第3話 2月に入って

いつものように帰宅して、自分の家が見える距離に近づいて来たとき。隣の家が、ふと気になった。今まで見えていてもこんなに改めてみることもなかった。4件の分譲住宅の左端に私んち、そして屋根の形状と玄関のデザインが私の家とは少し変わった

お隣が林二の家、表札の秋田の文字が目に映る。まえに林二のお母さんが、表札の文字のデザインを旦那さんの候補の漢字から、ローマ字に変えてもらったと話してくれたことがある。少し年期は入ってきたけれど洒落たふいんきは健在だ。

 

あまりに仲良くなりすぎて何をみても思い出はつのる。アルバムの写真なんて何百枚あるだろうか。気持ちがこみあがり過ぎて、涙が出てきた。嫌だ、なんで…。


「おい、ひとんちの前で泣かんでくれる?俺、入りづらいんだけど。」えっ、聞き覚えのある声に振り返るといつもの林二の顔が涙でぼやけた視界にはいってくる。


嫌だ、泣き顔見られるなんて。思いきり手でふき取りながら「驚かさないでくれる。お母さんに話聞いたから気になって」

「ふーん、心配して泣いてくれっちゃってるんだ」

「茶化さないで、別にあんたの心配してるわけじゃない」


「そうか、もっと話したいけど。今、俺バイトしてるんだ。制服着替えて出かける所」

「あ、そう。バイトしてるんだ。何の?」

「コンビニ、あ、あのさ明日暇か?最近、話してないだろう」

「ごめん、明日はカノンとデート」

「フーン、女同士でかあ?ナンパされるんじゃないぞ」

あんたは私の何ですかって突っ込みをいれたくなったがやめとく。

「と、言うわけだから。またそのうちに」と泣いている所を見られて、わざと照れ隠しにそっけなく言い、玄関に近寄り中に入っていく。

背後で「明日6時にメールするから、1時間でも会いたい」と言う林二の声が少しずつ遠のいていく。





 

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