第37話痛い子

 篠原はAブロック。俺たちはBブロックとなり、試合は幕を開けた。誰とどう当たるかと言うと、先ほど係員さんから各々番号札をもらったので、その番号を適当に係員さんが呼び、呼ばれた人たちが前に出て戦うシステムだ。


 俺は九十九番で、オタクくんは十三番。篠原の番号は知らない。別にブロックが違うのだから、知る必要もない。


「さぁ! それでは間も無く第一回戦が始まります。みなさん、気合い入れて臨んでいきましょう!」


 お姉さんの呼び声に、オタクたちは大きな声で歓声の声を上げる。皆、気合い十分と言うことだ。俺はあまりこの高いテンションにはついていけず、一人だけ気取った空気の読めないやつみたいな感じになり、ちょっとだけ浮いていた。そんな中、男性係員さんがマイクでBブロックの番号を読みあげる。


「十二番と四十五番。十三番と二十八番。三十三番と八十二番の方、前に来てください。時間内に来れない場合は不戦敗となりますのでご注意ください」


 早速オタクくんの番号が呼ばれ、俺の隣で鼻息を荒くする。


「それでは新藤殿。行ってくるでござる」


「お、おう……。頑張れ」


 オタクくんは力強く握りこぶしを作り上げ、ガッと天高く己の右腕を上げる。痛い。本当に、あれの知り合いだと思われたくない。でも今の状況において、彼はあまり浮いていない。むしろものすごく溶け込んでいる。周囲の環境ってすごい!


 っと、もう始まったか。前にはテーブルが三台あり、それを挟むように番号を呼ばれた人たちが相対する。


「それじゃあ私の掛け声に従ってアクションを起こしてください! じゃあ早速いきますよー!」


 お姉さんが大きな声でテンション高く、じゃんけんの始まる前のセリフを吐く。


「最初はグー! じゃんけんポーン!」


 お姉さんの掛け声とともに、オタクくんはグーを、相手側はパーを出した。刹那、オタクくんは地面にうつ伏せになり、大声で。


「み、ミスったでござるぅぅぅぅうううう!」


 大きな声で、そんなことを口にした。じゃんけんで失敗すると言うのは意味がわからないが、オタクくんのその奇行に、他のオタクたちは引いていた。同族にすら気持ち悪いと思われるオタクくんは、素直にすごいと思う。もしかしたらあの篠原よりも、痛いかもしれない。


 いや、流石にそれはないか。オタクくんは多分、自分が多少痛い、つまりは変わっている人間だと自覚しているはずだ。でも篠原は、本気で気がついていないだろうから。もしあいつに「お前は痛い人間だ」なんて言ったらきっと「あなたの方が十分痛いわよ」とかなんとか言って、認めないだろう。


 まあそんなわけで、このじゃんけん大会はオタクくんが一回生敗退と言うかなり最悪な形で幕を開けた。

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