妹がいる前提? 


「いくつも何も、存在すらしないからな……」


 俺がそう返すと、篠原はものすごく驚いた様子で携帯を落とす。


「えっと……。あぁ、大丈夫よ。血が繋がってなくても妹としてカウントしていいから」


「なんで義妹ぎまいはいると思ってんだよ。そんなの普通存在しないだろ。俺は一人っ子だ」


 はっきり妹も義妹もいないことを告げると、篠原は大層驚いた様子で。


「なん……ですって……」と、キャラに合わないような驚き方をする。


 そんなに驚くことか? 別に珍しくないだろ、一人っ子なんて。俺は愕然としている篠原に、何故驚いているのかを問う。


「別におかしくねーだろ。だいたい、なんで俺に妹がいると思ってたんだよ?」


「いや、普通ラブコメの主人公なら妹、もしくは血の繋がりのない義妹いもうとの一人や二人いるわよね」


 なにその持論……。ものすごい決めつけに俺は驚いているが、そんな俺のことなど気にもせず、篠原は呆れた様子で大きくため息を吐くと。


「やめたら、主人公」


 軽蔑したような眼差しを向けてくる。どうして妹がいないだけでこんなにも言われなくちゃいけないんだ。


「なんだよ主人公やめるって。そもそも、ラブコメの主人公の妹ってなんか好きじゃないんだよ。あいつらってなんか知らんけど、やたらヒロインと主人公をくっつけようと躍起になってるじゃん? あれが意味わかんないんだよ。多分現実だったら、兄貴の恋愛事情なんて妹にとってはどーでもいいだろうに」


 俺が反論すると、篠原はやれやれとでも言いたげに首を横にふると。


「あなた、現実とフィクションの区別もつかないの? この前のキモオタと変わらないわよ」


 全く論点が違うところでディスってきた。ほんとムカつくなこいつ。現実とフィクションの区別が付いてないのはお前だろ! と言い返したいが、俺は言わない。何故なら大人だからな。


 俺は澄まし顔で「それは悪うござんした」と適当に返して、部室にある漫画を手に取り読み始める。

 そんな俺の態度に少しばかり腹を立てたのか、篠原は続けてラブコメ談義に見せかけた俺への誹謗中傷をしてくる。

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友人の恋愛相談に乗っていたら、何故だか恋愛部なる謎の部活に参加してしまった件〜超絶美少女と2人で他人の恋を叶えます〜 ラリックマ @nabemu

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