第22話絶望

 ふふ、まさかこの僕をここまで楽しませてくれる人がいたなんてね。再度配られたカードを見て、ワクワクした気持ちを笑顔で抑える。

 次は5のワンペア。他は捨ててもいいかな。


「それじゃあ3枚捨てるね」


 僕は3枚のカードを差し出し、先ほどと同じようにカードを3枚貰う。ん〜特に何もないか。流石に5のワンペアだけだったらフォールド降りた方がいいかな。一応様子を見てみるかな。


 篠原さんの顔をジッと見ていると、彼女は無言でディーラーの男の子にカードを2枚渡す。ん〜やっぱり表情は変わらないね。彼女はどう出るんだ?


「さぁ篠原さん。どうする? ベッドする?」


「そうね。それじゃあ1枚だけ」


 カチッと1枚、コインを机に置く。なんだ? 先ほどとは打って変わって、やけに弱気じゃないか。もしかして弱いのか? いや、そう思わせて、僕に多額のレイズをさせるつもりなんじゃ? 嫌でももしかしたら、それすら読んで僕が降りるのを待っているんじゃ?


 ダメだ、彼女の考えが全然読めない。勝負事っていうのは始まる前から勝敗が決まっているものなんだ。もしかしたら僕は、もうすでに彼女の掌の上で転がされているのか?


 全ては彼女の手の内なのか!? はぁはぁと呼吸が荒くなる。ダメだ。こんなに呼吸が荒くなったら、焦っていることが筒抜けになる。冷静を装わなくちゃ……。

 僕はキッと篠原さんの手札を睨みつけると。


「それじゃあ僕はレイズするよ。追加で3枚」


 強気に出る。そうだ、勝負っていうのは気持ちで負けちゃダメなんだ。ここで勝負に出なきゃ、僕は一生この人に勝てない!


「さぁどうする篠原さん!? 追加で勝負するの? それとも降りるの?」


 気迫迫る物言いをしてみるが、篠原さんは取り乱すことなく、それどころか先ほどと同様に。


「それじゃあレイズするわ。追加で4枚」


 強気のベッドを返してきた。4枚なんて、この勝負に乗ったら僕は負ける。やられた……。最初っから僕は踊らされてたんだ。敢えて低額ベッドをすることで、僕に多額のベッドを強いてきていたんだ……。きっと篠原さんの手札は、かなり強いはず。 

 この手札じゃ勝ち目はない……。


「フォールドするよ……」


 僕はパサァと手札を見せると、篠原さんは嬉しそうに。


「あらそう? それはどうも」と言い、ブタの手札を見せてきた。


 な、なんだって ––––––––––––––!!!??? なんでブタなんかであんな強気に……。もうダメだ。完全に遊ばれてる。どうしようおじいちゃん。僕にはこの、目の前に立ちはだかる高い壁を越えることはできそうにないよ。

 もう、諦めるしか……。絶望に打ちひしがれていると、篠原さんはさらに絶望へ誘う言葉を言ってくる。


「ちなみにだけど、私はまだ実力の30パーセントしか出していないわ」


 じ、実力の30パーセントだって!? ポーカーで30パーセントの実力しか出していないって、一体どういうことなんだ? 意味がわからないが、もう僕に勝ち目はないということだけは理解した。

 ダメだ。僕なんかが挑んで良い相手じゃなかったんだ……。ゲーム歴17年。まさかここまでの強敵に出くわすなんて……。

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