第33話FF外から失礼します

 あの事件からそれなりに時間が経ち、今日も今日とて俺は部室でだらだらとゲームに勤しむ。篠原の方も、なんだか珍しく携帯をポチポチといじっており、珍しいなと思いちょっとだけ気になり声を掛ける。


「お前、何してんの?」


 雑談の種にでもなればと適当に質問をすると、篠原は携帯の画面を見たまま答えてくる。


「どこからどう見ても携帯を触っているでしょ。あなたのその目は飾り? もしかして義眼?」


 こいつは俺のことをいちいち貶さないと会話ができないのかと思いながら、もう慣れたものだと割り切り言い返す。


「そんな厨二病が喜びそうな設定はねぇよ。携帯で何してんのかって質問だろ。察しろ」


「あぁ、そういうこと。なら、これを見てちょうだい」


 篠原は携帯を真ん中に置いてある机の上に置き、画面を見せてくる。画面に映っていたのは、某有名SNSのホーム画面だった。


「えっと、意外とこういうのやるんだな、篠原って……」


 なんだか篠原がSNSとかをやるイメージがない俺は、素直に驚く。だってこいつ、リアルはもちろん、ネットでも友達とか作らなさそうじゃん。作らないっつーか、作れないでしょ。


 意外そうな眼差しを篠原の携帯画面に向けていると、彼女は携帯を手元に戻して。


「これは私がやっているわけじゃないわよ。名前のとこ、よく見て見なさい」


 俺の眼前に画面を持ってくる。


「えーと、北条ほくじょう高校恋愛部活動アカウント?」


 名前を読み上げると、篠原は誇らしげに説明し始める。


「昨今、ものすごくSNSが流行しているでしょ」


「まあな」


「だから私たちもそれに乗っかろうと思ってね。ほら、直接じゃここに来づらくても、ネットなら相談しやすいって人もいるじゃない」


 なるほど。篠原なりに、色々と相談者を増やすために考えていたんだな。それでSNSってのはどうなのかと思わなくはないが……。まあいいか。実際問題、恋愛部なんて意味不明な部活に直接来づらいのはなんとなくわかる。俺だって来たくない。 

 でもネットでなら相談してみようと思う生徒がいるかもしれない。


「それじゃあ早速呟いてみようと思うのだけど。新藤くん、どうすればいいと思う?」


「どうするって言われてもなぁ。とりあえず、活動内容とか書いとけば?」


「そうね、なら『こんにちは、北上高校恋愛部の活動アカウントです。北上高校に在籍中の恋の悩みを抱えている方たち。もし宜しければその悩み、この恋愛部が解決します。メッセージ待ってます』

 こんなところでどうかしら?」


「いんじゃね」


 口に出しながらちょっとお堅い文章を書き上げた篠原は、早速文章をツイートした。そして数分後、ピコッと一通のリプライが飛んできたので、俺と篠原は急いで確認する。


「何だって?」


 急かすようにして聞くと、篠原はゆっくり画面をスワイプする。


「待ちなさい、いま読み上げるから。えーと、『FF外から失礼します。恋愛部ってなんですか? 意味がわからないです。目的も動機も不明な気味の悪いところに相談する生徒なんて、一人もいないと思うのですがそれは』」


 読み上げた篠原は、顔を引きつらせて露骨にイラついていた。


「えっと、何なのこれ? 何この『FF外から失礼します』って。失礼だと思うなら、失礼してこないで欲しいのだけど」


「いや、俺に言われても……」


「これ、なんて返した方がいいと思う?」


「なんてって言われてもなぁ。そんなムカつくらな、暴言とかで返せば?」


 俺が適当にアドバイスすると、篠原はふふふっと全ての怒りをぶつけるように力強く画面をタップする。


「そうね。じゃあ『死ね』っと! 送信」


 めちゃくちゃ直球の悪口を返信した篠原。そんな、小学生が喧嘩の時に乱用しそうな暴言を送った篠原は、多少溜飲が下がったのかどこかすっきりとした面持ちになる。


 だがその数分後、画面に映った『アカウントは凍結しました』の文字を見て、携帯に拳を振り上げた。

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