第24話 二人の間に現れた邪魔者?

「こっち」


 学校の校門を出て十分ほど歩くと、閑静な住宅街が立ち並ぶエリアへと出た。

 こちら側はあまり来たことが無かったので、目新しい景色が広がっていてとても新鮮だ。


「あっ、いたいた」


 すると、寺山さんが何かに気づいた様子で手を振っている。

 寺山さんの視線を追うと、そこにいたのは――


「やっほー和泉! って、なんでどうしてアンタがここにいるのよ新治」

「上白根こそ、どうしてこんなところにいるんだよ⁉」


 なんとそこにいたのは、クラスメイトの上白根光莉かみしらねひかりだった。


「さぁ、何ででしょう?」


 人差し指を唇に押し当て、秘密めかしたようなウインクをしてくる上白根。

 クソ……寺山さんと二人きりだと思ったのに……!


「ごめんね新治君。光莉ちゃん、言うこと聞かなくて」

「いや、気にしないで寺山さん。こいつは元からそういう奴だから」


 ッチ、せっかく寺山さんと部屋で二人っきりという、この上ないチャンスが巡ってくるはずだったのに、上白根の奴、動物的勘が鋭い野郎だぜ。


「ここ、私の家だから、どうぞ上がって」


 寺山さんが示す先には、目の前には庭にお花が咲き誇っているおしゃれな一軒家があった。


「ここが……寺山さんの家……」


 あまりの荘厳さに、ごくりと生唾を飲み込んでしまう。


「何変なこと考えてるのよ?」


 バシッ!


「痛ったぁ⁉」


 上白根から脳天チョップを食らい、俺は慌てて出血していないか頭を触って確認する。

 うん、流石に血は出てなかった。

 上白根の手套は、ノコギリ並みの威力あるからワンチャン頭が割れる。


「和泉の家に入れるからって、浮足立つんじゃないわよ」

「い、言われなくてもわかってるわ!」


 上白根の後を追うようにして、俺は寺山さんの家へとお邪魔した。

 案内されたのは、寺山さんの部屋。

 黄緑を基調にした部屋のレイアウトは、どこか自然豊かな雰囲気で、今にも新緑の香りが漂ってきそうだ。

 もっと寺山さんの匂いがするかと思ったけど、ルームフレグランスの爽やかな香りしかしない。(少し残念)

 それにしても、まさか寺山さんの部屋に入る時が来るとは……人生何があるか分からないものだな。


「お待たせー」


 お盆に紅茶を乗せて持ってきた寺山さんは、ベッドの前に用意したローテーブルにおいて、それぞれに配ってくれる。

 一口紅茶を頂くと、すぅーっと紅茶の爽やかさが喉から鼻にかけて通り抜け、とてもリラックスできた。


「というわけで、今日からミスコンに向けて、寺山さん視線克服大作戦を開催します」

「おー!」

「おっ、おぉ……」


 頃合いを見計らって、俺が宣言をすると、寺山さんの困惑声と共に、上白根の威勢の良い声が聞こえてくる。


「んで、どうしてお前がここにいるんだ上白根」


 当たり前のように上白根がいるけど、俺はお前を読んだ覚えはないぞ?

 俺が恨みがましい目を向けると、上白根はムンっとない胸を張りながら、ドヤ顔を浮かべる。


「決まってるでしょ。和泉をあんたから守るためよ。私が知らぬ間に、部屋に連れ込む約束まで取り付けて、隅に置けない奴め!」


 まるで俺が、巨悪の根源みたいな感じで指さしてくる上白根。

 一方の寺山さんは、申し訳なさそうに手を合わせて謝ってくる。


「ごめんね、光莉に勘づかれちゃったみたいで」

「いや、しょうがないよ。こういう時の上白根の第六感だけは異常に働くから」


 上白根とは中学からの付き合いだ。

 彼女の神秘的なまでの勘の良さには、何度も驚かされてきたからな。


「私の目が黒いうちは、和泉に変なことはさせないんだからね!」

「いや、別に変なことをするつもりなんてなかったぞ」

「どうだか……?」


 上白根は、疑わし気な視線を送ってくる。

 本当だよ?

 俺はただ、寺山さんに頼み込まれただけで、やましいことなど何一つ企んでない。

 まあ、普段から女子のおっぱい(特に寺山さん)をガン見して、鼻の下伸ばしてる奴のことなんて、信頼できるはずがないから仕方ないけどさ。


 ここは切り替えて、本題へ移ってしまった方がよさそうだ。


「というわけで、今日は寺山さんの弱点である、人にマジマジとみられるのが恥ずかしいというのを、克服していこうと思います」

「よ、よろしくお願いします」


 律儀にペコペコと頭を下げる寺山さん。


「それじゃあまずは、せっかく上白根もいることだし、上白根にも手伝ってもらうことにしようか」

「……いったい何をさせようとしてるの?」

「別に変なことをさせるつもりはないよ。ただ、ちょっと試しておきたいことがあって」


 俺がまず指示したのは、寺山さんを部屋の中央に立たせて、間近で上白根が寺山さんをじっくり観察するという実験。


「うわぁ……改めて見ると、和泉の身体ってやっぱエロいよね」

「ひ、光莉ちゃん⁉ 急に変なこと言わないでよ」

「よいではないか、よいではないかー」


 手をワキワキとさせて、変態おじさんみたいな声を上げる上白根。


「も、もう光莉。やめてってば!」


 身体をモジモジとさせて、上白根おじたんから自身の身を守ろうとする寺山さん。

 俺は、暴走し始めた上白根の頭をハリセンでバシッと叩いた。


「痛ったぁ⁉ ちょ、何すんだし⁉」

「それはこっちのセリフだ。寺山さんを困らせてどうするんだよ」

「だって、もしかしたらこうやって吟味してくる審査員もいるかもしれないでしょ?」

「んな審査員いてたまるか!」


 普通にセクハラで訴えられるわ!


「まあでも、大体のことは分かった。次は、俺が寺山さんのことを見るから、上白根交代な」

「それ、あんたがただ和泉の身体視感したいだけじゃ?」


 訝しむように、ジト目を向けてくる上白根。


「俺が鼻の下伸ばしたら、これで叩いていいから」


 やましいことはしないという証しとして、俺は上白根にハリセンを手渡した。


「ふぅーん。そこまで言うなら、見ててあげるわよ」


 俺は上白根と位置を交代して、寺山さんの元へと向かう。


「それじゃあ今度は、俺がじっくり観察するから、寺山さんは恥じらわないようにしてみて」

「う、うん……わかった」


 というわけで早速、寺山さんの身体を舐め回すように観察する。


 スリムながらも、高身長でスポーディーな身体つき。

 長い脚はスラリと伸びていて、スカートから微かに窺うことが出来る太ももは、スリムでしなやかだ。

 くいっとお尻から腰にかけての曲線美が美しく、その上に覗く桃源郷は、まさにドンっといった感じ。

 制服越しでも分かる寺山さんの胸元は、まさにパーフェクトと呼べる逸材である。

 柔らかそうな弾力さも兼ね備えながら、若さゆえの張りがあり、鍛え上げられた身体も相まって、まさにその二つのふくらみは、たわわに実った果実。


 やはり、寺山さんのおっぱいは世界に誇るおっぱいだ!


 寺山さんの顔色を窺えば、恥ずかしそうに身を捩り、羞恥の表情を浮かべている。

 あぁ……特訓とはいえ、こうして寺山さんの胸を合法的に見ることが出来るなんて……最高の気分だ。


 それにしても、本当に寺山さんのおっぱいはすっげぇな。

 何時間でも観ていられる。


 このおっぱいをいずれ俺のモノにして……揉みしだきたいなぁー!


「ふひっ……」


 つい妄想が膨らんでしまい、気持ち悪い声が零れてしまう。

 刹那、俺の脳天に、強烈な衝撃と痛みが迸る。


「鼻の下伸ばしてんじゃねぇこの変態がぁー!」

「痛ってぇー⁉⁉」


 上白根渾身の張り手が決まり、俺は正気に戻って頭を押さえた。


「ったくもう! これだから新治は……。和泉、大丈夫?」

「う、うん。私は見られてただけだし問題ないけど……新治君、大丈夫?」

「へ、平気だよ寺山さん」


 俺は痛みを堪えつつ、親指を立ててグッドサインを見せる。

 いやぁー……上白根にブッ叩かれて、脳細胞が千個ぐらい死んだような気がするけど、その対価としては大きすぎる経験が出来た。

 俺は立ち上がり、わざとらしく咳き込んでから見解を述べる。


「恐らくだけど、寺山さんは男子の視線に敏感なんだ。上白根に見られていた時は何にも感じなかったけど、俺が見つめたらものすごく困った反応をしていた」

「そりゃアンタがエロい目で見るからでしょうが」


 上白根から、冷たい視線が送られる。

 しかし、その言葉を遮ったのは、寺山さんだった。


「光莉ちゃん、新治君を責めないであげて。私が新治君に今回依頼したのは、そういう視線も含めて克服したいからだもの」

「で、でも! 流石に新治のデュフはないでしょデュフは」


 おいこら、そこまで気持ち悪い声は出してないわ。(出してたけど)


「でもね光莉ちゃん。ミスコンに参加する以上、ステージの上では見知らぬ人たちにそういう目で見られるわけで、新治君一人の視線で恥じらってる程度じゃダメだと思うの」

「そ、それはそうかもしれないけど……」


 上白根は、納得がいかないのか、何か言いたげな様子。

 それよりも、俺が何より今の会話で驚いたのは――


「寺山さん、ミスコンに対する意気込みが凄いね」

「へっ⁉ そ、そうかな……」

「だって、それを克服してまで出場したいという心意気。そして何より、自分の欠点を客観的に見て改善しようとするその努力! 素晴らしいよ」

「えへへっ、ありがとう新治君。そこまで褒められることでもないけど、せっかくの機会だし、やるからにはちゃんとしたいから……」

「分かったよ。そこまで言うなら、俺が今日は徹底的に寺山さんが男子からの視線に慣れることが出来るよう、徹底的に舐めまわすように見てあげる」

「よ、よろしくお願いします!」


 深々と頭を下げる寺山さん。

 俺と彼女の間には、何やら謎の主従関係みたいなものが生まれ始めようとしていた。


「それじゃあ、第二ラウンド行くよ? 覚悟はいいね?」

「は、はい! 頑張ります」

「はぁっ……どうしてこうなるのよ」


 こめかみを押さえて呆れ顔の上白根を蚊帳の外にしたまま、俺と寺山さんは特訓を再開するのであった。

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