あなたは、いないけれど…ぼくは、君たちの側にいるよ

4年後

家の階下から、車のクラクションの音は響く。

母さんが「岬、おばさん来たわよ。顔見せてくれるようになって本当によかったわ。慎重にね」と教科書や何やら入ったカバンを持って先に車に積んでくれる。

「おはよう、岬ちゃんちょっとみない間にまたお腹大きくなったわね」と林二の母はうれしそうに見つめる。

母さんと父さんが車を見送ってくれて大学へと、急ぐ。



少し経ってから、運転席のおばさんが話だした。

私ね、夫に浮気されて離婚された時とても悔しかったの。

でも林二が岬ちゃん兄弟のおかげで大学に受かった時に、夫を見返した気がしたの。夫なんていなくても、立派に私たち生活していけるわって。なのにそれから交通事故で林二がなくなって、取り残された私が全部悪いきがしてた。もう生きてることさえつらくなっていた。

あなたの気持ちも、分かってあげる余裕もなかった。でもあなたのお腹に林二の子がいるってわかって、大学に臨月まで通い続けるって聞いて一番大変な岬ちゃんが、頑張っているのに私が、こんなんでどうするの?って。少しでも力になれたらとおもって運転手をかってでたのよ。迷惑でなければいいけど。


そんな、とても助かっています。私だって、今だに彼がいないことが信じられなくて。でも、お腹の子は順調に育っているしとにかく目の前のことを一生懸命やるしかないんだって、自分に言い聞かせています。

林二が言った言葉…恋人になって夫婦になって家族になりたいって言ってたのに、肝心のお父さんがこの子を見る前に逝ってしまうなんて…二人共今までに泣きつくしたはずなのに、まだ涙がでるのが不思議なほどだ。


「君たちにはみえないけれど、ぼくはここにいるんだよ」林二は、岬の隣にいた。そして、二人の会話を聞いて寂しく微笑む。

僕は、交通事故で死んでから俗に言われている魂になった。あまりにも急すぎて理解できなかったため、ずっと岬や母のいる場所から離れられなかった。あれからずっと悲しかったし、寂しかった。

何よりも、こんなに近くにいても思いが届かないことが。

日が経つにつれ、少しずつ母も岬も家の中に籠って泣いてばかりいたのが外にでるようになり、周囲の人とも会話をするようになった。

だから

僕もそろそろ僕の居場所へ行こうと思うんだ。


ありがとう。僕の母、岬、岬の家族そしてまだ見ぬ僕の子ども。












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