第41話 こんなにも甘くて幸せな地獄へようこそ

 ロリとはなんぞや。

 それはこの世界に生きる変態紳士達にとって、永遠のテーマであるだろう。


 1000歳でも、外見年齢が幼女ならロリ(ババア)になる。

 じゃあ実年齢が10歳で、外見年齢が20代の大人びた少女はどうなる?

 中学生までは許せる。中学生はババアなンだよ。

 高校生だって十分にロリコンの範囲だ。


 それらの主張は結局、人によって変わるものなので。

 ここで俺が何を言おうとも、明確な答えが出る事は無いだろう。


「それで、だ」


 ただ今回の場合、問題となるのは。

 俺の新たなスキル『強制ロリ化スキル』によって、ロリ化させられた女性はどのレベルのロリになってしまうのか……という事だ。


「うっ、うぅぅぅ?」


 俺に頭を触られて、スキルを受けたメルディ。

 彼女の体は淡い光を放ちながら、みるみるその体を縮めていく。

 快活な雰囲気はそのままに、スラッとしなやかな体が……少女特有のわずかにふっくらとして丸みを帯びた体付きに変わる。

 単純な外見年齢で言えば、ピィ達と同じ……中学生くらい。


「どうやら、俺のロリ性癖はこの辺りにようだな」


「将来、成長したい私として複雑な感じです」


『アタシ達の事が大好きだから、好みがそのくらいになるんでしょ』


「いやまぁ、それはそうかも」


 結局のところ、ロリコンだ何だと言ってはいるが。

 俺達変態紳士の訴えは唯一つ。

 ただ、ロリに恋をした……それだけの話である。


「あ、あの……? お兄さん?」


「ん? ああ、メルディ。久しぶりだな」


 ピィ達と話していると、ロリ化したメルディが戸惑いがちに声を掛けてきた。

 魔女化の影響で変化した紫の髪と褐色は戻っていないので、パッと見は魔女のままであるが……その仕草や振る舞いで、完全に彼女本人だと分かる。


「ボ、ボクにゃんは魔女に体を奪われたっすよね? それなのに、どうして?」


「ああ。俺に追い詰められた魔女の奴が、一時的にお前に体を返したんだ。トドメを刺すのを躊躇させようとしてさ」


「そうでしたか……それなら、遠慮は要らないっすよ。今すぐ、ボクにゃんを殺してくださいっす」


 悟った表情のメルディが両手を広げて、ルディスの刃を受け入れようとしている。

 しかし俺はそんな彼女を、真正面から抱きしめた。


「ふぇ……?」


「眼の前で両手を広げるロリがいたら、優しく抱きしめるのが常識だろ」


「おまわりさん、このマスターです」


「良かったわね、ここが異世界で」


 俺がメルディを抱きしめるのが面白くないのか、冷やかしを挟む2人。

 全く、ここからがいいところなのに。


「だ、駄目っすよ……お兄さん。ボクにゃんが生きていたら、魔女が……」


「ああ、それならもう心配無い」


「え?」


「多分、もう魔女はもう出てこられないからさ」


「どうして、そう言い切れるんすか?」


「ロリ化だよ」


 そう言われて、メルディはハッとしたように自分の体を見る。

 小さくなった胸。縮んだ身長。

 ここでようやく、自分が若返った事に気付いたようだ。


「これじゃあカルチュア並のおっぱいっす……」


「それはまぁ置いておくとして。右手を見てみなよ」


「右手……ああっ!?」


 メルディの右手の甲には、魔女の依代に得らればれた証……紋章が刻まれていた。

 しかし今はそんなものは消えて、すべすべもちもち肌の綺麗な手である。


「ロリ化によって、お前の肉体は【魔女の紋章】を刻まれる前の状態に戻ったわけさ」


「そんな事が……?」


「とは言っても、巻き戻るのは肉体だけです。だから一度、精神を魔女からメルディさんに戻させる必要があったんですね……」


「ピィの言う通りだ。まぁ、あの魔女は追い詰められたら、メルディを盾にする事は分かりきっていたから楽勝だったけど」


 それでああして、すぐにトドメを刺さずに勿体ぶったわけだ。


「で、でも!! ボクにゃんには分かるっす! 魔女はまだ、ボクにゃんの体の中に……」


「まぁ、髪色や肌の色が戻っていないところを見ると。そうなんだろうな」


 俺はしゃがんで、メルディと視線を合わせる。

 急に顔を近付けられたメルディは、カァッと頬を紅くして目を背けていた。


「メルディ」


「は、はいっ!」


「お前を救う為とはいえ、俺は許可なくお前の体をロリ化させてしまった。その責任を取らせてくれないか?」


「責任って……」


「俺のモノになってくれないか?」


「うにゃっ!?」


 頭の両耳、尻尾がピィーンッを伸ばして目を見開くメルディ。


「も、ももももものって!?」


「何も、ピィやルディスのように俺に家族なれってわけじゃない。仲間みたいなもんだと思ってくれれば良い」


「仲間……」


「お前がもう一度成長するまで、俺が必ず守る。成長してお前にもう一度紋章が浮かび上がったその時は……また若返らせる。そして時間を稼いでいる間に、魔女の呪いを完全に消し去る方法を見つけ出す」


 だから、俺のモノになってくれ。

 俺が再び、そう伝えると……メルディは俯く。


「それは……いやっす」


「!!」


 ボソリと呟かれた一言に、俺は衝撃を受ける。

 そりゃあ、やっぱり……俺なんかを信用できるわけが……


「仲間じゃ……嫌っすよ」


「え?」


「ボクにゃんだけ仲間だなんて嫌っすよ。ボクにゃんだって、お兄さんの家族になりたいっす」


 そう言いながら、メルディは俺に抱きついてくる。

 俺も、そんな彼女を強く抱きしめ返す。


「ああ。でも、今すぐあの2人に並ぶってのは……無理だぞ」


「ふふっ、正直に言ってくれるのは好感が持てるっすね。でも、すぐに追いついて……いや、追い抜かしてみせるっす」


 ちゅっと、俺の頬にキスをしてくるメルディ。

 背後から刺すような視線と、嫉妬の炎を感じるが……今回ばかりは仕方ない。


「にゃは~っ♡ お兄さん♡」


 まるで猫が甘える時のように、メルディが俺の頬にスリスリ。

 まったく、ケモロリっ娘は最高だぜ……!


「ありがとうな、メルディ。そしてお前が俺のモノになった事で、あのクソ魔女にも十二分にお仕置きが出来るってもんだ」


「お仕置き? マスター、それはどういう意味ですか?」


 俺の言葉の真意が分からず、首を傾げるピィ。

 メルディもルディスも、ピンと来ていないようだ。


「さっき、メルディが言ってただろ? 魔女は今も体の中にいるってさ。という事はつまり、俺達がこうして抱き合っているのも、特等席で見物中って事だ」


「「「あっ」」」


「体の主導権を奪い返せないどころか、大嫌いな人間……それも、自分の野望を打ち砕いた憎い男の腕に抱きしめられる感覚。どんな想いなんだろうな?」


「……んにゃっ? なんだか今、魔女の気配がざわついた感じがしたっす」


 ほう、半分でまかせで言ってみたけど。

 まさか本当に効果があるなんてな。


「メルディ……よしよし」


「にゃぁ~~~~っ♡」


 俺が頭を撫でられて、幸せそうに目を細めるメルディ。


「んんんんんっ!? またゾワゾワしたっす!!」


「はははっ、なんだか変な感じだな。今頃、魔女はどんな事を考えているんだろうな」


 この時、俺は気付いていなかった。

 というよりも、知らなかったという方が正しいだろう。

 俺の能力でメルディがロリ化するのと同時に、魔女も一緒にロリ化している事を。

 そして、俺の持つ『理解らせ』スキルはすでに、魔女への攻撃を開始しているという衝撃の事実を――



【メルディの心の奥底】


 

「くそぉっ! くそくそくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 陽の光さえ差し込む事のない深層意識……さらにその最深部。

 心の檻の中に幽閉状態。

 両手両足を鎖で拘束されている吸精の魔女が、悔しげな雄叫びを上げる。


「ふざけるなっ!! ふざけるなぁぁぁぁっ! この妾を、このような姿に!!」


 彼女の持つ仮初の体は依代に依存するらしく、すっかりロリ化した魔女はガシャンガシャンと鎖を壊そうと暴れていた。

 しかし、どれだけ抵抗しようとも……体は自由にならない。


「おのれぇ、いつか必ず……!!」


 復讐を誓い、憎悪を掻き立てる魔女。

 しかし、そんな彼女に変化が訪れる。


「んぁっ!?」


 ぴくん。


「なんだ……? 今の、感覚は……」


 ぎゅっ。


「ほぇぁっ!?」


 ビリビリビリビリ。

 脳に直接、電極を差し込まれたような衝撃。

 しかしそれは痛みや苦痛ではなく、どちらかといえば……心地よい。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 呼吸を乱れさせ、現状を把握しようとする魔女。

 そんな彼女の前に、ブゥンッと映像が浮かび上がってくる。


「こ、れは……?」


 その映像に映し出されていたのは、憎んでも憎みきれないあの男。

 流斗が優しい微笑みのまま、依代の体を抱きしめる姿があった。


「んぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 感じる。

 流斗がメルディを抱きしめる感触が、こちらにも伝わってくる。

 それだけでも酷い嫌悪感を覚えるというのに、更に続けて……この狭い空間に、依代の心の声が反響する。


『暖かいっす』『いい匂いっす』『落ち着くっす』


「やめ、ろ……」


『もっとこうしていたいっす』『もっと頭を撫でて欲しいっす』


「やめろぉ……」


『好き』『嬉しい』『家族になりたい』『愛されたい』


「やめろぉおおぉぉぉぉぉぉっ!! 今すぐっ! この不愉快な心の声をやめろっ!! 黙れっ! 黙れ黙れダマレぇええええええええええええええええええええええっ!」


 ガシャンガシャンガシャン!!

 血が滲むほどに鎖を引きちぎろうとしても、何も変わらない。

 たとえ目を瞑ろうとも、眼の前で繰り広げられる幸せな光景は脳裏に浮かぶ。

 あの男の触れる感触が、触れられた気持ちよさが、幸せな気持ちが溢れて止まらない。


「ああああああああああああああああああっ!!」


 このままでは『理解らせ』られる。

 魔女はそう直感した。

 

 だって、こんなにも……嬉しい。


「違う」


 この男の事が好きだと。


「違う違う違う!!」


 この男を愛していると。


「そんなはずがないのにぃぃぃぃぃぃっ!」


 絶叫。慟哭。

 どれだけ叫んでも、彼女の運命は変わらない。

 

 彼女の生き地獄はまだ始まったばかり。

 さらなる苦しみと、逃れられない強制快楽と強制絶頂が……これからもずっと。

 ずっとずっとずっと続く事を、彼女はまだ知らない。



【選択肢】魔女への理解らせを継続視聴しますか?

・コイツに興味は無いので、さっさとメルディちゅっちゅ


・何勘違いしているんだ? まだオレの理解らせフェイズは終了してないぜ?

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