第25話 血迷ってしまう二人

 第二ラウンド開始から数分後が経過した頃。

 寺山さんの部屋の中は、異様な空間感に包まれていた。


 まずは視線に慣れようということになり、目と目を五分間合わせ続けようというトレーニングを開始。

 俺は寺山さんと目を合わせて見つめ合っているのだが……。


 なにこれ……寺山さんの表情、めっちゃ可愛いんですけど⁉

 透き通るような肌、つぶらな瞳、綺麗な鼻筋、ぷるんとした唇。

 全てが清らかで美しいにもかかわらず、不安げにこちらを見つめてくる寺山さん。

 頬を染めて見つめて来る様は、まるで恋する乙女のようで……。

 そのギャップに、俺はズキュンっと胸に矢が突き刺さってしまう。



 ヤバイ、心臓がめっちゃバクバクしてるのが自分でもすげぇ分かる。

 これはもう、好きになっちゃっうのは仕方ないよね⁉

 だって、そんな儚げな顔で見つめられるんだもん……。

 あぁ、なんだこのキュンと胸が締め付けられる感覚は⁉

 頭がくらくらしてきちゃうよ……。


 羨望の眼差しを向ける俺、ウルっとした瞳を向けてくる寺山さん。

 俺と寺山さんをもう邪魔するものはいない。

 二人はこのまま、永遠の愛を誓いあって――


「ストォーーーーーーップ!!!!!」


 と、甘い雰囲気をぶち壊すように、鋭い声が部屋内に響き渡った。

 俺と寺山さんはお互いに視線を逸らして、それぞれ詰まっていた息を整える。


「あぁもう! アンタたちは付き合いたてのカップルか! 見てるこっちが恥ずかしいわ!」


 学習机に座って二人の様子を眺めていた上白根が、憤慨した声で指摘してくる。


「仕方ないだろ。こ、これも訓練なんだから」


 俺がそう言うと、上白根は眉根を吊り上げたかと思うと、突如その場でベストへ手をやり――


「二人の世界に入っちゃってさ! 私も混ぜろ!!!」

「なっ⁉」


 上白根は何を血迷ったのか、そのままシャツをファサっと脱ぎ始めるという奇行に走り出したのだ。


「何してんだよお前は⁉」


 俺は咄嗟に手で自身の顔を隠した。


「だって、ミスコンは水着審査もあるわけだし、もっと露出が高い状態で視線感じなきゃダメでしょ? ボージングだってとる必要があるんだし」

「だからって、今脱ぐ必要ないだろうが!」

「いいからこっち見ろし……」


 少し、拗ねたような口調で言ってくる上白根。

 ちょっとだけ、可愛いと思っちゃったじゃねーか……。


「み、見てもキレるなよ? 俺は許可取ったからな?」

「わ、分かってるわよ……早く」


 俺はゴクリと生唾を飲み込み、意を決して指と指と間から上白根を覗き込む。

 上白根は、恥じらうように手で胸元と下腹部を隠しながら、足を内股にして縮こまっていた。

 それが余計に男の欲を陽動して、俺の胸の奥底からブワっと熱い何かがたぎってくる。

 好きな人の部屋で、中学からの友人の下着姿を見るという羞恥プレイ。

 何だこれ?


 もちろん、恥ずかしさもあるけれど、何より中学の頃から悪友としてつるんできた上白根も、脱ぐとれっきとした女の子であるということを再認識させてしまうのが、何より屈辱的だった。


「ど、どう……?」


 頬を真っ赤に染めつつ、涙目になって尋ねてくる上白根。


「ど、どうと言われましても……」


 何と答えたらいいか分からず、俺は反応に困ってしまう。

 寺山さんより小柄で華奢な身体つき。

 鎖骨から下は、なだらかな平原が広がっており、そこから腰回りに掛けて、なだらかな曲線美が綺麗である。

 その下には、グリーンの下着から伸びる太もも。

 細くもなくムチっとした弾力さもあり、とても扇情的だ。


「な、なんか言いなさいよ」

「えっと……お前、腰回りに下着の後ついてるんだな」


 俺はてんぱった結果、とんでもないことを口走ってしまった。


「なっ⁉ ど、どこ観てるんだし⁉ そういう所は言わなくていいの! だからアンタはデリカシーがないのよ!」


 当然のように、上白根からは非難の罵声が浴びせられる。


「和泉もそう思うでしょ⁉ コイツはやっぱ……って、和泉!?」


 すると、上白根がぎょっと目を見開き、唖然とした表情を浮かべた。

 俺は思わず、首を後ろへ向けると――


「なっ⁉」


 あんぐりと口を開けて、言葉を失ってしまう。

 なぜなら、眼前に広がるブルーの下着に身を包んだ、寺山さんの姿がそこにはあったのだから。


「うぅ……やっぱり恥ずかしいよ」


 先ほどよりも顔を真っ赤に染め、必死に身体を隠そうと手で抑えるものの、その隠し切れないボリューミーな胸元と、プリっとしたお尻は、見るものを一瞬にして魅了するほどの爆発力を持っていた。

 肉付きも抜群で、男の本能をそそられてる。


 パーフェクトボディーとは、まさにこのことを言うのだろう。

 上白根よりも、何倍もの色気がムンムンと漂っており、俺は目が離せなくなってしまい、ただただ凝視することしか出来ない。

 俺は、脳裏に焼き付けるように、寺山さんの身体全体像をインプット。


「み、見るなぁぁぁぁぁ!!!!」


 刹那、上白根の手が俺の視界を塞いできた。


「な、何すんだよ急に⁉」

「何見惚れてんのよエッチ、スケベ、変態!」

「し、仕方ないだろ! 不可抗力だっての!」


 結局、この日はこれにて特訓は終了。

 一旦落ち付いたところで、これからの方向性を話し合い、上白根がとっておきの策があると断言したので、次回の日程を取り決め、お開きとなった。


 にしても、寺山さんの下着姿を拝むことが出来るとは……。

 俺の脳内に完全にインプットされた寺山さんの下着姿は、一生忘れることのない宝物である。

 こうして、てんやわんやでハチャメチャな特訓一日目が終わりを告げるのであった。

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