第10話 ツンデレ武器はヒロインになれますか?

 武道大会への参加を決意し、その開催場所となる街……ガストラを目指す道中。

 俺はふと、ピィに気になる事を訊ねた。


「なぁ、ピィ。今のお前は俺のスキルで擬人化しているんだよな?」


「はい、そうなりますね」


「という事は、その気になればポイントカードにも戻れるのか?」


「ええ、可能だと思いますが」


「そっか。じゃあ、歩くのに疲れたらいつでも言ってくれ。カードに戻れば、財布に入れて運べるわけだから」


「……」


「ピィ?」


「申し訳ありません。出来れば、もう財布に入れられるのはちょっと」


「あっ」


「あそこは暗くて狭くて好きじゃないんです。マスターがお買い物で開いてくれた時だけ、光が差し込むあの場所は……」


 ああ、くそ。俺はなんて馬鹿なんだ。

 ピィの気持ちを何も考えずに……


「ごめん。今のは俺が悪かったよな」


「いえ、気にしないでください。マスターも私を気遣おうとしてくれたわけですし」


「疲れたら俺が抱っこかおんぶして運ぶよ。幸いにも【体力】と【力】は有り余っているわけだし」


「それなら今すぐにでも抱っこして欲しいです。マスターともっと密着したいです」


 ピィは両手を広げ、ぴょんぴょんと跳ねる。

 小さな子が親に抱っこをせがむような動き……可愛い。


「分かったよ。じゃあ、次の街に到着するまでだ」


「はいっ♡」


「ほら、抱えるぞー」


「ぎゅぅー」


 滑り落ちないようにするためか、俺に力強くしがみついてくるピィ。

 俺もそんな彼女をしっかり抱きしめ、道を進んでいくのだった。



【ガストラ近郊 旅の街道】


 ピィを抱っこして道なりに進んでいると、少しずつだが他の通行人達とすれ違うようになってきた。

 中には俺と同じように武道大会への参加を目指している者もいるようで。

いかつい冒険者風の集団が先を歩いているのも見える。


「そろそろ街が近そうだな」


「むぅー」


「しかしそれにしても、みんな物騒な獲物を持っているな」


 見かける冒険者達はもれなく、剣斧槍弓など、様々な武器を持っている。

 俺が宿屋で倒した連中もそうだけど、基本的な武器はやはりこの辺か。


「俺も武器を買っておくべきだったか」


「マスターの強さなら素手でも優勝可能だと思いますよ」


「そうかもしれない。でも、やっぱり油断するのは良くないと思うんだ」


「ですね。せっかく武器適正にも数値が割り振れるんですから、利用しない手はありません」


「そういう事。でも、どの武器がいいかな?」


 ステータスウィンドウにあったのは剣斧槍弓杖の5つ。

 杖は武道大会向きじゃないから却下。

 弓も武道大会のような一対一の戦いには向かないだろうから外すべきか。


「迷いますねぇ。剣で華麗に戦うマスターも、斧で豪快に相手を打ち砕くマスターも、槍で相手を翻弄するマスターも……どれも格好良いです!」


「まぁ、武器屋に行ってから決めればいいか……ん?」


「ぴこーん!」


 俺が答えを一旦保留しようと思った瞬間。

 突然ピィの頭上に電球マークが浮かび上がった。


「どうしたピィ?」


「えっと……インポティ様からのメッセージです」


「インポティからの!?」


 インポティと言えば、神丸スーパーのオーナーにして……俺をこの世界に転生させた女神じゃないか。


「メッセージの内容を伝えます。『中々に楽しんでいるようですね、愚かな人の子よ。私はそんな貴方の姿を、コタツの中でミカンとおせんべいを食べながら楽しんでいます』」


「…………」


「『さて、本題ですが。どうやら武道大会に参加しようと考えているようですね。それは実に面白そうなので、一つ貴方にボーナスキャンペーンを授けましょう』」


「ボーナスキャンペーン……?」


「『内容は簡単。これから貴方は好きな武器適正にポイントを1000割り振りなさい。そうすればその割り振った武器を……女神の加護付きでプレゼントします』」


それはつまり、ポイントで強くなった上に武器まで貰えるって事か。

確かにそれはお得なキャンペーンだと言えよう。


「『話はそれだけです。では、愚かな人の子よ。これからも私を楽しませなさい』」


 そこまで言い終えてから、ピィは苦虫を噛み潰したような顔をする。


「うぅ、言伝とはいえ、マスターを愚かと言うのは気が引けます」


「ははは、気にするなって」


「……はい。それよりもマスター、武器は何を選ばれるのですか?」


「それなんだけど……」


 剣士か斧使いか槍騎士か。

 俺が選ぶべきジョブは……


「斧使いにするよ」


「……斧、ですか?」


 意外だ、という表情で俺の顔を見るピィ。

 彼女はきっと俺が剣を選ぶと思っていたんだろう。


「そう。斧使いってなんだか、カマセってイメージが強いからさ。なんだか、他人事みたいに思えないというか、なんというか」


「ふふっ、マスターらしいですね。私はとてもいいと思いますよ」


「それじゃあ、斧にポイントを割り振ってくれ」


「かしこまりました。武器適正へのポイント配分の申請を承認しました」


 ピィがそう答えるのと同時に、一瞬だけ世界がモノクロに変わる。


「よし、これで俺は斧使いに……んっ? おわっ!?」


 ヒュンヒュンヒュンヒュン……ズゴォーン!!

 世界に色が戻るのと同時に、空から一本の巨大な斧が落下してきて……俺の前髪を掠めて地面へと突き刺さる。


「……あのクソ女神が」


 び、びびってなんかいないからな。

 本当だぞ……うん。


「マスター、コレがインポティ様の言っていたキャンペーン商品でしょうか」


「そうみたいだな。しかしこれまた立派な斧だな」


 山賊が持っているような無骨な斧ではない。

 巨大な両刃に、神々しい装飾の施されたイカつい戦斧。

 というか刃の部分だけでピィの体くらいのサイズはある。


「でかぁ……こんなの、持ち運びが大変そうですよ」


「持つのは簡単だけど、確かにちょっと街を歩く時とかには邪魔になるよな」


 ひとまず斧の柄の部分を握って持ち上げてみる。

 【力】のパラメータが高いおかげか、苦労する事は無かった。


「やっぱり剣にするべきだったかも」


「今更後悔しても遅いですよ」


「それもそうだな。まぁ、上手く運ぶさ」


『その必要は無いわよ』


「……ん?」


「え?」


 どこかから女の子の声が聞こえてきたぞ。

 でも、今この場にいるのは俺とピィだけだ。


『はぁ、どこ見てんのよ。ここよ、ここ。アンタの手の中』


「……まさか」


「この斧が……!?」


 俺とピィが斧に視線を向けると、それに答えるように装飾部の青い宝石がキラリと光る。


『鈍いわね、アンタ達。こんなのとこれから一緒にやっていくなんて、先が思いやられるわ』


「もしかして、君にも意思があるのか」


『はぁ? そんなの見れば分かるでしょ? バカじゃない?』


「ちょっと貴方!! 私の大切なマスターに……!」


『ガキは黙ってなさいよ』


「誰がガキですか!! 私はもうマスターの赤ちゃんだって産めます!!!」


「いやいやいや、産ませないよ!? 産ませないからね!?」


 斧と口喧嘩を始めたピィの爆弾発言を諌めつつ、俺は斧に話しかける。


「気付かなくてごめん。俺は流斗で、こっちはピィ。これからよろしくな」


『…………』


「オイゴルァ!! マスターが話しかけてるじゃろがいっ! ちゃんと挨拶せんと奥歯ガタガタ言わせたるぞ!!!」


「どうどうどう。ピィ、落ち着いて」


『……だってアタシ、まだ名前が無いもん』


「そうだよね、何度もごめん。えっと、俺が名前を決めてもいいかな?」


『ふーん……好きにすれば?』


「待って下さいマスター!! こんな斧如きにマスターがわざわざ名前を付けてあげる必要はありません!! 私が代わりに考えます!!」


『はぁ!? なんでアンタが出てくるのよ!!』


「うるさい!! マスターに名付けてもらうのは私だけの特権なんですー!!!」


『意味分かんない!! 関係ないカードは引っ込んでなさいよ!!』


 ギャーギャーギャーギャー。

 斧とポイントカードが激しく口論を繰り広げていく。

 まぁ、ピィが嫉妬する気持ちは分からないでもないが……


「ピィ、この子はまだ生まれたばかりなんだよ。先輩として……ううん、お姉さんとして優しくしてあげなきゃ駄目だよ」


「マスター……はい、分かりました」


「ありがとう。ピィは本当に優しくて良い子だ」


「えへへへ……♪」


『……チッ、鬱陶しいわねぇ』


「さて。じゃあ君の名前をこれから決めるよ」


『なんだっていいわよ。どうせアンタみたいな奴にセンスの良い名前なんて思いつけるわけがないんだから』


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぅっ! またマスターの悪口を……!」


「斧、オノ、アックス……うーむ」


「(こんな斧如き、適当な名前で十分です。マスターは多分、私より凝った名前は考えないはず。斧……オーとかおののこまち、おのののか、その辺が妥当でしょう)」


「……ルディスっていうのはどうかな?」


『……!!』


「ほわ……?」


『ふ、ふぅん? まぁ、中々の響きね……一応、理由を聞いてもいい?』


「ああ。バルディッシュと、アックスを合わせたんだ。それと君の勝ち気な態度と、ルディスという言葉の感じがピッタリかなって」


「ほ、ほわわぁ……?」


『……いいわ。及第点を上げる。これからアタシはルディスよ』


「ああ、よろしくなルディス」


「な、なんでぇ……? え? なんでぇ……? うぅ、こんなのやらぁ……」


「ピィ?」


 いつの間にか涙目になっていたピィが、俺の服をぐいぐいと引っ張っている。


「どぼじででずがぁ……わだじのどきどぢがぅ……ぢがうのぉ……!! まずだぁ、あんぢょくでじだぁ……わだじのなまえ、びねっでながったぁ……!」


『ハッ、いいじゃない。アンタも素敵な名前よ、ピィちゃん』


「びぇぁああああああああああああああああっ!!! まずだーどられぢゃうのやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ええっ……?」


 これはなんだか、非常に厄介な展開になってまいりました。



<<安藤流斗>>

【レベル0】

【体力】3001

【力】1001

【技】1001

【速度】1001

【防御】3001

【魔力】1

【幸運】1000 

【魅力】3001

【武器適正】

・剣 1(G)

・斧 1001(SSS) ←NEW!!

・槍 1(G)

・弓 1(G)

・杖 1(G)

【所持スキル】

・カード擬人化(20000P)

(ポイントカードに肉体を与える事が出来る)

・アックス擬人化(0P) ←NEW!!

(斧に肉体を与える事が出来る)

【残ステータス・スキルポイント】65999

【所持金】

・約115万ゲリオン(1ゲリオン=2円)

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